405日目 寄り道(2)
それでも、まだ大丈夫。まだ私には手札が残っている。
何せ到着が遅れている最後のメンバーは頼れる私の妹――――リンちゃんなのである!
そう、彼女の職業は獣使い。リンちゃんはこれまで幻獣は元より、自らのクランに属するヨシヲやゾエ君といった大猛獣達の手綱をも握ってきた実力者だ。
きっとリンちゃんの手にかかれば、うずみちゃんを落ち着かせることなんて赤子をあやすより容易い仕事だろう。
って、最後の希望を彼女に託していたんだけれども――――――。
[リンリン]
ごめんブティ
帰り道が渋滞してて間に合わなさそう
[リンリン]
代打でヨシヲ送っとくから、ちょっと待ってて
――――――リンちゃああああーーーーん……!!
私の希望の灯火は、儚く散っていった模様。
違うでしょリンちゃん! そうじゃないでしょ!
来れなくなったのは仕方がないにしても、代打の人選、おかしいでしょ!
こっちは優秀な猛獣使いが助けに来てくれると期待してたのに、どうして自分の代わりにさらなる猛獣を送り込んでくるの……!
ここにヨシヲが加わったらもう動物園だよ! サファリパークだよ!
いや分かるよ。しっかり者で気配り屋さんのリンちゃんのことだ。
この連絡が来るまでのラグも併せて考慮するに、勿論彼女は同じクランの他メンバー――――ゾエ君やクドウさんなんかには、既に問い合わせ済みなんだろう。その上で、代打に入れるのがヨシヲしかいなかったんだろう。
でもさ、ヨシヲに頼むくらいならもうちょっとマシな人、周りにいくらでもいたんじゃないのかな。
……まあ我が侭言ってるのは自覚してるさ。ヨシヲがそんなに悪い人間じゃないことも知ってる。
けどこの状況なんだもの。そりゃ取り乱すよ。
私は気持ちを落ち着かせるため、一旦深呼吸する。うずみちゃんはその間も、ぷつぷつ文句を垂れている。
「だって今回挑戦する王の墓はMOフィールドなんですよ。自分達だけで挑むことになるんです。他の誰にも、援護は期待できないんです。それに忘れたとは言わせませんよ。ここ、ビギナーズフィールドなんですから。難易度はパーティメンバーの平均値に設定されるんです。ってなるとレベルだけしこたま積んだ生産プレイヤーなんて、もう最悪じゃないですか。しかも二人も……」
仕方がない。ここは私が頑張るかあ。
せめてヨシヲがやって来てもっとうるさくなる前に、ある程度丸く収められればいいんだけど……。
私は「うずみちゃん、うずみちゃん」となるべく柔らかく呼びかけつつ、彼女を正面から見つめた。
「あなたの言い分ももっともだと思うよ。確かに真面目にクエストクリアを目指すんだったら、もっと編成考えたほうが良かったかもね」
「そうでしょう? だったら、」
「でも今回は私別に、真面目にクエストクリアを目指してるわけじゃないんだ」
うずみちゃんは口を噤む。
「ただうずみちゃんときーちゃんと、楽しく遊べれば良いなって思って計画したの。攻略するって観点で見ると全然効率的じゃないかもしれないけど、私的には問題ないんだ。最悪全滅しちゃったって、やっぱダメだったかーってみんなで笑えればそれでいいの。私にとってのきまくら。って、そういう気楽に遊ぶためのゲームなの。……でもうずみちゃんにとっては違うんだろうね。ごめんね、こっちのペースに付き合わせようとしちゃって。うずみちゃんがダメなら他の人呼ぶから、無理しなくても大丈夫だよ」
僅かな沈黙。のち、彼女は眉尻を下げて俯いた。
「それは……すみません。間違っていたのは私でした」
おお、分かってくれた? と、思いきや。
「雇い主はブティックさんだというのに、出過ぎた真似をしました。そうですね。どんなに非効率的であろうと時間の無駄であろうと、ブティックさんが決めたことなんですもんね。であれば、一介のバイトたる私はそれに従うのみです。私は、使命を帯びた身ですから」
「う、うーん……」
なんっか違うんだよな~。納得して気を静めてくれたのは良いんだけど、なんっか私が伝えたかったこととは違うんだよな~。
それとも、うずみちゃんと仲良くなれる気がするって、ちょっとでも思った私が間違っていたんだろうか。私はエンジョイ勢うずみちゃんはコスパ重視勢ってことで、やっぱり私達、どう足掻いても相容れない立場にいるんだろうか。
「寄り道している暇はないのです」
「寄り道のないゲームなんて、私は嫌だけどなあ」
お互い何となく発したぼやきのようだったけど、これがすべての結論に思えた。きっと私達今、同じ場所に立って、全然違う方向を見てるんだね。
息を吐いたところで、明後日のほうから場違いに暢気な声がかかる。
「うーす。リンに言われて来てやったぞー。感謝して崇め
顔を上げると、金髪ロン毛の美人お兄さんがやたら軽い足取りで歩いてくるところだった。ヨシヲ氏だ。
このタイミングで彼がやって来たことを救いと取るべきか億劫と取るべきか。悩んでいたその時、うずみちゃんが掠れた声を上げる。
「え……お兄ちゃん?」
――――――え……
彼女の言葉をそのまま脳内で繰り返す私は、目を瞬かせた。
私ときーちゃんが見守る中、うずみちゃんは放心した顔で一歩踏み出す。しかしそれ以上はヨシヲに近付くことができなかったようで、その体勢のまま立ち尽くしてしまった。
『お兄ちゃん』と呼ばれたヨシヲのほうも、訝しげな顔でうずみちゃんを見つめる。
「は? 何だおまえ」
「お兄ちゃん……じゃない?」
「………………イズミ?」
どうやら本当に
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