405日目 寄り道(1)


【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(個人用)】



[うずみ]

アトリエとか客間とかがあるんだけどね、そっちの内装もお洒落なんだ

基本シンプルでがらんとしてるんだけど、敢えて古びたかんじにしててね

シャビーシック? とかいうのが好きなんだって


[ひばり]

ふーん


[うずみ]

ジョブが大工じゃなくても、生産ヘルプを使うと色々できるらしい

ああいうの見ちゃうと、自分もハウジングやりたくなるよね

キマが貯まったら引っ越そうかな

ああでもその前に借金返さなきゃ


[ひばり]

へー


[うずみ]

服作るところも見せてもらったんだ

凄いんだよ、ブティックさん

「見られるの落ち着かない」とか言ってたくせに、いざ作業に取りかかると私のことなんかそっちのけで集中しちゃって

一時間二時間って、平気で手を動かしてられるの

細かい仕事苦手な私なんかからしたら狂気の沙汰だよ

ああいうの、「ゾーンに入る」って言うんだろうね


[ひばり]

ほー


[うずみ]

んで二時間経った辺りでふと私と目が合ってさ

「うわあっ!」とか言って驚いてるの

私がこの部屋にいること、忘れてたんだって

ヤバいよね


[ひばり]

はあ


[うずみ]

ブティックさんの最推しキャラはシエルとシャンタっていう双子の女の子なんだ

二人でブティックさんの服を着てきたことがあって、めっちゃ可愛かった!

でねでね、その双子の家に遊びに行くって言うから、一緒に連れてってもらったのね

そこに誰がいたと思う?


[ひばり]

ひい


[うずみ]

そう! ヴィティがいたの! びっくり!

ヴィティは時々双子の家で働かせてもらってるんだって

メイド服が似合ってて超可愛かった

(画像)


[ひばり]

ふう


[うずみ]

それとブティックさんにはユキちゃんていうペットがいてさ、


[ひばり]

……あのさ、うずみ


[うずみ]

え、なあに? ひばりちゃん


[ひばり]

君の使命は、どうなった


[うずみ]

も、勿論忘れてないよ

ブティックさんのとこで働きつつ、並行してお兄ちゃんのことも捜してるし


[ひばり]

ふーん

まあ私は別に、そんなことはどうでもいいんだけど


[うずみ]

何だよ、じゃあ何で聞いたんだよ

……ひばりちゃん、何か私に言いたげだね


[ひばり]

いや? ただ最近のうずみ、変わったなって思って


[うずみ]

それって良い意味? 悪い意味?


[ひばり]

どちらかと言えば良い意味かな


[ひばり]

だって寄り道を楽しむのは、悪いことじゃないから


[うずみ]

………………




******




ログイン405日目


 意外や意外、うずみちゃんを時給制アルバイターで雇うことは、そんなに悪いものではなかった。


 というのもこの子、実は結構陰キャに優しい性格をしている。何をするにしても邪魔にはならないのだ。

 基本静かにその場にいるだけでうるさくしないし、こっちに何かを求めてくることもないし、観察に飽きたら勝手にどこかへ消えて独り遊びをしていたりする。本当に猫みたい。

 あまりにも気配がないものだから、生産作業に集中しだしたらそこにいるのも忘れてしまうくらいだ。


 口を開けば可愛くないことばかり言う彼女だけど、口を開く必要のない状況であれば十分お利口さんと言えるんじゃなかろうか。

 しかも「素材が足りないなー」とか「衣装のモデルが欲しいなー」ってときはすぐに対応してくれるし――――勿論何かを頼むときは時給以外にボーナスをあげることにしている――――、「今日は独りでやりたいからバイトはなし!」って言えば、唇を尖らせながらも大人しく帰ってくれる。なかなかに優秀な……というか、言い方は悪いが、私にとって都合の良い助手なのである。


 加えて継続して接していく内に、雰囲気も大分柔らかくなった気がする。

 始めたばかりのゲームで詐欺に遭う、なんて酷い事態に陥っていたのだ。やっぱり動転してたんだろう。

 年相応――――って私の勝手な偏見に基づくものだけど――――の不器用な言動が目立つことはあれど、本来の彼女はそう救いようがないほど気難しい人間ではないようだった。寧ろ素直なタイプと言えるかも。


 うちの内装を見て「ほえー……お洒落ー……」と漏らしたり、部屋の隅っこで体育座りして私が服作りに夢中になってるのを一時間二時間平気で眺めてたり、ツインズとヴィティがきゃっきゃとはしゃぐのを見て顔を上気させたり、ユキちゃんを触りたくてしょうがなくて両手をわきわきさせてたり。


 緊張が解けてくると、彼女はそんなふうに純粋な感情を表に出すようになった。

 もっとも正確に言えば油断・・により漏れてしまう・・・・・・といったところで、本人は隠したいみたいだけど。いるよね、自分の気持ちは表に出さないほうがかっこいい的な考えの人。

 いずれにせよ、とりま口当たりの良いことばっか言って本心を隠す人よりか、よっぽど良い子だと思う。まあ、これは相性や好みの問題もあるだろうけど。


 ってなわけで、いつも真面目にバイト頑張ってくれてるうずみちゃんに、ちょっとした気晴らしをプレゼントしようと考えたの。遠征に連れて行ってあげようと思ったんだ。


 うずみちゃんは職業【狩人】で、借金を抱える以前はばりばりの冒険者として活動していたらしい。【仕立屋】に興味あるだなんて言ってたけど、様子を見るかんじ、やはりインドアよりアウトドアのほうが好きなようだ。

 それで一応「私の遠征を手伝う」という名目でボーナスをあげがてら、彼女には得意分野の遠征をめいっぱい楽しんでもらおうと計画したわけ。「明日は【いにしえの王の墓】に遠足だよー」って伝えたら、うずみちゃん瞳を輝かせていたっけ。


「え? ブティックさんと? 一緒にパーティを組んで? ふ、ふーん、そうですか。別に構いませんよ、ボーナスもいただけるんですもんね。ブティックさんのお手並み拝見とさせていただきますよ。いくらクラフト勢って言ったって、まさか始めて2か月の私より下手なんてことはありませんよね。精々足を引っ張らないことです。……護身具何持ってこっかなー。墓だとボスは地属性だからー……」


 漏れてる漏れてる。可愛くない言動に紛れて、今日も本心がこぼれてるよおー……。

 と、昨日は薄い笑顔を張り付けながら後方腕組みオバハン気分を味わっていたんだけど――――――。


「【織り師】いーーーー!?」

「……あ、はい。織り師の[송사리めだか]と申します。よろしくお願いし、」

「何考えてるんですか、ブティックさん!? 狩人、仕立屋、織り師の編成とか、終わってますよ!」


 ――――――どういうわけか本日。一緒に誘ったきーちゃんを“お世話になってる凄腕織り師プレイヤー”として紹介したらば、出会った当初のごとき毛え逆立てまくりのうずみちゃんが覚醒しちゃったんだよね……。


「おおお落ち着いてうずみちゃん。あと一人、【獣使い】のフレも呼んでるから……」

「だとしてもです! ただでさえ仕立屋なんていう非遠征職のお荷物を抱えてるというのに、その上もう一個お荷物追加だなんて……! 他にフレ、いなかったんですか!?」

「し、失礼だようずみちゃん!」

「びーちゃん、私は別に大丈夫だから……」

「きーちゃ、キムチさんはとっても優しい私の大事な友達なんだよ。だからキムチさんとうずみちゃんとでパーティ組めたら、きっと楽しいだろうなって思って計画したのに」

「おい今なんつったブティックくたばるか」

「そういう問題じゃないです。こんなメンバーじゃ何しに来たのか分かりません。例えばブティックさんが宇宙飛行士だったとして、あなたは仲良しな友達で楽しそうだからって、何の資格も持たないド素人を一緒にロケットに乗せるっていうんですか」

「そ、そこまで深刻な話じゃないでしょ~」


 こんなかんじで、収拾のつかない状況になってしまった。なんかきーちゃんまで怒ってるし。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る