40日目 病める森(2)

 ――――――それは千年以上も昔の話。


 お師匠様の口からそう紡がれた瞬間、景色が変わった。場面は鬱蒼と生い茂る森の中の小さな集落、それを上空から見ているところで、私自身の姿も消えている。

 どうやらモノローグ動画が再生されているようだ。お師匠様のナレーションと共に、映像が流れていく仕様らしい。


 昔集落にはお師匠様、ギルトアを含むレスティーナの四賢人や、国によって賢人とは認められていないものの同じく始祖世代のマグダラ、そして他にも十数人の仲間が一緒に暮らしていたそうな。

 生活は穏やかで平和で、皆仲がよかった。中でもテファーナ、ギルトア、マグダラ、アンゼローラ、クリフェウスの五人組はよく一緒に行動していて、仕事をしたり、研究したり、遊んだりして、共に時間を過ごしていた。


 マグダラさんは当時から仮面を付けていて、でもしゃがれ声ではなかった。仮面を付けている理由は何てことはない、単なる恥ずかしがりやだからのようだ。


 あのインチキ老婆っぽい喋り方も健在で、それも一種の照れ隠しらしい。ギルトアが仮面を外そうとして、マグダラが「やめてよ!」と素に戻る場面があった。

 余談だがギルトアはこのとき「別にいいじゃないか可愛い顔してるんだから」と言っていてやはりこの二人は恋人未満友達以上のがあるようだがこれは本当に余談はいお疲れ様でした。


 しかし時が流れるにつれて集落の住人達は、それぞれの理想を抱くようになる。その傾向は仲良し五人組にも表れる。

 集落を訪れた旅人に感化されて他所の文化に触れてみたいと思うテファーナ、己の強さを磨きたいと願うアンゼローラ、次第に分裂していく仲間達に一種の恐れを感じて他人との交流を避けるようになったクリフェウス、そしてもっと世界を見てみたいとの志を抱くギルトア。


 他の住人の中には余所者を排斥すべきだと主張する子や、寧ろ余所の集落と合併して力を得るべきだと主張する子など、やや過激な発言も目立ってくる。

 集落の人間関係は段々ぎすぎすしてきた。


 けれどそんなふうに意見が食い違うとしても、全体として彼等は互いを愛し、尊重していた。取返しがつかないほどの衝突が起きる前にと、彼等は敢えて仲間との別離を選ぶことにする。

 そうして集落は一人、また一人と、自然分解の道を辿ることになったのだった。

 そんな中唯一、その離散にこそ異議を唱える者がいた。それがマグダラだった。


「駄目だよ! 行っちゃ嫌だ! 行かないで! テファーナ! アンゼ! クリフェウス……!」


 彼女は自分のキャラ作りも忘れて、集落を去ろうとする仲間を必死に引き止める。このとき叫び過ぎたがために、彼女の美しい声は嗄れてしまう。

 そしてついに集落の住人はギルトアとマグダラの二人きりになってしまった。


 ギルトアはこのまま二人でここに留まっても仕方がないと考えているし、見識を広めたいとも思っている。それでマグダラに「一緒に旅に出よう」と誘うも、彼女は頑なに首を横に振るのだった。


「私はここに残る。私が皆の故郷を守る。皆がいつでも帰ってこれるように」


 揺らがぬ決意を前にして、ギルトアはマグダラを伴うことを諦めた。

 じゃあ、気が変わったらいつでも来てくれ。そう残し、彼も旅立つ。


 マグダラは、来る日も来る日も菜園の手入れや住居の補修などに力を注ぎ、集落の管理に勤しんだ。いつかまた、皆が戻ってきてくれることを信じて。

 彼女の努力のかいあって、村の景色は年月が経っても在りし日とほとんど変わらない。しかし仲間は誰一人帰ってこない。

 孤独と落胆に押し潰されそうになるときもあれど、彼女はめげない。


 ――――――何十年……、いや何百年先だっていい。友達がふと、昔を懐かしく思うときがくるかもしれない。あの頃に戻りたいと思うときがくるかもしれない。そんなときに、帰れる場所があるように……。


 ――――――私が皆の、ホームになる。


 けれどある日、異変が起こる。


 “大変災”。


 のちにそう呼ばれる、世界中に混乱をもたらした自然災害だった。突如沢山の星が、大地の至るところに降り注いだのだ。


 轟音に気付いてマグダラが目を覚ますと、真夜中だというのに、窓からは赤い光が差していた。外に出れば、集落のあちらこちらで炎が上がっている。

 慌てて消火活動に急ぐも、もう何をしても無駄で、それどころか赤い星は次々に村を襲う。共に働き、共に学び、共に遊んできた家が、菜園が、森が、いとも容易く焼けていく。


 マグダラは村の真ん中で立ち尽くし、その手から水の入ったバケツが滑り落ちた。

 涙を流し咆哮する彼女の姿を炎が覆い隠し、次の瞬間、眩い閃光が視界を明滅させた。


 気が付くと、私の前に目を伏せたテファーナお師匠が立っている。モノローグ動画がいつの間にか終わっていて、景色は病める森付近に戻っていた。


 なんか、鼓動がめっちゃどくどく言ってる。

 いきなりの重い展開&リアルな追体験だったもので、びっくりしちゃったよ。ほあー、心臓に悪い。


「星はマグダラのいた村のみならず世界の至るところに降ってきてて、それに伴って津波や地震なんかも引き起こされたから、あのときはもう各地が大混乱だった。それぞれ別の場所にいた私達も、少なからず影響を受けた。でも皆、考えたことは同じだった。私達にとっての一番の気がかりは、互いの安否だった。だから私、ギルトア、クリフェウス、アンゼの四人は故郷に結集したのよ。マグダラが守る故郷に……皮肉なことだけどね……」


 そして再び追想映像が始まる。


 場面は集落手前の森の中で、そこでテファーナ、ギルトア、クリフェウス、アンゼローラが合流する。

 ある程度悲惨な光景を覚悟していた彼等は、村を目にして胸を撫で下ろす。故郷は、大変災を免れていたのだ。

 それどころか村落は、家も工房も菜園もほとんど昔と変わらない姿を保っており、彼等はびっくりする。

 マグダラが、一生懸命世話してくれていたんだ……。皆そんな結論に辿り着くまでに時間はかからず、込み上げる想いを胸に四人はマグダラを捜す。


 当然、観覧者たる私の頭にはあれ?と疑問が浮かぶ。

 マグダラがいたから村の景色が守られていたのは分かるにしても、村は大変災を免れてはいない。先の映像からすると、炎に呑まれ、焼け落ちているはずなのだけれど……。


 私のもやもやした気持ちは余所に、ドラマは進む。

 彼等は村の中心辺りで倒れているマグダラを見つけた。

 四人一斉に駆け寄り、揺さぶったり、声をかけたりするも、彼女の瞼は頑なに閉ざされており、応答はない。

 そしてこの平和な光景の中不自然なことに、彼女の衣服はあちこち焦げており、体は煤を被っていた。僅かに息はしているもののぴくりとも動かず、手足は痩せ細っている。


 ――――――マグダラ……、君はこんなちっぽけな村一つ守るために、“タヴー”を侵したのか……。


 ぽつり、ギルトアが呟くと、皆の間に戦慄が走った。

 次いで流れたお師匠様のナレーションによると、マグダラは【粉骨砕身タヴー】と呼ばれる特殊な力――――臨界の極意ハイスキルを有していたらしい。

 ざっくり説明するとそれは『知識を具現化する能力』で、万能にも近い威力を発揮すると言う。その代償は、過去か、未来を犠牲にすること。


 あれほどまでに故郷、そして仲間との思い出に執着していた彼女が、過去――――記憶――――を手放すほうを選んだとは考えにくい。マグダラは未来を失うほうを選んだのだ。

 それはつまり、エネルギーの前借りのようなものなんだそうな。だから彼女は今、体が衰弱していくのもお構いなしに、滾々と眠りに就いている。


 そしてこの変わらない村と変わり果てたマグダラの姿の対比を見るに、彼女が自分の理想を守るため、凄まじい量のエネルギーを要したことは想像に難くない。

 眠りはしばらくの間、解けはしないだろう。何年何十年、或いは何百年経ったとしても。




******




【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(公式)・遠征クエストについて語る部屋】



[C4cow]

敏捷上げる装備で本来のステの三倍近くまでドーピングしてんのに、速く動けてるかんじがまるでない

バグか?


[リンリン]

ステータス上の敏捷はクールタイムとか回避率に影響するものであって実際の機敏さとは別物だよ

物理的なスピード上げたいんだったらスキルで電光石火とか取るべき


[C4cow]

はーまじかよ

じゃあ遠征行くときの道中の移動時間って乗り物とかで短縮するしかないのか


[名無しさん]

その手のステで道中の移動速度上げられるって感覚が逆に珍しくね?

RPG初心者?


[狂々]

いやその認識が普通になっているのは寧ろメイポ、おっと誰か来たようだ


[くまたん]

あっ(察し


[Itachi]

先手を打って貼っておく

耐久:いわゆる体力。幻獣やトラップによるダメージで減っていき、ゼロになったらゲームオーバー。

持久:スキルを使用するのに必要なエネルギー。

力:護身アビリティ、一部スキルの威力、アイテム装着の可不可等に影響する。

集中:スキルの威力、成功率に影響する。

敏捷:スキルのクールタイム、幻獣の攻撃やトラップに対する回避率等に影響する。

技術:ジョブスキルによって生産、採取されたアイテムの質に影響する。

手際:ジョブスキルによる生産、採取作業の能率、コストに影響する。

発想:ミラクル・クリエイションの効果に影響する。

愛情:???(ミラクリの成功率やラック的なものに影響すると予想されている)


[くるな@復帰勢]

やるやん


[ゆうへい]

有能

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