61日目 親切なオジサン

ログイン61日目


 うきうきじれじれしながら週末デートを待つ今日この頃。

 私は一つ、とある問題に直面していた。ずばり単刀直入に言うとそれ即ち、資金繰り問題である。


 勿論現時点での所持金で言えば、私は恐らく同レベル帯の他プレイヤーよりも裕福である。ただね、このままいくと、今の私のプレースタイルは維持できないような気がしてて。

 お店は繁盛しているし、入ってくるお金は多い。けど私って同時に、使うお金も他プレイヤーと比べて多いっぽいんだよね。


 理由は明白で、孤高のぼっちソロプレイを貫いているからである。

 まあ、これはあらゆるゲーム、何ならリアル社会にも共通する当然の事実なんだけど、“ひとり”ってコスパ悪いのよね。


 きまくら。も、例えば遠征で言えば、ソロよりパーティプレーのが断然強くて効率がよい。プレイヤーどうしで協力すれば集まる素材も多くなるし、各フィールドを突破する時間だって大幅に短縮できる。

 一応代替案としてNPパーティなんて機能が用意されてはいるけれど、人間に勝るAIなんて存在しないのである。っていうかそもそも、NPパーティを使うこと自体にお金がかかるシステムだったりするしね。


 そう、遠征ヘルプを雇うお金も、結構馬鹿にならないんだよね。

 初回は一人呼ぶごとに1万キマだったんだけど、最近はレベルが上がったからだろう、価格は一人2万キマと倍に上がっている。フルパーティにするなら三人で6万キマだ。


 それにアイテムに費やすキマも侮れない。

 特に私なんかはNPパーティにおいてディルカちゃんを重用していることもあり、そういった意味でもアイテムには頼らざるを得ない。彼女の特異技【ハイ・アブゾプション】は、食用アイテムをスキルに変換する能力だからね。


 遠征だけでなく生産に使うお金においても、ぼっちは不利だ。

 生産プレイヤーの多くはクランに属して、その中の遠征プレイヤー或いは契約している遠征クランから素材を優遇してもらってるんだとか。

 またレシピや型紙なんかもそういったコミュニティの中で譲り合ったり、安く取引されたりしているらしい。


 だから先日私が半ギレしながらもワールドマーケットで購入した50万のレシピ? あんなの買う人そうそういないんだって。

 対して私はあの後も逸る気持ちを抑えきれず、他にも数点、30~50万キマのレシピブックを購入してしまっている。……そりゃお金も減ってくわけだよね。


 勿論そんなふうに金遣いが荒くても今までやってこれたわけだから、収入においても現状維持を図ることができれば、これからもやっていけるだろう。でもそれが、そうもいかなくなってしまって。

 有り体に言えば、ソーダを切らしてしまったわけだ……。


 あのアイテムって基本、期間限定のイベントでしか貰えないものらしい。

 まあそりゃそうか、レベルを乗り越えて強い素材使えば必ず強いアイテム作れる薬って、生産職にとっちゃ相当チートだものね。そんなもの容易に入手できるようじゃゲーム性崩壊するよね。

 ソーダは低レベルプレイヤーにも束の間の夢を見せてくれるような、お楽しみアイテムってことなんだろうなあ。そして私は、今その束の間の夢が尽きたところ、と。


 私の仕事って結局キムチさん頼みだったりソーダ頼みだったりと、他所任せなところが多かったことを最近噛み締め中。

 所詮私の実力なんてこんなものよな。ぴえん。


 おまけに新発見だったり強力だったりする素材はやはりコミュニティ絡みで取引されることが多く、WMには出回りにくい、あったとしても高額だとか何とか。

 ミラクリに頼らず正攻法で売れるアイテムを作るとなると、今度はそっち方面の壁に突き当たることになる。


 ま、やはりこの辺がぼっちエンジョイ勢の限界ってところなのかもしれない。だからといって今更クランに入ったり交流に精を出す気にもなれないし、こればっかりは慎んで諦めるしかないかなあ。


 クランで必要な物を優遇してもらえるったって、当然タダで貰えるわけじゃないもんね。きっと代わりに優先的に強装備作ってあげたり何かしらのクエストで協力頼まれたりとか、色々あるんだろう。

 私がゲームに求める気楽さとは程遠い。


 あーあ。どっかに無条件でソーダとレシピと素材を格安提供してくれる親切なオジサンいないかな。

 そんな不毛な思考を巡らせているときのことだった。


 ぴゅーい、と鳥の鳴き声が響く。リンリンからのメッセージ通知だった。



[リンリン]

この前もらった衣装セットだけど、なんでまだ店売りに出してないの



 はて? と私は首を傾げる。いや、言葉の意味そのものは分かってるつもりだけど、なぜ彼女が唐突にこんなことを聞いてくるのかが分からなかったのだ。

 おまけにこの文面から、そこはかとなく不機嫌な空気が漂ってくる気がするのは、私の考え過ぎだろうか。

 とりあえず、質問には率直に答えることにする。



[ビビア]

あの衣装、リクエスト依頼用に作ったのを女の子バージョンにアレンジしたやつだって言ってたじゃん?

一応私のスタンスとして、新デザインでリクエスト売りしたやつは4、5日店売りしないことにしてるの

折角いいデザイン提案してもらったんだし、しばらくは一点物感覚で楽しんでもらおうかなって思って

それに自分がリクエストしたものを先に他の誰かが着てたりしたら、ちょっとテンション下がるかもだし

とか言ってリンちゃんにプレゼントしてるわけだけど、まあ別アレンジだし、たった一人の例外だしで、別にいいかなと


[リンリン]

あ、そ


[リンリン]

くたばれ



 びゃーーーーーーーーっ! なんかめっちゃ怒ってる。

 あれでも、ゾエ君の言うところにはきまくら。における『くたばれ』には別の意味合いがあるんだっけか。

 まあさすがに私も最近、気付いてきたしね。妹にツンデレ属性があるってこと。

 も~、リンちゃんったら素直じゃないんだから~。



[ビビア]

いいよ~いつでも


[ビビア]

あ、待ってそれってリアルの話?きまくら。の話?


[リンリン]

は?



 いや、『は?』って言われましても……。

 リンリンとのやり取りはそこで途切れた。なんか取り込み中だったのかな?

 と思いきや、再び通知音が鳴る。



[リンリン]

話変わるけど、ブティと取引したいって言ってる知り合いがいるんだよね



 めっちゃ話変わった。まあいいや。

 取引? つまり服を仕立ててもらいたいとかそういう?



[リンリン]

いや、どっちかっていうと寧ろ買い取ってもらいたい的な

本人曰く「定期的に売買交渉をさせてもらいたい」だとか


[ビビア]

んー?

なんか正直めんどくさそうだな…


[リンリン]

まあブティならそう言うよね


[ビビア]

具体的な内容とかって分かんないの?

その人は私に何を売ろうとしてんの?


[リンリン]

本人からのメッセ↓


[リンリン]

①ソーダの安価提供

②レシピ、素材等の安価提供

③経営コンサルティング(価格・商品に関するアドバイス)

以上一つでも関心ある項目がありましたら当方まで連絡ください

なおこの取引においてクランへの加入、当方への生産品優遇等、商取引の対価以外でブティックさんに要求する事項は何もありません

ご検討お願いします

クラン≪もも太郎金融≫クランマスター もも太郎



“無条件でソーダとレシピと素材を格安提供してくれる親切なオジサン(?)”――――――いたああああーーーー!?




******




【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(非公式)・他プレイヤーの所持スキルを晒す部屋・自衛第一・防災準備・読み合い上等】



[弐]

怖い話していい?


[ねじコ+]

ダメです


[名無しさん]

いいよ


[影狼]

失せろ


[弐]

ササがさあ、変なスキル使ってきたんよ、近距離攻撃でデコピンみたいなモーションの

ぎょっとしたんだけど効果持久に20のダメージしか入ってなくて「だっせえ」って笑ってたワケ


[陽子@SK]

もう怖い


[ねじコ+]

ヤメテヤメテ


[弐]

けどいずれにせよ見慣れないスキルだなーと思って、次のタイミングで森羅知見使ってみたんだ

したらそれ、「デコピンスマッシュ」って名前のスキルでさ


[明太マヨネーズ]

でこぴんすまっしゅ…?


[弐]

内容はまあいいんだ

成功したら一撃必殺、失敗したらザコみたいなありがちなやつ


[Itachi]

何もよくはないがまあいい

それで?


[ミルクキングダム]

オチ見えたわ


[陽子@SK]

ひえっ


[弐]

情報屋のサイト行ってスキル一覧ページで検索かけた

ハイスキルにもジョブスキルにもサブスキルにも、そんな名前の技は存在しなかった


[椿ひな]

ぎゃーーーー!


[明太マヨネーズ]

ぎゃーーーーーー!!


[ねじコ+]

ぎゃーーーーーーーー!!!

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