100日目 ミラクル・クリエイション(3)

「ふふん、ゆうへいさん、私が世間知らずなのをいいことに適当なこと言ってるでしょう。私、自慢じゃないですけどあなたの運営している攻略サイトには随分お世話になっているんですよ。生産に関しても分からないことがあればとりあえずそちらで検索かけるくらいには、ちょくちょく覗いてるんですから。そのあなたのサイトのミラクリに関する記事に、書いてありましたよ! ミラクリにはリアルスキル・・・・・・手作業・・・が欠かせないって」

「はあ」

「それにね、私に最初にミラクリの存在を教えてくれた某竹中さんだって、言ってたんですよ。ミラクリには手作業・・・が必要だと」

「竹中? ……ふむ。まあ確かに、機能としてのスキルがなくともリアルスキル、つまり実際の手作業でそれを補えることは知られているわけですからね。単に露呈していないだけで、実はあなたのような原始的な手法を好むプレイヤーもいなくはないのかもしれません。ですが一般的な見解を述べますと――――――」


 言って彼はもう一度先の検証動画を倍速再生する。そして検証員がペンを片手にアイテムのデザインを調整しているところで、速度を緩めた。


「これが手作業・・・です」


 そして今度はスキル一覧の【シャーリング】、【ギャザー】、【ストレートステッチ】などといった項目を示す。


「これが必要な、リアルスキル・・・・・・です。知識がないといつどの場面どんな順序でこういった技法を使うかも分かりませんからね」


 ぐうの音もでなくなった私は、“ガーン”スタンプを連打して打ちひしがれることしかできなかった。

 そんな……そんな……まさか私が、この私が、きまくら。のスタンダードから外れ時代に取り残された原始人だった、だと……?


「なんでショック受けるんですか。っていうか俺的には、なんで俺がブティックさんを論破する流れになってるのかも謎なんですが」

「だって、ゆうへいさんがやたら喧嘩腰だから……。しかも人を原始人扱いするし……」

「それはまあ、そうなんですけど」


 きえーっ。


「ですが、ことミラクリという分野においては、そのスタンダードたる我々一般ユーザーよりもあなたのほうが強者、真理に近い者であったと、今ここで間違いなく証明されたんですよ。これはブティックさんにとって喜ぶべきことでは?」

「えっと?」

「つまりその原始的な手法こそが、恐らくミラクリ確定の条件だったのだと、俺はそう判断しています。方程式はこう書き換えましょう。“ソーダ+アナログな手間+裏ミラクリ素材=大ミラクリ確実”、と」


 その言葉は、すとんと私の胸に落ちてきた。


 そっか。そうだよね。

 原始人なワタクシとスタンダード一般ユーザーな皆様の間に存在していた、決定的で大きな違い。それが明らかになったということは、ミラクリ確定の条件を突き止めたも同然。

 此度の検証の、本来の目的は達成できたわけだ。


 となると、そこから繋がる悲願達成も、もう目と鼻の先にあるということになる。

 即ちウラクリが存在することの証明、きーちゃんの真価の証明である。

 残した仕事は、もうたったの一つだ。


「広めましょう! ゆうへいさん!」


 私は両の拳を握り締め、彼に詰め寄った。


「この新たに解明できた方程式を、ウラクリの存在を! この情報を、広めましょう!」


 ゆうへい氏は私の目を見つめ、微笑んだ。


「だから、嫌です」

「……んなんでえ!?」


 前のめりになって、よろける私。

 いやね、彼は最初っからそう言ってたわけだし、予想はしてたよ。でもなんかめでたしめでたし風に話が進んでるから、この勢いでそのまま押し切れないかなって思ったんだけど。

 無理でした。


 とはいえ本当に、何で!?

 ビッグニュースじゃん!

 みんなスキル付きが欲しいんでしょ? この方程式があれば付け放題なんだよ。

 絶対売れる情報に違いない。


 しかし興奮する私を残念そうに眺めるゆうへい氏は、静かに首を横に振る。


「なぜならこの件に時間を割くことは、ハイリスクにしてハイコスト、ローリターン或いはノーリターンだからです」


 ウラクリ情報を扱いたくない理由は、大きく分けて四つ。


 一、不確定要素が多いこと。

 二、裏付けを取るのに非常な努力と時間がかかること。

 三、この情報が多くの一般ユーザーにとって価値を持たないこと。

 四、以上の要因により、クランの信頼性やイメージを損なう恐れがあること。


 だそうだ。


 しかしそう言われても、正直私としてはあまりぴんとこない。

 努力と時間がかかるったって、私が普通にできてるんだから私よりずっとガチゲーマーな皆さんならどうってことないと思うんだけど。

 それに多くの人にとって価値を持たない、ですって? 習可アイテムの需要が尽きない以上、絶対そんなことないでしょ。


「あーもー、そっから。分かってたけどそっから、我々とは全然認識が違うんですよ。そしてだからこそこの情報の価値があなたと我々で異なるんですよ。……って、言っても堂々巡りか。いいですか、ブティックさん」


 あなたは異常なんです。ゆうへい氏は目頭を押さえて、ショッキングなことをのたまった。




******




【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(公式)・料理人について語る部屋】



[msky]

(画像)

俺氏の作った韓国風卵かけご飯が美味そう過ぎてだな


[Ra-yu]

タレのかかり具合がいいですね!

って書こうとしたらリアル飯w


[湊]

深夜の飯テロは重罪裁判待ったなし


[明太マヨネーズ]

飯テロほざく奴は料理人部屋に来るな訴訟


[さゆΩ]

因みにこちらが韓国風卵かけご飯きまくら。ver

(画像)

実際のレシピ名は「旨辛卵かけご飯」だけど


[椿ひな]

もうどっちでもいいよ早く食わせて


[ふぁー]

で、そいつはどの派閥から金を毟り取るのに有効なんだい?


[さゆΩ]

こちら、エリン派に需要のあるアイテムとなっております


[陽子@SK]

エリン派とは


[明太マヨネーズ]

そんな派閥はない

したがって需要はない

はい次


[delight]

( ´・ω・)


[ぶどう_]

(画像)

こちら「黄金のカステラ」

オルカに捧げるとこのような反応があります

(動画)


[湊]

おふう


[まことちゃん]

これはよいものだ( ˘ω˘ )


[ぱくぱくJ]

けどそれ作るの結構むずいんだよね

金箔とか入れなきゃならんし材料も手に入りにくい


[水銀]

とはいえオルカ派は根強く活気ある一大勢力だからな

且つ古参にこそ熱心なファンが多い

前向きに検討しよう


[3745]

次は私が

こちら、パラダイスミントティーにございます


[明太マヨネーズ]

可決

はい次


[delight]

( ´・ω・)

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