157日目 老師戦(5)

 若干腑に落ちない感情を抱きつつも、時間はやってきた。

 本日最後の老師戦。私達の戦いが今始まるのだ。


 因みに三戦目の軍配も見事ラーユさんに上がり、反女王派は今のところ三勝無敗、ストレートで勝ち続けている。

 私の気持ちとしては、「このままじゃまずいよ! 流れを変えなきゃ!」っていう張りきりが半分、「ま、今のところ逃走側みんな敗けてるわけだし、私達も敗けたってしょうがないよね」という諦め混じりの安心が半分。要するにコンディションは上々ってところです。


 私達は【アポレノの古城】のバルコニーに転移し、そこから見下ろせる中庭にラーユさんが現れる。

 ラーユさんと私の視線が交差する。彼女の顔色が悪くなったのは気のせいだろうか。


「ブティックさん……」

「ご無沙汰してます、ラーユさん。今日は残念ながら敵どうしですが、正々堂々、マッチを楽しみましょう」

「………………はい」


 何か覚悟を決めたような顔で、重々しく頷くラーユさん。

 あれ? 元気ないのかな。彼女らしくないな。

 怪訝に思うも次の瞬間試合開始の笛が鳴ったもので、すぐにそれどころではなくなった。


「行きましょう!」


 先陣を切るユカさんに続く形で、私達は走りだした。

 逃走側は、マップからスキップドアの位置を確認できるようになっている。まずは単純に一番近いドアを目指すようだ。

 因みに移動の最大速度はステータス等に依らず、基本的には皆一律となっている。[敏捷]値的にも物理的にもうんちな私だけど、そこはちゃんと味方に付いて行けるから安心だ。


 走りながらスキルのバフ掛けも完了したところで、体に微振動が走り、ダメージエフェクトが入った。赤く発光する帯のようなものが私の体をすり抜け、今まさに先頭のユカさんにも届こうというところだ。

 早速きたね、ヒートヘイズサーキュラー……!


「ユカさん!」


 呼びかけると同時にユカさんは勘付いたのか、ひょいとジャンプし、赤いリボンを躱した。おお、意外と軽やかな身のこなし。

 しかしこの中でHHCを回避できたのは彼女のみ。


「ドアが遠くても階層を変えたほうがよかったか? ……まあ、時間の問題だろうし、どっちもどっちか」


 私達は基本固まって動くことを方針としているから、一人でもHHCを食らえば味方全員一気に位置ばれするも同然。もっともそれを承知の上でこの作戦がまだましであると採用しているわけだから、仕方がないんだけどね。

 端から隠れられるとは思っていない。とにかくまずは一点、確実に。

 というわけで追跡者の動きは気にしない方向で、私達は我武者羅にドアを目指して進む。そうしてついに一つ目のドアが見えてきたのだが――――――。


「あっ、ひ、卑怯者……!」


 ――――――なんとドアの前に、赤い服の美女が佇んでいるではないか。どうやら先回りされてしまったようだ。

 ゆらり、と虚ろな顔を上げたラーユさんに、ユカさんがきゃんきゃんと喚いた。


「さすがは悪の女帝ツェツィーリアの腹心、大罪人のラーユといったところですね! 待ち伏せとはまあ、見事に悪役に相応しき姑息な手段に訴えたものです!」


 するとラーユさんの水色の目が、大きく見開かれる。


 ……あれ? もしかして。

 私の胸中に一つの予感が灯った。その予感は、じわ、と彼女の瞳が潤んだ瞬間、確信に変わる。


「……そ、そんなふうに言わなくてもいいじゃないですかあ……!」


 ………………このひと、自分が悪者扱いされることに露骨に傷ついてる……?


 え? 今更? 今更そんなこと思うの?

 ブラックギルドに所属して、ツィーさんの腹心と言われるまで功績上げまくって、密猟者だとか脱獄囚だとかの称号も取得して、それでもなお後ろめたく思う気持ちが、このひとにまだ残ってたっていうの?

 或いはまさかラーユさん……――――――。


「私だって……! 私だって薄々は気付いてましたよ……! やたら変な称号いっぱい付いてくるし! ギルドの人とか他のキャラクターにも嫌われてるっぽいし! 遠征に出るたび大量の警察犬とシャチに追いかけられるし! おかしいなって、思ってましたよ! けど、初めてのVRMMOだったんですもん! きまくら。ってちょっと変な評判あるし、こういうものなのかなって納得しちゃったんですもん! 難易度高いなとは思いつつ頑張れば遊べないことはなかったし、これはこれでやりがいあって楽しかったんですもん! 好きで悪役やってるわけじゃありません! ……けどこうなった以上、しょうがないじゃないですか~~~~!」


 ――――――……やっぱり! 自分がアウトロー系プレイヤーだってこと、最近になるまで分かってなかったんだ~……!


 因みに言葉だけ聞いてると悠長にお話してるように見えるかもしれないけど、この間、ラーユさんもユカさんも攻撃の手を緩めてはいない。勿論、ユカさんを援護している私達もとっても忙しい。


「もう、いいんです! えーそーです! どーせ私は悪者なんです! だから悪者は悪者らしく、思いっきり暴れさせてもらいますよ!」


 吐き捨てたラーユさんの猛攻が始まった。




******




【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(公式)・老師戦について語る部屋】



[すな]

ラーユつんよ


[きいな]

>>狂々

マルモアのみプレイヤーズクランとの兼任可だから


[アラスカ]

こりゃ老師戦で巻き返し図るのは期待できんな

女王派のみんな、観戦はやめてちまちまポイント稼ぐんだ

俺はここで待ってるから


[さくら]

行ってらっしゃい


[2022]

四戦目のメンバー見てから考える


[くまたん]

おw


[universe202]

こwwwれwwwはwww


[ジャガイモ]

負け戦ですね、行ってらっしゃい>>2022


[2022]

いや負けるの承知で目が離せんわw


[((ぼむ))]

ももユカブタキムチて

もしかしてこいつらイベント楽しんでるな?w


[ちょん]

ブティックさんとキムチ参加してたの意外だわ


[リンリン]

白雨の織姫ってキムチの称号見るたびふふってなる


[cafe]

※白雨:夕立、にわか雨


[ロッタ]

つまりお天気屋ってこ…なんでもないです


[とりたまご]

しかしあれだな、老師戦っていうから色々ロックスキル見れるかと思いきや、あんま使わないのな

隠してんのか?


[さくら]

隠す理由もないでしょ

遠征に使えないか普通に使えないかのどっちか


[hyuy@フレ募集中]

大罪人のロックスキルとか凶悪そう


[竹中]

あー…


[(・´з`・)]

ラーユのはねえ…スキルっつーか…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る