131・132日目 環奈(1)

ログイン131日目


 次の新作はどんなのにしよっかなー。

 と、リクエストページを捲っているときのことだった。ふと寄せられたメッセージの、とある名前に目が留まる。



[環奈]

いつも素敵なお洋服作ってくださって、ありがとうございます!

黒と白で色違いの、双子ちゃん衣装が欲しいです

女の子用で、西洋ファンタジーなかんじの

それぞれちょっとした違いがあると嬉しいかも?

黒のほうをハートクロス、白のほうをスピードクロスでお願いしたいです(৹ ˙꒳​˙ )



 これ、リク主、昨日の子だよねえ?

 名前が同じだし、要望の内容も同一人物であることの確信を深めるものだ。ユカさんと二人で、黒白のおそろコス着てたもんね。


 メッセージが届いた日付は三、四日前。

 その場凌ぎのお世辞とかじゃなく、ほんとに私の服のファンでいてくれたんだ。そのことにも嬉しくなる。


 心証がよいだけに、作ってあげたいなーとの思いが私の胸に芽生えている。リクエスト内容もデザイン重視のちゃんとしたもので、やりがいありそう。

 しかし同時に、一点の懸念が心に影を落としているのもまた事実。


 ――――――これ引き受けちゃうと、おまけでユカさんとの接点も作っちゃいそうなのがなあ……。


 双子衣装をご所望ってことは、絶対片方の衣装を自分以外のプレイヤーに着てもらう予定があるってことで、それって99.99%ユカさんなわけでしょ?


 私はユカさんのことはどうでもよくて環奈さんのために服を作ったとして、向こうが同じように考えるとは限らない。

 っていうか今までの傾向的に、多分そうは考えないだろう。昨日会ったときの言動といい昨今送られてくるメッセージといい、いかにもどうにか接点を持ちたいってかんじのぐいぐいくる姿勢だったし。

 それを助長してしまうような行動は避けたいなあ。うーん。


 しばし悩んでいた私は、ふいに閃きを得た。

 いいや、この機会にユカさんのことはブロックしちゃえ。

 気付いてみれば、実にシンプルな結論であった。


 全ブロックはちょっと可哀相かなとも思うので、ショップ利用は許可しておくよ。けど対面形式の接触はNGにしておこう。


 本人にこのことが知れたらショックを与えてしまうだろうか?

 でもね、私思うんだよ。


 昨日のユカさんの様子を改めて頭の中で再生してみる。私の言葉なんて一つも響いてないかんじで、ぺらぺら勢いよく喋り続ける彼女の姿を。

 ぶっちゃけ、ブロックしてようがしてまいが結果は同じでない? 互いの姿が見えてたとしても私の声がユカさんに届くことはないようだし、私もユカさんのよく分からん発言を理解することはないだろうし。

 なんて考えてしまうのは、さすがに皮肉が過ぎるだろうか。


 いずれにせよ、ゲームの人間関係にそこまで気を遣う必要性は感じないのでね。結局はこれに尽きる。

 私はショップの販売ログからユカさんのユーザーコードを探し当て、ていっと対面ブロックを設定した。これで不要な心労を負うことなく、環奈さんのリクエストに取り組むことができる。


 煩い事から解放された私は、晴れやかな気持ちで作業台の椅子に座った。さーてそれじゃ、デザインを考えるところから始めていきましょうかね。


 頭の中に、環奈さんとユカさんが並んでいる姿を思い描いてみる。

 ユカさんも黙っていれば美少女だもんで、実はこの二人、なかなか絵になるモデルさんなんだよね。

 環奈さんのほうが頭半分ほど背が高いから、お姉ちゃんと妹ってイメージ。顔立ちも環奈さんのほうがちょっとだけ大人びたかんじで、ユカさんは幼さの残るキャラクターだった。


 昨日は二人とも、パニエでたっぷり膨らんだ裾の長いドレスを着てたっけ。レース盛り盛りなボンネットが、いかにも近世ヨーロッパの優雅なお嬢様ってかんじだった。

 ログに残っている二人の買い物履歴を見ても、やはりこういうふわふわした女の子らしい衣装が好きみたいね。

 で、リクエスト要素に『ファンタジー』って付け加えているところからすると、単にクラシカルな令嬢っていうんじゃなく、ゲームやアニメキャラクターのような独特のアクセントを期待してるんだろう。


 よし、好みの傾向は大体分かったぞ。これをもとに、二人に似合いそうなデザインを描きだしていこう。




ログイン132日目


 構想が固まり製図の準備も大方できたので、今日は早速製作を開始していこうと思う。


 メインに使うレシピはこちら、【プリンセスドレス】。ウエストきゅっと、スカートぶわっとなワンピースである。

 シエルちゃんの女王コスにも採用したやつだね。汎用性高いから、他にもばりばりに使いまわしてます。


 袖はボリューミーなバルーンスリーブにして、黒いほうは半袖、白いほうは七分袖にする。スカート丈も白を膝上、黒を膝下と、ちょっと変化を持たせて、と。

 あとは装飾で個性をだそうかな。フリルかレースかで分けてみよう。

 ということで、黒ドレスのほうの裾と袖周りに黒レースを、白ドレスのほうの裾と袖には白フリルをあしらうことにした。


 それから【シャツワンピース】の型紙から襟と前立ての製図を引っ張ってきて、足してみる。

 ユカさんも環奈さんも真面目な雰囲気あるし――――ユカさんの場合は「一見」って前置き付くけど――――、クランの名前が『きまくら。改革委員会』なんて名前だし、ちょっと優等生要素入れとこうと思って。

 同じ理由でベストを重ね着させ、首元でタイを結ぶ仕様にした。環奈さんのほうをスタンダードなネクタイ、ユカさんのほうをリボンタイにして、色は両方とも鮮やかなコバルトブルーで。


 さて、あとはファンタジーな味付けをしなきゃね。

 ファンタジーといえば冒険、冒険といえばアクションということで、動きのある楽しい要素を入れとけば大体何とかなると思っているワタクシ。ここはオーバースカートっぽくなるよう、ベストの下に無駄にひらひらと布を縫い付けておこう。

 アクションを派手に魅せるための衣装が、現実的に考えると逆に動きアクションを阻むものだというこの矛盾、実にファンタジーじゃないですか。


 オーバースカートは、敢えて半分のみ覆う形にして、ツイン感を演出しようと思う。白の衣装が左側、黒の衣装が右側で、二人で一つってね。

 裾の長さは思いきって引きずるくらいにしちゃえ。ぱっと見だとマントみたいに。

 めっちゃ動きにくそう、イコールリアルじゃ有り得ない、イコールファンタジー。これで押し切るのだ。

 裏地はタイと同じコバルトブルーにして、華やかさをプラスする。


 これらの衣装セットを環奈さんの要望通り、黒の【ハートクロス(/ ・ω・)/】と白の【スピードクロス٩(*´ω`*)و】メインで仕立てていく。元の素材は【スパイダーエステル】らしく、薄手で艶感のある生地だ。


 足元は【対角牛の革】で黒のほうをブーティ、白のほうをショートブーツに。どっちも王道なレースアップデザイン、ヒールは細く高くして色っぽくしちゃお。


 あとは頭に何か小物を加えたいところ。

 髪は確か、ユカさんが真っ白ストレート、環奈さんがプラチナブロンドでウェーブがかかっていた。どちらもロングヘアで、この前見たかんじでは結ったりせず下ろしていたっけ。


 じゃあ帽子を作ろうか。つばがない、平たい円筒形のシンプルな形のやつ。

 ベレー帽とカンカン帽の形を足して二で割った、みたいな。これ系のデザイン、二次創作ではよく見るんだけど、何ていうんだろうね。

 サイドクラウンには、コバルトブルーのリボンと同色の布で作った造花を幾つか飾って――――――よし、これでコーディネート一式完成。分かりやすく二次元らしい、清楚ヒロインなペア衣装が完成したよ。


 スキルは~……あ、そういえばユカさんが好きそうな“正義”っぽい技、この前見つけたんだっけかな。成功するかどうかは分かんないけど、【必然アルスマグナ】で試してみよ。

 環奈さんのほうはランダムでいいか。


 それじゃこれにて作業終了。



【星影姉妹のドレス(姉)】

品質:★★★★★

ハートクロスで作られた服。

主な使用法:装着

効果:愛情+350 敏捷+350

消耗:520/520

習得可能スキル:アンブラ・アンブレラ

(アンブラ・アンブレラ:任意発動スキル 消費90~ 周囲一帯に黒い雨を降らせ、対象に闇属性ダメージを与える+確率で対象を[毒]、[火傷]状態にする(範囲・大))

セットボーナス:[習得可能スキル:エクリプス]

(エクリプス:任意発動スキル 周囲の幻素を闇属性に変換する(範囲・中))



【星影姉妹のドレス(妹)】

品質:★★★★★

スピードクロスで作られた服。

主な使用法:装着

効果:敏捷+350 [毒]無効

消耗:520/520

習得可能スキル:ヒーロー見参

(ヒーロー見参:任意発動スキル 消費10 味方のいる地点に転移する)

セットボーナス:光属性付与



 そうそう、これが付けたかったんだ、スキル【ヒーロー見参】。いかにも正義の味方ってかんじで、ユカさん喜びそうでしょ?

 成功してよかった。自己満足だけど、これでブロックした罪悪感もちょっとは薄れるってもんよ。


 さてと、早速納品してこよーっと。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る