65日目 お任せデート(1)

ログイン65日目


 本日は土曜日。華金恒例夜更かしの誘惑を無事打ち負かし、現在時刻は朝の6:30。

 今日はいよいよ、待ちに待ったお任せデートの日である。


 お任せデート自体は個別モードになるから、誰の目を気にする必要もない。ただ、シナリオはそんなに長くはなくて、スクショ等撮りながらゆっくり遊んでも一時間くらいは余るんだって。

 余った時間は従来のフリーモードになるらしいから、だとしたらやはりひと気の少ない朝がよい。そう考えて、頑張って早起きした次第である。


 ログインすると、早速裏口のノッカーが叩かれた。私はふんす、と鼻で深呼吸する。

 さあシエルちゃん、君は今日どんなところに連れて行ってくれるのかな? 期待に胸を躍らせながら扉を開くと――――――。


「おはよ、ビビア」


 ――――――カーディガンに、ワンピース姿のシエルちゃん。……と。


「ビビア、おはよー」


 その後ろからひょっこり、色違いの服を纏ったシャンタちゃん。

 シャンタちゃん。シャンタちゃん? ……シャンタちゃん。


 ………………あれ?


「ごめんねえ。シャンタがどうしても付いて来たいって、言って聞かなくって……」

「だって今日は授業ないし、暇なんだもの。別にいいでしょ? 可愛い女の子がもう一人増えたのよ、寧ろ感謝してほしいわ」


 ゾエ氏………………ごめん~~~~~~!!




 一体何がどうしてこうなったのか、私にはさっぱり分からない。


 確かにシャンタちゃんにも【大地の結晶】をプレゼントして、好感度は上げていた。けど、予防策にも万全を期したつもりでいた。

 ゾエ氏にはちゃんと「私、シャンタちゃんにも結晶あげちゃうからね!」と通告を出しておいたし、シャンタちゃんを愛でる分、シエルちゃんのことはより一層贔屓してきた。

 それがまさか、二人と一遍にデートできたなんて……!


 ただ何となく、この事態はかなりのイレギュラーである気はしている。この二人デートって多分、双子キャラであるシエシャン、且つお任せモード限定のレアケースなんじゃないかな。


 だって公式お知らせのお任せデート開放キャラ一覧を見るに、彼女達だけ『・シエルシャンタ』と一括りに表記されていたんだよね。

 ――――――うん、この書き方、気になってはいたんだ。まあ「ネタバレを避けるためなのかな~」と見過ごしていたんだけど……どうやらそれだけではなかったようだ。


「着いたわよ、ビビア」


 うだうだ考えているところを、シエルちゃんの一声で現実に引き戻される。

 今私達は馬車の中にいる。「とりあえずまずは、うちの屋敷にご招待してあげる」とのたまう彼女に導かれるまま、レスティンの街を移動してきたところだ。


 私は気持ちを落ち着け、結論の出ない問答を一旦振り払うことにする。

 ええい、二人来てしまったものは仕方がない。素直に考えれば、シエルちゃんに加えシャンタちゃんとも遊べるというのは嬉しいことに違いないのだ。

 今はとにかくデートイベントを楽しもう。悩むのはすべてが終わった後でよし。


 そう決めて、私は馬車を降りた。初めての貴族街である。

 因みに昨日レベルが50に到達したところなので、丁度私もこの場所への立ち入りが開放されたところだ。まあこれは行動が制限されているイベントだし、レベルが低かったとしても特例で入れただろうけど。


 そう、シエルちゃん達って貴族のお嬢様なんだよね。立ち居振る舞いが気さくだし、身なりもお洒落が好きな普通の女の子ってかんじだから、つい忘れがちになっちゃうんだ。


 男爵家らしいし、そこまでお金持ちじゃないのかな? 何ならこの国におけるお貴族様の設定って、私が想像してるようなばりばりの上流階級とは勝手が違うのかな?

 と、そんな疑問すら浮かんでいたのだけれど、目の前に聳え立つお屋敷はばりばりもばりばりの豪邸であった。

 繊細な意匠を取り入れたアーチ窓や、風見鶏をいただく尖塔が美しい。


 レスティンは中世っぽい武骨な石造りの街並みにスチームパンクを混ぜたような雰囲気がある。そういった景観に程よく溶け込みつつも、この館には近世寄りの、やや垢抜けた印象を受けた。


 出迎えてくれた使用人の方も、所作の綺麗なちゃんとしたメイドさんだった。こうなってくると益々、現代町娘に近い格好をしている双子のお嬢様が異質なかんじがしてくる。

 まあきまくら。って結構世界観カオスなところがあるから、気にしたら負けなのかもしれないけど。


 柔和そうな青灰色の瞳を持つメイドさんは、自身をルフィナと名乗った。


「あなたがビビアさん? 二人からいつも話を聞いてます。仲良くしてくれてありがとう」

「ちょっとルフィナ、違うわよ。私達のほうが仲良くしてあげてるの」

「ビビアのお店、最近は調子いいみたいだけど、はじめの頃は全然ぱっとしなかったんだから。流行ったのって多分、私達がさくら代わりになってあげたからよ」

「こーら。そんなこと言ってはいけませんよ。聞けばビビアさんは賢人テファーナ様のお弟子さんだと言うじゃありませんか。元より素晴らしい才能をお持ちなのですよ。ビビアさん? 口の悪いお嬢様方でごめんなさいね? 本当はあなたのこと大好きで、とっても尊敬しているんですよ」


 ルフィナさんは使用人といえど、双子達とかなり親しい間柄のようだ。二人は窘められて口を尖らせているけれど、そういったちょっとした仕草にもルフィナさんに対する信頼が見て取れて、微笑ましい。

 そんなやり取りをしていると、今度はシエルちゃん達と同じ牛角うしつのの紳士が広間を横切る。イケメンなんだけど目の下の隈が玉に瑕な彼は、私達に気付いて足を止めた。


「おや、お友達かね? シエル、シャンタ」

「パパ!」

「帰ってたの?」


 嬉しそうに駆け寄るツインズ。『パパ』ということは、この人がシエルちゃん達のお父さんで、この館の主でもある男爵なんだろう。


 ヘルマン・エドヴィーシュと名乗るこの紳士もこちらに対して友好的で、私はほっと胸を撫で下ろした。

 いや、考えてみれば貴族のお嬢様に私みたいな平民仕立屋娘の友達って、普通煙たがられそうだな、と。でもこの屋敷の人達は、全然そんなこと気にしてないみたい。

 ただエドヴィーシュ卿はとても忙しそうで、挨拶もそこそこに出かけてしまった。シエルちゃん達は寂しそうに拗ねている。




******




【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(公式)・総合】



[YTYT]

マンボスはアイテムとか装備で対策するよりフィールド再構築したほうが早いまである

相性のいいメンバーが全員揃うまで野良ガチャ繰り返すのと、脳死で延々と整地作業するの、どっちが楽かって話


[いりす]

イカれ大工は今日もイカれているのである(^ω^)


[ナルティーク]

わたわたって国宝だったよな?

おまえもブティックさん並みに集荷生み出してたりするのか?

国宝認定されてる奴等って大抵超性能のアイテムは身内にばっか回すもんで、そこら辺の事情が把握できてないんだが


[YTYT]

無理

ブティックは異常


[ナルティーク]

やっぱそうなのか…

ないセンスこねくり回して何とか武器とツールのオリデザ頑張ったんだが、

一つにつき一時間を五回繰り返して、ミラクリ発生は三つ、集荷は皆無

虚しい…


[YTYT]

ただ家具とか建築によるミラクリスキルって集荷ではなく時限だから、特装分野の職業とはそもそも勝手が違いそう

建築によるミラクリなんて特に、求められる時間が特装系の数倍あるっぽいし

まあ作業の性質上自然なことではあると思うが


[MSR@SK]

>>ナルティーク

ミラクリって多分時間だけじゃなく工程数も関係してるから、ないセンスこねくり回してること自体無駄だと思う

脳死で点やら線やら足してったほうが意味ありげ

情報屋の検証も一応それで成功してるはしてるし


[ドロップ産制覇する]

情報屋の件に関してはみんな一回集荷が付いただけで持て囃し過ぎ

たった5回だぞ、5回

圧倒的検証不足だろ


[リンリン]

ミラクリの検証なんて不毛だよ

コミュミッション埋めたり何ならカンスト転職でスキル増やしでもするほうがよっぽど有意義


[ナルティーク]

まあそうなんだが、レベルマまでいったし一旦落ち着いてしまった感があってな

転職育成はめんど過ぎるんで話題になってるミラクリでも触ってみるかと


[名無しさん]

そんなこと言ってたらレベルキャップ開放されたで\(^o^)/www


[くまたん]

うわ、マジだw


[陰キャ中です]

さっき転職したばっかなんですけどくたばれ運営


[ナルティーク]

こりゃミラクリ挑戦してるどころじゃねーなw

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