157日目 老師戦(4)
続いて私達は、手持ちスキルの情報を共有するフェーズに移る。めぼしいところを挙げるとしたら、こんなかんじだろうか。
ビビア
・必中:任意発動スキル 消費30~ 確実に狙いを定める
・
송사리
・
・精神統一:任意発動スキル 消費30~ 次に発動するスキルの成功率・威力を高める
もも太郎
・
yuka
・
・ヒーロー見参:任意発動スキル 消費10 味方のいる地点に転移する
ひえー、みんなルビ付きスキル惜しげもなく公表しちゃってるよ。これは私も自分のロックスキルを明かさなきゃいけない流れかな。
と思いきや、もも君の【八方美人】はただのハイスキルであるらしい。
「僕のロックスキルは遠征に役立つものじゃないから、触れないでおくよ」
とのことだ。
じゃあ私も伏せさせていただこーっと。遠征に役立つものじゃありませんからあ。
それはともかくとして、このスキル情報はもも君のやる気を一割ほど上げてくれた模様。挙げられたスキルをマルチタブレットに書き留めていたらしき彼は、システムパネルを睨んで考え込む。
「そうだな。やっぱりヒートヘイズサーキュラーが厄介過ぎるから、分散して動くことにはあまりメリットがないように思える。それよりもさっきのパーティみたくできるだけ固まって、協力して鬼の気を引きつつ、誰か一人をスキップドアに逃がすほうがいいんじゃないかな。どう?」
「はい! 異議ありません!」
「どんな策であろうと全力で悪に立ち向かうのみです」
「……いいと思います」
「……君達、ちゃんと考えてね? 言っておくけど僕は商人プレイヤー。マッチクエストなんて嗜む程度にしかやってない。軍師扱いされても困るから」
そうは言ったって私よりかは頼りになるでしょう。ユカさんは強いんだろうけど脳筋の気があるっぽいし、きーちゃんは自信なさそうに小さくなってるし、ここはもも君の意見を優先せざるを得ないよ。
「……逃げ役はじゃあ、ユカさんにやってもらおうか」
「あら? よいのですか? 私こそ皆さんを守る騎士の役目を担うべきだと思うのですけど」
「まあそうなんだけど、あなた以外全員鈍臭いからあなたしか適任がいない。それにこのルールにおいては【ヒーロー見参】が大分活躍しそうな予感がする。スキップドアは潜るとマップ上の他の地点にランダムで飛ばされる。でもこのスキルによって、味方にすぐ合流できるでしょ? そうして一丸となって鬼を牽制するターン、ユカさんが点を取りに行くターンを交互にこなすのが一番現実的かなって。あなたの負担は大きいだろうけど、まあ、頼りにしてるよ」
その言葉はユカさんの自尊心を心地よくくすぐったようだ。彼女は気持ち鼻の穴を膨らませ、腕を組む。
「あ、あなたがそこまで言うのなら仕方がないですね。いいでしょう、悪魔の大商人。その殊勝な態度に免じて、この場限りあなたの作戦に最大限協力しましょう。ふふ、ブティックさんより授けられし秘伝の妙技、特とご覧遊ばせなのです」
うーん、残念美少女。
でもヒーロー見参気に入ってくれてるんだね。このスキルの活躍が見られるのは私としても嬉しいよ。
正直私、
勿論HHCが私作の習可だとは明かしてませんけど。しーっ、ね。
「で、ブティックさんとキムチ。あなた達は僕が【八方美人】を発動するから、都度【必中】、そして【精神統一】を味方にかけてほしい」
「ふむふむ。つまり八方美人がかかると本来自分のみに発動できるはずだったスキルを他人にかけられる、ってこと?」
「この場合で言うとそういうこと。自分限定のスキルは他人にも使えて、個人を指定して発動するスキルは小範囲スキルに、みたいなかんじで、スキルの指定範囲がちょっとずつ広がる、それが八方美人なんだ」
「なるほど、なるほど」
「で、そうやってバフを重ね掛けした上で、各自アビリティなりダメスキなり使うといいかも。即席の付け焼刃作戦ってかんじだけど、僕が考え付くのはこの程度かな。そろそろ出場時間だしね」
「了解しましたリーダー! 鋭意最善を尽くすであります」
「勝手にリーダーにしないでくれ……」
あ、因みに。そう言ってもも君はユカさんに向き直る。
「【生意気盛り】は基本使わなくていいから」
「え!? どうしてですか!? ヒーロー見参と同じくこちらも私の強力な必殺技ですよ!」
納得いってなさそうなユカさんに、少し考える素振りを見せるもも君。
「『必殺技』だからこそ、だよ。奥の手はここぞというときのために取っておくものだ。相手の意表を突くためにもね」
「む……な、なるほど……。一理あるかもしれません」
ユカさんは神妙な顔で頷いたきり、それ以上反抗することはなかった。
私は心の中で少し感動する。
あのもも君が……! ちょっと大人になってる……!
いやね、ユカさんのロックスキル【生意気盛り】、私の【散傘倍返し】と同じく大分ギャンブルな技だからね。しかも性質上2ターン動作を消費することになるから、失敗のリスクは散傘倍返しより大きい。
折角【八方美人】、【精神統一】、【必中】の重ね掛けで地道に相手の気勢を削ろうっていう方針に纏まったのだ。その目標に明らか反するスキル【生意気盛り】は非効率的であるため控えてほしいと、もも君はそう考えているわけだ。
けど彼はその主張をそのまま相手に押し付けるんじゃなく、ユカさんが受け取りやすい表現に味付けして伝えたんだ。
『馬鹿に勝てない』と凹んでいたあのもも君が……、スペードの3に翻弄されていたあのもも君が……、“プレイヤー”として成長しつつある……!
「……なんか失礼なこと考えてない?」
「いやいや、滅相もない」
じろ、と睨まれ、さっと視線を逸らす私。
あ、でもこうして少しでも、もも君がやる気をだしてくれたんだもの。最後に改めて、これだけ聞いておこうかな。
「もも君、私達の試合、勝率はどれくらいかな」
「え? 0.8割」
――――――下がるんかい!
折角こんなに話し合ったのに! いい作戦も立てたのに!
「うん。状況をしっかり把握して、できることを洗ったうえで、大分ダメそうだなと」
「期待値以下だったの?」
「まあ。ブティックさん、あなた思った以上に献身的な人なんだね。ちょっとは自分のために凶悪な習可溜め込んでると思いきや、まさかこうも全然とは」
へ? ……いや、献身的っていうか、私はただの服作りたい人だからなあ。
ゲームの進行にどうしても必要っていうんならちょっとは頑張るかもしれないけど、そうでない以上自分を強くすることにはあんま興味ないんだよね。今までそのスタンスでやれてこれてるし、別にいいかなって。
それよりもっと、私の製作物で喜んでくれる人の役に立ちたいというか、スキルとかも私より使いこなせる人が持ってたほうが有意義なかんじがするし。
へへ。だから別に献身的とかそんなんじゃあ。
……って、一瞬照れかけたけど、よくよく考えたらこれ褒められてないね? 寧ろディスられてる?
え? 私のせい? 期待値以下だったのは、他でもないこの私?
そりゃないよももくーん!
「上げてもないし下げてもないよ。あとは呆れと安心が少しずつ。まあブティックさんらしくていいんじゃない」
「よく分かんないけど言ってる以上に呆れの比率が多い気がするよ! もも君、私一応やる気はあるんだから。女王派に勝ってほしいって思ってるんだから。他に私にできること何かある? 教えて軍師もも君!」
「だから僕はただの商人」
「じゃあ商人的目線でいいから何かアドバイスを!」
「えー……? ……説得と、交渉」
あ、もも君が私に向ける目付きが、ユカさんに向ける視線と同じかんじになってる。私今面倒臭がられてるね?
「あと僕達が勝つルートがあるとしたら……君達、ラーユ嬢のロックスキル、知ってる?」
もも君の問いに、首を傾げたり横に振ったりする女子三人。彼は苦笑し、独り言ちた。
「ま、レアケの深追いは思考の妨げになるからやめておこう」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます