48日目 大地の結晶(後編)
「い、いいの……? これを、私に……?」
――――――想像した以上に効果はバツグンで、私はちょっと面食らった。
彼女は顔を上気させて、目はきらきらと輝いている。何なら実際に星屑が瞬くモーションも発動している。
もじもじと抑えてはいるけれど、興奮しているのは一目瞭然であった。こんなシエルちゃん見たことないよ!
普段彼女はちょっとシニカルなところ、達観したようなところがあるだけに、此度の反応はギャップ萌えでしかない。
「ふふ……うふふ……。……もうっ、ビビアったら意地悪さんね。しれっとした顔でこんな大切なもの渡してくるんだもの。ちょおーっとこれは、愛が重いんじゃない? ま、いいわ。受け止めてアゲル」
そう言ってシエルちゃんは照れたようにはにかんだ。
……ぬおおおおおお! 悶絶! 悶絶死しそうだよう……!!
しかしそうやって脳内で転げ回っている最中、私はふと我に返る。
気付いてしまったのだ。素知らぬふりで店内を物色している双子の片割れシャンタちゃんが、チラッチラッ、とこちらに視線を送っていることに……!
僅かに唇を尖らせた表情には、抑えきれない羨望がじわじわと漏れだしてきている。
あ、あ、どうしようどうしよう。私ったらシャンタちゃんがこの場にいることをすっかり度外視していた。そ、そっか、シャンタちゃんにとってもこのアイテムは喉から手が出るほどに魅力的なものなんだね。
結晶はまだまだ余ってるから、彼女にもあげたい。やっぱり、少なくとも一緒にいるときに、双子で扱いに差を付けるのはよくないよね? ね?
話しかけてみれば、シャンタちゃんにもプレゼントできるかなあ。
しかしついつい吹き出しアイコンに伸びていきそうになる手を、脳裏に過ぎるゾエ氏が引き止めた。シエビビ党――――自分で言っててアレだけど――――を掲げシャンタ派に乗り移ったゾエ君、シャンタちゃんの好感度を上げるべくファッションチェックイベントに日々励むゾエ君、誰よりもシャンタちゃんとのデートを切実に求めているゾエ君……。
結果が出ているシエルちゃんはともかくとして、まだまだ未知数のシャンタちゃんに挑戦している人は、恐らく彼だけか、いても極少数……。イベント進行のかんじからして、きっと彼は今、誰よりもシャンタデートに近い男……。
ここで私がシャンタちゃんに大地の結晶をプレゼントしてしまったら、ワンチャン、その保証された勝利に水を差してしまうかもしれない。
それは、顔を知らない誰かさんからシエルちゃんデートを奪うよりも、ずっと罪の重いことに思える。
なんてふうに葛藤していたらば、シエルちゃんはさっと身を翻すではないか。
「じゃあまた来るわね。さ、行きましょシャンタ」
その言葉に応じて、シャンタちゃんも店を後にする姉の背中に続く。去り際、影の差した眼差しをこちらに寄越して――――――。
――――――ぱたん、と扉が閉まった直後、私はトークアプリを開いてゾエ氏にメッセージを送った。
『今後もしシャンタちゃんにプレゼントのチャンスがあったらば、私貰った大地の結晶使いますんで、そこんとこよろしく』
デート権の行方? ゾエ氏の気持ち?
知るか。やがてくるゾエの勝利より、目先のシャンタちゃんの笑顔である。
******
【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(非公式)(鍵付)・クラン[竹取物語(株)]の部屋】
[竹中]
もう嫌だああああ
もう嫌なんだよおおおお
[ファンス]
オッサン今日も元気っすね
[ayumi♪]
主任どうされたんですか?(;´・ω・)
[竹中]
もうブラックモスと睨めっこするのには飽き飽きしてるんだよおおおお
[ピュアホワイト]
(まだブラックモス止まりだったんだ…)
[レティマ]
飽き飽きしてるくらいならいい加減次のステップに行きなさいよ
[ayumi♪]
ロイヤルモスちゃん、行きましょう~♪
[ファンス]
長谷川ちゃん鬼やな
[ピュアホワイト]
ぶっちゃけ今蠱惑のレベル幾つなんです?
[竹中]
…Ⅰ
[ayumi♪]
いち…(^q^)
[レティマ]
怠けるのも大概にして
ストービー仲間にするには最高レベルのⅤ必要なんだからね
[竹中]
無理だよ~~絶対無理だよ~~~~
俺がどんだけ虫嫌いかおまえら知ってんだろ~~~~~
[ファンス]
仕方ないですよ
それだって竹さんが蠱惑持ちだってばらさなければ済んだ話ですし
[レティマ]
そもそもあんたが性懲りもなくデート自慢とかしなければ、マトさんも拗ねて雲隠れしたりしなかったんだからね
誠意を見せなさい誠意を
[ayumi♪]
課長、帰ってきてほしいな~~(´-ω-`)
今回のイベランだって課長がいればもうちょっと上目指せたと思うのにな~~(´-ω-`)
[ファンス]
まあマトさんも随分無茶なこと言うなとは思いましたけどね
よりにもよってストービーをご所望とは
[竹中]
だるぉ!?
しかも俺に!超絶虫嫌いなこの俺に!!
[レティマ]
ビジュアル的観点から言えばストービーなんて全然キュートでいいじゃない
あれは虫というより蜂型のケモノよケモノ
[ayumi♪]
もふもふビッグなミツバチちゃん…
あのしましまふわふわなお腹に顔を埋めたい…( *´艸`)
[竹中]
ひいい想像するだけで身の毛がよだつわ
足が無理なんだよ足が
まんま節足動物なんだよ
[ピュアホワイト]
昆虫の足ってメカっぽくてかっこいいと思う
[竹中]
てか百歩譲ってストービーはいいとして
その前にスキルレベル上げるために他の幻蟲に蠱惑使わなきゃいかんのがまじで拷問
あいつらのメロメロエモートなんてこちとら見たくねーんだよ
[syana]
とりあえずブラックモスはハードル高いのでは?
レディバグとかのほうが幻蟲の中でも愛嬌あってよさげ
[レティマ]
竹はテントウムシが虫の中で一番嫌いなんだって
昔葉っぱの裏で大量のテントウムシがびっしり集まって冬眠してるの目撃しちゃって、以来トラウマらしいよ
[ファンス]
フレイムフライとかスノウウイングは?
物理的に小さいからダメージ少なそう
[竹中]
蠱惑は護身スキルの一種だから、単独じゃ敵対行動取らないあいつらに使っても意味ないんだわ
つまり群れ単位になった奴等には効果あるんだが…分かるな?俺は一種の集合体恐怖症でもあるんだからな?
[ピュアホワイト]
ネムリツムリ
[竹中]
バイ菌いっぱいついてそうでヤダ
[ayumi♪]
…詰んでますね( ´・ω・)
[ファンス]
要するに課長、遠回しに「戻らない」って言ってんじゃないっすか?
[レティマ]
ま、受け取り方は本人次第だわね
マトさん「竹の赴任先はストービーにかかっている」だなんて
[竹中]
チクショオオオオオオ
蠱惑さえ…蠱惑さえなければアアアアアア
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます