413日目 惑いの夜の学園パーティー(2)

 ……なんて感情をぐっちゃぐちゃにされているところで、私ははたと気付く。

 あれ……? そういえば今日、ゾエ君の声まだ聞いてないな。

 それどころか姿すら見ていない。シャンタちゃんはこんなに近くにいるのに、そのパートナーの彼がいないってどゆこと?

 それこそ本当に、シャンタちゃん剥奪案件なんですけど。


 と思った矢先で、「……っ」と呻き声が響く。しかもなぜか、真下から。

 恐る恐る目線を下げて、私は「ひゃあ」と飛び退いた。そこに膝を折ったゾエ氏が蹲っていたからである。


「生きてて良かった……生きてて良かった……」


 彼はこうべを垂れ滂沱の涙を流しながら、そんな台詞を呪詛のように繰り返していた。こわ。

 ゾエ氏の姿を見て今し方の自身の醜態を顧みるに至った私は、お陰で冷静さを取り戻すことができたのだった。


「うおおおおーーーーっ、シャンタ様最高! シエビビシャンタ尊過ぎる……! これが理想郷ユートピア……! もう俺は帰らない! 一生このパーティーイベントに籠もり、ここで生きていく!」

「あの、ゾエ君、起きて。みんな見てるから」

「ビビアさん、あんたなら分かるだろうこの気持ち……! あんたは俺の同志、最大の理解者! 俺等ここで心中しよう!」

「はいはい、分かった分かった。ほらゾエ君、時間が勿体ないよ。写真も動画もいっぱい撮らなきゃ。ほら起きて」


 撮影会を餌にすることで、私は何とか彼の心を俗世に呼び戻すことに成功した。良かった、メリーバッドエンドルートに引きずり込まれなくて。


 それから私達はイベントゲームのロビーにて、写真や動画を沢山撮った。


 ツインズの服ほど時間はかけてないけど、ゾエ君と私の衣装もちゃんと新調したんだよ。


 ゾエ君のは黒紅くろべに色を基調としたスーツスタイル。

 上着はマント風にアレンジして、シルバーの装飾品でキラキラファンタジーなセレブ感を演出してみた。

 あと二次元メンズにありがちな革製ショーティーグローブなんかも付けてもらっちゃったりして。これは私の趣味です。

 ふふふ、いいじゃんいいじゃん。カッコイイじゃん。


 私のほうは濃紺色のシックなドレスにしたよ。シエルちゃんの輝きをなるべく奪わないようにと過度な装飾は控えつつ、デコルテをレース生地にしたり、スカートのフリル部分だけ花柄の生地を使ったりと、細かいところに拘っております。


 でもって二人とも、パートナーのメインカラーを差し色に取り入れてるんだ。ゾエ君はネクタイや上着の裏地にマゼンタを、私はアクセサリーの宝石やドレスを飾るリボンにシアンを使ってるの。

 こうすることにより、引き立て役としての仕事を全うしつつもぐんと華のある装いになるし、シエシャンとのお揃いコーデも達成できるという、一石二鳥の計らいなのだ。


 私とシエルちゃん、ゾエ君とシャンタちゃんのツーショットが夢のように素敵なのは最早当然。四人揃って並んだところも滅茶苦茶絵になるなあ~!

 グッジョブですわよワタクシ~。


 因みにここは、ゾエ君が建ててくれたパーティーイベント用の個別ルームとなっている。

 だから我々のはしゃぎっぷりを大衆に晒しているわけではないものの、招待されたプレイヤー達は勿論この場所にいて、時には我々に生温い視線を送ってきている。

 そのことに気付いた当初は、慌てて普段のオトナな女性ビビアさんに戻ったんだけれども――――――。


「ああ、だいじょぶだよブティックさん。私達のことは気にしないで、思いきり楽しんじゃって」

「一旦全部発散しとかないと、落ち着いてゲームできないでしょ」

「俺もリルとかみんなの写真撮りたいし。全然、お構いなく」


 ――――――私より数倍オトナな皆さんに、やんわり追い返されてしまった。私、そんなにうきうきそわそわシエルちゃんの写真撮りたい感出してたのかな……。

 まあ私が変な気を遣ってる間にも、ゾエ氏は奇声を発しながら縦横無尽にシエシャン撮影に没頭していた。だからどっちにしろこうなってたとは思うけど。


 寛容な皆さんのお陰で、まずは思う存分シエルちゃんにシャンタちゃん、ゾエ氏との写真を撮ることができたよ。

 その後は他の皆も交えての撮影交流会に移行する。


 予め用意されたデフォルト衣装で来ている人もいたけれど、多くは自分流に着飾ってる人達が多くてすごーく華やかだった。こういう気合入ってるシチュエーションって特に、他人のファッション観察するの楽しいよね~。


 集まったメンツは遠征ガチな人ばっかで、やっぱりちょっと居た堪れない。でもほぼ顔見知りではあったので、そこは不幸中の幸いだったかなーという感想。


 あと内輪でめっちゃ盛り上がるとかじゃなくやたらマイペースな人が結構いたから、それも気持ち的に助かったかもしれない。

 みんながわいわい撮影会に忙しくしてる中、狂々くるるさんとかエルネギーさんとかササとか、滅茶苦茶興味なさそうにタブレット弄ってるんだもん。

 じゃあ気の合う三人で仲良くやってるのかっていうと全くそんなこともなく、それぞれぽつんと暇そうにしてるっていうね。


 あーゆーの見るとちょっと安心するよね。

 独りっていうのは別に、不幸なことでも何でもないのだ。大勢いるところで自分だけ独りっていうのが気まずいんであってさ。


 そんな中、唯一今日改まって自己紹介し合ったのはこの方、[レナ]さんである。

 彼女は硬質でトゲトゲな恐竜っぽい尻尾を持つ、可愛らしい幼女アバターの子だ。ハードな種族にプリティな女の子を合わせるっていうの、なかなかイカしたセンスだよね。


 この個性的な見た目も相まって、私彼女のことは覚えてるんだ。ワンチャン軽く挨拶したこととかもあったのでは?

 っていうのも彼女、今日も私作のドレスで来てくれていることからも分かる通り、うちのお店の常連さんなのだ。それも結構なファン・・・

 って自分で言っちゃうのどうなのとは思うんだけど、だとしてもこの人うちのファンだよねってはっきり言えちゃうくらいにはちゃんとしたファンだったりする。


 リクエストメッセージでこの人の名前を目にすることなんてしょっちゅうだし、新作を出せば必ず買いに来るし、そうでなくとも3日に1回は来店している気がするし、あと可愛いキャラが好きらしく、よくお店に来たNPCやショップスタッフちゃんの写真を撮っていたりする。

 ね? さすがにこれは“ファン”って言ってもいいよね。


 そんなレナさんはしかし自己主張の強いタイプではなく、熱心さを分かりやすく表にだしたりはしない。その代わりなのか何なのか、流れでフレンド登録し合った直後、しれっと数枚の画像、そして動画を送ってきなすった。


「これ、お近付きのしるしにどうぞー」


 見るとそこにはなんと、先ほどのシエシャンと私の絡みが第三者視点で映っているではないか……! これめっちゃありがたいー! 


 私もここに来たときから録画は回してたんだけど、それって私の一人称視点だから私自身の姿は映ってないのね。そこをこのお方、誰に何を言われたわけでもないのに、三人称視点で記録してくださっていたのだ……!

 うわー、うわー、私がシエルちゃんに迎えられているところや、シエルちゃんに腕を取られているところがちゃんと映ってるよー! 一人称視点の動画も臨場感があって素敵だけど、自分のキャラがちゃんと登場してる動画も凄い嬉しい~。


 ――――――こうして私は、大満足で今回のイベントを終えたのでしたとさ。めでたしめでたし。


「ちょっとブティどこ行くの。今からメインゲーム、始めるよ」


 アッハイ。そうでした……。



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