22日目 NPパーティ(後編)

 右側には、にこにこと楽しそうに歩くミコト君。左側には、半歩遅れてしずしずと付いて来るヴィティちゃん。

 現在私は両手に花状態である。いや、これはこれで嬉しいんだけれども、遠征クエストでNPCどうしの絡みが見られるというあの情報は一体何だったのだろうか……。


 え? コナー氏? 彼はかなり先をたった独りで歩いてるよ。稀に立ち止まって振り返っては、苛立たしげに片足で地面を蹴っている。

 いや私だって怒らせたいわけじゃないんだけど、急げど急げど彼との差は縮まらないんだよね。我々の物理的且つ心の距離は、ゲームシステムにより遠ざけられてる仕様っぽい。


 因みに今は街道を辿って墓フィールドへ向かっているわけだけど、コナー氏は先導、ヴィティちゃんはきょろきょろと警戒しつつ追っかけてくるばかりで、あまり仕事してるかんじはない。

 唯一ミコト君のみ、時折ひとりで街道を外れたかと思えば、にこにこと獲物を手にして帰ってきてくれる。お陰で肉やら毛皮やら、普段私ひとりでは手に入れることのできないアイテムがほっくほくだ。


 他の二人にもミコト君を見習ってほしいところなんだけどな。

 や、でもコナー氏には防衛優先のオーダーをだしてるわけだから、実は私が気付かないだけで何か色々前線で防いでくれてたりするのかな。

 ヴィティちゃんは……うん、墓に着いてからが本番かな!


 さて、進むにつれて、整備されていたはずの石の街道は徐々に劣化や雑草が目立つようになっていき、やがて道はほとんど草木に埋もれるようになってしまった。

 その辺りでBGMが物悲しい民族調の曲に変わる。


 前方に、崩れかかった石造りの小屋が見えてきた。近付いていくと、それは地下へと続く階段を守るために造られた一種の門のようだ。

 【古の王の墓】という文字が視界に浮かんで、ゆっくりとフェードアウトしていく。


 同じく街道を歩いていたはずの他のプレイヤー達はいつの間にか消えている――――余談だがパーティを組んでいるNPCの姿は他プレイヤーには見えない。基本的にデートイベント以外では他プレイヤーとNPCの関わりは見えないようになっている――――。

【静けさの丘】とは違ってこのフィールドはMO仕様――――――個々のパーティごとに挑戦する場所のようだ。


 入口に立っているレスティーナ王国の兵士さんによると、ここは何千年も前に存在した古代の王族のお墓で、レスティーナ王家とは何のゆかりもない遺跡であるとのこと。


 発見されたのは既に盗賊に荒らされた後だった。僅かに残っていた歴史的に価値ある物品も、調査員達により安全な場所に移されている。

 内部には採取や採掘ができる場所もあり、且つ幻獣が棲みついてもいるため、現在はギルド登録をしている探索者に開放しているんだとか。


 さっさと行ってしまったコナーを追いかけるようにして門をくぐり、地下へと続く階段を下りていく。

 空気がひんやりと冷たくなり、少しカビっぽい湿気たにおいがした。石壁に囲まれた通路がずっと続いているが、ところどころに吊り下がる角灯が光を放っているので、視界は確保されている。


「なんだかちょっと怖いなあ」

「大丈夫。僕がビビアを守るよ」


 あまりにリアルな薄気味悪さだったので思わずぼやくと、すぐにミコト君から返答があった。おお、頼もしい。

 とはいえそう言う彼の顔色もなんだかよろしくない。きっ、と表情を引き締めてかっこいいことを言っている割に、結んだ口元が震えている。

 足元のほうで何かが揺れる感触があったので見れば、ヴィティもぷるぷる震えながら私のスカートの端を掴んでいる。


 うーん、これは私がしっかりしなきゃいけない流れだなあ。コナーは相変わらずこっちのことには無頓着だし。

 ……と、思いきや、そのコナーがふいにこちらを振り返った。


「おい。そっち行ったぞ」


 何が? と言葉を発する前に、突然視界がちかちかと紫色に明滅する。え? え? 何? これ。バグった?


「蛇だ!」


 ミコト氏が叫んで、私の足元に剣を突き刺した。その切っ先にはいつの間にか二匹で絡まり合った蛇がいる。

 蛇はやがて動きを止め、塵となって霧散した。代わりに、先の蛇が風化して干からびたかのような物体が現れる。

 ……うわ、抜け殻ってやつ? 恐る恐る触れると、抜け殻は鞄に吸い込まれていった。


 それはそうと、視界の明滅は治まらない。


「大丈夫? ビビア。なんだか苦しそうだよ!」


 わたわたと慌てふためくミコトの横で、ヴィティが手帳に文字を書きつけた。


『解毒薬!』


 あ、そうか、これ毒状態なのか!

 気がつくと、私の耐久値のバーは三分の二あたりまで減っている。私は急いで【解毒薬】を飲んだ。

 でも、そこで一旦気持ちをリセットできたのがよかったみたい。落ち着くと、結構色んなものが見えてくる。

 奥のほうでちょろちょろ蠢いているネズミっぽい幻獣だとか、壁に張り付く黄色い蔦植物だとか、剥がれた石壁の隙間から見え隠れする青く煌めく鉱物だとか。


 不気味なフィールドやNPCパーティの不慣れなシステムに戸惑ってたけど、結局ここでもやることは同じなんだよね。

 毒になったら解毒薬飲んで、耐久値減ったら【ライフジュース】飲めばいいだけ。パーティメンバーの上手な立ち回り方とかは、とりあえず脇に置いておくことにしよう。


 手始めに私は、壁をびっしり覆う黄色い蔦植物の採取から取り組むことにした。




******




【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(非公式)・初心者の質問に最長二行で答える部屋・独断と偏見・礼レス不要・ボランティア・0時まで・あとはgkr】



[De@声かけお気軽に]

喧騒の密林ってレベル20~、ミコトと二人のNPパじゃきついですか


[イーフィ]

ボスを狩る気でなけりゃ余裕

なおシラハエスタート前提の話


[luna]

デスペナある?


[イーフィ]

レベル1下がる

NPパだと好感度も下がる


[コハク]

ビャクヤで会えるお勧め顧客キャラおせーて


[イーフィ]

ミコトとオルカ


[みき(σ≧∀≦)σしゃん]

転職ってどのタイミングでできます?


[イーフィ]

カンストかリセット


[コハク]

えっミコトってレスティンじゃないの?


[イーフィ]

レスティンでも会えるしビャクヤでも会える

複数の国とか町を兼任してるキャラは割といる


[炒める]

初NPパでディルカって子来たけど有能?

パートナーシップ目指すべき?


[イーフィ]

有能だがハイスキルの仕様上育成の手間がかかる

時間があるなら育てて損はない


[れじぇんど]

仕立屋の型紙って基本自前で作らなきゃならんの?

転写作業とか気が狂いそうになるんだけど


[イーフィ]

製図スキルを図書館で引き当てろ

もしくはNPCのクランか工房に製図士がいるから所属すれば描いてもらえる


[mio]

製紙スキルって何の役に立つんでしょうか…


[イーフィ]

紙細工と本が作れる

なお、レシピブックとスキルブックは暇人のエンドコンテンツだから無視していい


[うゆと]

反撃と狩猟ってどう違うの?


[イーフィ]

反撃は幻獣に襲撃されたときに迎え撃つスキル

狩猟は自発的に狩りに行くスキル


[Ao.]

「週末はリアルデートだからログインしない」ってテンプレ的な流れか何かなんですか?

最近談話室でやたらこの台詞見かけるんですけど


[イーフィ]

そう

成就した他人の恋路ほど見るに堪えぬものはなし

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