152日目 ツェツィーリア(後編)

 マルモアレジスタンス――――――そう、先日私がラーユさんの服を仕立てる際、素材として渡されたタペストリーの由来となるワードでもある。どうやら実在?する組織だったらしい。

 っていうかラーユさんが語っていた自身の所属するクラン――――『ブラックギルド』とやらの正式名称が、[マルモアレジスタンス]ということのようだ。


 で、どんな活動をしているのかというと、案の定というか何というか、アウトローなかんじっぽくてね……。主体になっているのは、密猟による素材取引、闇市ブラックバザールの開催、雇われ諜報員としての暗躍……、そんなかんじらしい。

 最近ダナマスにできた雀荘も実はマルモアが経営している、みたいな話もあって、結構身近なところに侵食してきてるっぽい? ひえー。


 本拠地はダナマのようだけど、活動領域は三国すべてに及ぶ国際的なグループなんだとか。要はきまくら。界の悪の組織、みたいなかんじなのかな。

 最終的には儲けた利益で世界征服を目論んでいる、なんて話も耳にしている。

 それでそんなマルモアレジスタンスのリーダーが、『ツェツィーリア』という名前の女性だ、という噂があるんだよね……。


 もっとも町の人達は、それがまさか伝説の大罪人ツェツィーリア本人だとは思っていないみたい。精々が悪の代表格としてその名を使っているんだろう、との認識のようだ。


 けど、私は知っている。

 ブラックギルドに所属しているラーユさんが見せてくれた、ツェツィーリアというキャラクターの姿を。彼女の特徴が、星読みの大罪人ツェツィーリアと酷似していることを。

 後ろで組まれた手首に嵌まる枷。妹であるというシルヴェストによく似た容貌。

 そしてマルモアレジスタンスの象徴とかいうタペストリーで作った服には、【天体観測アストロロギア】なんてスキルが付いた。


 点と点が線で繋がって星座が浮き上がるかのように、独立していたかに思えた様々な知識は繋がって、一人の少女を浮かび上がらせる。

 ――――――うん、間違いない。

 過去のツェツィーリアと、現在のツェツィーリア。星読みのツェツィーリアと、マルモアのツェツィーリア。

 すべては一つだ。彼女こそが、“ツェツィーリア”なのだ。


 それにしてもラーユさんは、こうしたあれこれについて知っているのだろうか。

 NPCからの反応が思わしくないのって、絶対彼女がブラックギルド――――つまり悪の組織に属しちゃってることが関係してるよね。もしかしてラーユさん、ブラックギルドの実態をそもそも把握していなかったり……?

 いや、さすがにそれはないか。さすがにそれはおバカさん過ぎるというものだ。


 ただまあ、ラーユさんが運命の人ツェツィーリアに出会えたのは、紛れもなく彼女がアウトロー街道を突き進んだからこそであるに違いない。今更私が口出しするようなことでもないか。

 結果今彼女は幸せなようだし、めでたしめでたしとしておこう。色んな事実からは目を背けつつ……ね。


 しかしこうなってくると、私の心には一つ、邪念が浮かんでくる。

 ツェツィーリアが誰なのかについて、目途は付いた。それが確かに、きまくら。界に実在するキャラクターであるということも分かっている。

 けど彼女がどこにいるのか、どうやったら会えるのかは分からない。


 最終手段インターネットに助けを求めてはみたものの、これはまだ解明されていない謎らしかった。

 何しろツェツィーリアに会わずともイベントは完走することができ、四賢人からサインを集めれば報酬である【シルヴェストのリボン】も貰えるとのこと。ツェツィーリアに関しては「まだ実装されていないんじゃないか」なんて意見すらでているくらいだ。


 みんなに解き明かせなかった謎を、私が解き明かせるとも思えない。完全に、手詰まり。

 であるならば。伝家の宝刀、お友達フレンド権限に訴えてみてもいいじゃないかな~、なんて下心がね、顔をだしてくるのですよ。

 そんなわけで私はトークを起動する。

 ラーユさーん! 助けてー! せめて……せめてヒントだけでもー!


 すると返信はすぐに来た。

 因みに今日は祝日。私は朝からきまくら。に興じていて、現在午前十時である。

 こんな時間帯で即返事を送ってくるラーユさんのことを思うと……うーん、仲間意識が芽生えてしまうなあ。


 さて、肝心の内容はというと――――――。



[Ra-yu]

ツィー様に会う方法!全然教えますよー!

ブティックさんには元々お世話になってますし、別にそんな気を遣わなくて大丈夫ですから笑(;・∀・)


[Ra-yu]

ただちょっと難しいというか、時間がかかると思うんですよねー

ブラックギルドで功績を上げてかなきゃいけないんですよ

で、ギルドリーダーのツィー様に認められて、呼びだされて、「私直属の部下になりなさい」みたいな流れなんです

そこからは会い放題なんですけど、そこまでが大変だし、そもそも私も何が条件だったのかは厳密には分かっていなくて(´・ω・`)


[Ra-yu]

ツィー様の口ぶりからして多分、

冒険者ランク&職人ランク(これはブラックギルド内のみでの評価らしいですが)がSになったとか、

「前科持ち」「脱獄囚」「賞金首」の称号だとかそこら辺若しくはそのすべてだと思ってるのですが、

これで違ってたら目も当てられないっていうか


[Ra-yu]

もしかしたらもっと簡単な方法もあるのかもしれないんですけど、私が思い当たるのはこの辺でして…

さすがにブティックさん、これを試すのは大変ですよねえ?

あ、勿論それでもやるって言うんなら、お手伝いしますけどね!


[Ra-yu]

それでできるかどうかはやってみないと分からないですが、代替案も考えてみました

話聞いてる限り、ツィー様との仲を深めたいというよりかは、一度でも会えればそれでOKってかんじなんですよね?


[Ra-yu]

でしたらブティックさん、物は試しで、私とPT組みません?

その状態で、一緒にツィー様に会いに行きましょ!

パーソナルイベントは誰かとPT組んでるとメンバー全員で個別モードに入ることもあるし、

ワンチャンそれでツィー様と関われなくもないかも


[Ra-yu]

私今日はこれから用事あるのでログアウトしちゃいますが、主婦なので明日以降は結構予定合わせられると思います~

いかがですか、ブティックさん?



 ――――――いやあ、今日も今日とてラーユさん、聞いていいようなよくないような情報が、ざっくざっくと溢れてくるなあ……。

 けど、この申し出は素直にありがたい。ブラックギルドで功績上げるとか、明らかヤバそうな称号集めるとか、できるできない以前にやろうという気持ちにならないもんね。

 大多数キャラの好感度を犠牲にしてツェツィーリアの好感のみ取りに行くというプレーイングは、私のような小心者じゃあ手が伸びないよ……。


 というわけで、私はラーユさんのご厚意に乗っからせていただくことに決めた。ダメだったらツィーさんとはご縁がなかったということで、大人しく四人分のサインで満足しようと思う。

 約束は明日の夜だ。さあ、どうなるかな~。

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