34日目 方程式(表編)

ログイン34日目


 ソーダの効果は歴然だった。特に“キムチって呼ぶ奴絶許(ʘ言ʘ#)”で購入した生地を使って作ると、それがよく分かった。


 というのも素材ごとに定められている取り扱い推奨レベルとやら、これって種類でグレードが異なるのもあるんだけど、それ以外にも品質が関係しているらしい。

 品質が高いと推奨レベルも高く要求されるようだ。そして当然、素材の品質が高く、それを適正に扱えるレベルも備えていれば、完成品の出来もよくなる。


 で、このキムチショップの店主さんは多分、レベルの高い腕のある織り師さんなんだろうね。扱っている生地は品質★4、或いは最高グレードの★5が多く、NPCショップの安い生地や私が染色で合成した生地なんかとは全然違う。


 例えばシエルちゃんの衣装にも使った★5の【ブリッツクロス(`・ω・´)】。現在職業レベル22の私が普通に【裁縫】スキルで【マント】を仕立てると、品質は★2、効果は水属性ダメージ軽減(中)、消耗値は120となる。

しかしこれをソーダ使用の上で仕立てると――――――。



【ブリッツマント】

品質:★★★★★

雷の力を秘めた服。

主な使用法:装着

効果:水属性ダメージ無効

消耗:400/400



 ね? 全然違うでしょ。

 っていうかこれってつまり、私が適正なレベルを持っていればソーダとか使わずとも普通にこのランクの服をばんばん作れるってことよね。

 当たり前なんだけど、いや~、レベル上げって大事ね。


 とまあ、強い服を作れることが楽しくなっちゃって、貴重品だというのにも拘わらず、ついソーダをごくごく飲んであれこれ試行錯誤していた今日この頃。

 私、ちょっと面白いことに気付いてしまったかもしれない。

 先のブリッツマントのデータと比較しつつ、こちらを見てほしい。



【ブリッツビスチェ】

品質:★★★★★

雷の力を秘めた服。

主な使用法:装着

効果:水属性ダメージ無効 敏捷+200 

消耗:400/400

セットボーナス:雷属性のダメージを吸収+消耗値に変換(大)



 注目してほしいのは、効果のところ。先に作ったマントとは違い、このアイテムは『敏捷+200』が付与されている。

 そう、こちらは製図を改造するところから始めて時間をかけて仕立てたものなので、ミラクル・クリエイションが発生したのだ。

 で、他にも二点ソーダを飲んで作ったオリデザ物があるのだけれど、どちらにも効果にミラクリが付いた。つまり、“ソーダ+手間=効果ミラクリ付与確実”の方程式が成立するっぽいんだよね。


 で、さらにさらに興味深いのがこちら。



【ブリッツワンピース】

品質:★★★★★

雷の力を秘めた服。

主な使用法:装着

効果:水属性ダメージ無効 敏捷+200 

消耗:400/400

習得可能スキル:フラッシュ

セットボーナス:雷属性のダメージを吸収+消耗値に変換(大)


フラッシュ:任意発動スキル 消費50 閃光を発し、対象を[盲目]状態にする(範囲・大)



 いちいち衣装の形が違うのは、デザインの段階で時間を稼いでミラクリを誘発するためなので、気にしないでいただきたい。

 セットボーナスが付いているのも、セット物製作中はその間ずっとソーダの効果が続くためミラクリ発生を狙いやすい、という理由だ。こちらも気にしないでいただきたい。


 問題は、七行目――――――そう、習得可能スキルが付いていることである。しかも『敏捷+200』は変わらないため、こちらは先のビスチェよりもさらにランクの高いアイテムと言える。


 何度か他のものを作って実験してみたところ、やはり同じミラクリ付きでも効果のみ付与されるものと、効果とスキル両方が付与されるものとが複数生成されている。

 余談だが現時点ソーダを使っての製作では、スキルのみ付与のミラクリは発生していない。ソーダを飲まない普段の製作では全然あり得るんだけどね。


 それはさておき、何がこうした異なる結果を生んでるのかなって、色々考えてみたわけ。

 そもミラクリ発生の鍵が手間や丁寧さだっていうから、中ミラクルよりもっと時間かければ大ミラクルになるのかな。と思ったんだけど、各アイテムの製造過程を思い起こしてみると、この線はないっぽい。

 で、色々頭を悩ませた結果、私は真理に辿り着いた。これ、素材の違いだ。


 もっとも、先のブリッツクロス三連作を見れば分かる通り、素材の種類自体は多分関係ない。品質も、関係ない。

 関係あるのは多分、素材の・・・製造過程なのだ。


 私の予想はこうだ。このキムチショップの店主さんの製作物には一部、ミラクリが付いているものがある。

 他のショップの生地と比べても相当に凝っていることが分かるので、手間がかかっていることは間違いない。素材のステータスの仕様上外からは分からないけど、恐らく裏ステータスとしてミラクリが存在しているものと見た。


 裏ミラクリが付いていると言える他の理由としては、同じデザインの布地を複数枚――――この方のショップでは大抵5メーターを一枚として販売しているのだけれど――――購入して使用した場合、ある一枚で大ミラクリが発生しても他の同じ生地では中ミラクリしか発生しない、ということが挙げられる。


 これ、私もそうなんだけど、最初の一枚はデザインから始めて製作していかなければならないため、その分ミラクリが発生しやすいってことと関係してると思うんだよね。

 けどそうやって一度仕上げてしまえばレシピ登録ができる。二回目以降はジョブスキルでぽちぽちやってれば、一分もかからずに同じものができてしまうの。


 幾ら作業が好きとはいえ、さすがに全く同じデザインのものを同じ過程で何度も何度もなぞるのはつまらない。そこにショトカスキルがあるんだから、常人はまあ普通にそれ使ってぱぱっと終わらせるよね。

 そうすると必然的に、どう足掻いても二作目以降はミラクリが付かない。


 以上の事柄は、複数の同じ素材を使って服を仕立てた場合、その内の一つにしか大ミラクリは発生しない、という事実と合致している。

 そしてこのことは、加工素材にも裏でミラクリが発生している、という私の仮説を補強するものとなる。


 結論。“ソーダ+手間+裏ミラクリ素材=大ミラクリ確実”の方程式が成立する。

 これでしょ。

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