237日目 仲介役(前編)

ログイン237日目


 昨日の調査によって出た結論は、こうである。クイーンビーには、現状会う方法がない。


 っておーーい! それじゃあ話が進まないんだよ~。

 モグマキングによってこんなイベントが発生した以上、なんか、なんかあるでしょ、攻略法!


 そう思った私は、本日再びモグマキングを訪ねることに。特にそこに何かがあるっていう自信もないんだけど、ハクランは調べ尽くしちゃったし、もうこの辺にしか当てがないんだよ~。


 ほら、RPGにしてもアドベンチャーゲームにしても割とあるじゃん。

 ある程度ストーリーを進めた上で始まりの町に戻ると、新たな発見があるとか。時間が経って同じキャラクターに再度話しかけると新しいヒントをくれるとか。


 そんなメタ考察のもとモグマさんに話しかけると、なんと幸いリニューアル展開が! さすが私、シャーロックホームズもびっくりの名推理!


 かくして、モグマ氏は語る。


「もぐ? もぐもぐも? もぐぐもぐ。もんもんも、もぐぐもーも?」

「『何? クイーンビーは人間を嫌って表に出てこない? なら仲介を頼めばいい。人間の言葉は聞かずとも、一族の者の言葉なら耳を傾けるだろう』」


 そして彼は再び背を向け、書き物に集中してしまう。

 えっ、それだけですか? もっとこう、「このアイテムを持っていけ! これでクイーンビーに会えるぞ!」みたいな分かりやすいかんじのを期待してたんですが。


 ちょっとがっかりしつつも、ヒントについて考えてみる。

「仲介を頼む」だとか、「一族の者の言葉なら耳を傾ける」だとか言うけれど、その『一族の者』のほうも聞く耳持ってくれないんだよう。でもやっぱり、【ナイトビーBIG】に間を取り持ってもらえばよいのでは?という私の発想は悪くなかったってことだよね。

 あとはどうやってナイトビーに話を通すのか、そこが問題である。

 ………………うむ。分からん。


 自分のブレーンにはここで見切りをつけることにして、ついに私は最終奥義インターネットに頼ることにしたのだった。まあ結構頑張ったほうでしょう。

 最後まで自分でやり遂げるプライド? ないない。

 気持ちよい範囲で自力で考えて気持ち良い範囲であっさり諦める――――これがエンジョイ勢の極意なのですよ。


 そんなわけで「ナイトビー」とか「クイーンビー」とか「モグマキング」、「手紙」とかで色々検索をかけてみたのだけれど、結果は芳しくなく。


 どうやら「クイーンビーには現状会えない」との認識は、NPCのみならずプレイヤー間でも共通しているようだった。

 ナイトビーも友好度を上げられる幻獣とはみなされていないみたい。職業【獣使い】のジョブスキル【撫でる】や【餌付け】が効果を成さないそうで。

 モグマキングの手紙イベントに至ってはそもそも存在が知られてすらいないみたいだ。ちょっとややこしい手順を踏むことによって発生するモグマ関連のイベントはあるんだけど、今回のやつとはまるで別物なんだよね。


 うーん、八方塞がり。

 と、頭を悩ませながら、今度は画像検索のほうからアプローチをかけていた私の目に、とあるスクショが唐突に飛び込んできた。雑に画面をスクロールしてって、ぼちぼち関係ない写真も増えてきた頃合いのことだ。


 それは三人のきまくら。プレイヤーが映った画像だった。

 中心のピースサインを突き出した女の子の隣に――――――い、いるーーーー! ビッグサイズの蜂型幻獣がいるーーーー!


 ナイトビーとは違うようだ。

 チャームポイントの盾と剣は持っておらず、もっと大きくて、もっとぽってりしてて、もっとふわふわしてる。ナイトビーが凶暴そうなスズメバチを模しているとしたら、こちらのハチさんはクマバチデザインってかんじかなあ。

 顔は虫というより獣系のゆるキャラみたいなかんじで、可愛いの。


 そしてね、加えて驚きなのが、映っている三人のプレイヤーの内の一人が竹中氏なんだよね。後ろにいてちょっと見切れているけど、このぎょろ目が特徴的なアバターに私が作った近衛騎士の衣装、彼に違いない。

 楽しそうな二人の女性プレイヤーとは対照的に、なんだか具合の悪そうな顔をしているのが若干気になるけど。


 まあそれはどうでもいいとして、私は早速該当のページに飛んでみた。画像共有をメインにした大手SNSサイトにて、投稿主はこんな言葉を残している。


『ついにストービーテイム成功! 思えば長い道のりだった…(っω<。) 課長待っててくださいね~~!』


 この子【ストービー】っていうんだ。検索をかけてみると、【喧噪の密林】で現れるかなりレアな幻獣であるとのこと。

 蜂ってだけでクイーンビーとの確たる関連があるわけでもないけれど、今の私にはもうこれくらいしか手がかりがない。私は思いきって、竹中さんに連絡を取ってみることにした。


 長らく接点がなかったものでちょっと緊張するなあ。

 でも竹中氏は先の拠点争奪イベントで、まことちゃんチームのメンバーとして共闘してくれた一人でもあるんだよね。しかもちょんさんに奪われたうちのチェスピースを取り返してくれたのも彼だ。

 丁度いいのでそんなことへのお礼も含めつつ、SNSで写真を見たこと、ストービーについて聞きたいことがある旨をメッセージで送信。すると――――――。



[竹中]

は?(#^ω^)


[竹中]

その件については俺の中ではなかったことになってるんで(#^ω^)



 ――――――なんでこの人キレてんの~~!?

 しかし間を置かずすぐに、通話申請のコールが入る。びくびくしながら通話アイコンをタップすると、竹中氏の低い声が響いた。


『え? 何すか? ストービーが何ですって?』

「やっぱキレてるー!」

『キレてないっすよ。俺キレさしたら大したもんです』


 うるさいなー。まあ、相変わらずお元気そうで何よりである。

 挨拶もそこそこに、私はストービーちゃんをどのように見つけどのように手懐けたのか、私でも連れて歩ける方法はあるか、といったことについて話を伺うことに。


 一応職業【獣使い】でなくても、友好度を上げることにより幻獣を仲間にして連れ歩けることは分かってるんだ。もっとも手懐ける過程で何かしら獣使いのジョブスキルは必要みたいだけどね。

 でも何ならこの機会に、そういったスキルを一個入手しておくのも悪くないかなーって思ってる。

 イベントとかミッションとかでこつこつ貯めた【霧の結晶】が、今12個あるのだ。ジョブスキルだったら一つにつき霧の結晶5個で足りるし、別にいいかなと。



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