100日目 ミラクル・クリエイション(4)

「あなたがやっていることは、“ゲーム”ではない。少なくとも我々のような、一般的きまくら。ユーザーにとっては。ゲーマーっていうのはね、楽しく一位を取りたい、無理なく達成感を得たい、そういう連中なんです」

「それは、私だってそうですよ。だからショトカスキルで楽して服が作れるきまくら。、やってます」

「はいはい、あなたにとってはそうなんでしょうね。ですが我々にとってはあなたのやってることは楽ではないんです。苦なんです。無理なんです。努力を伴う作業なんです」


 そこでやっと私は、彼の言わんとしていることを少し理解できた。でも未だ、腑には落ちない。


「……それはじゃあ例えば、情報屋の検証員さん達がやってたようなオリデザアプリを使っての作業よりも、ってことですか?」

「そうです。っていうか生産ガチ勢でもない我々にとっては、あの作業すら楽しくはありません。メンバーの中には『こんなの仕事と変わんねー』って愚痴る奴や、『もう無理』って言って途中でリタイアする奴もいました。あなたの提唱する大ミラクリを実現するのは、その何倍もの根気を要することでしょう」


 そ、そうだったのか……。私は呆然とする。


 なんか悪いことしちゃったな。私、軽い気持ちでかなり重いこと頼んでたんだ……。

 それは、そうだよね。今までの検証でさえそんなに大変だったのに、これからもっと重たい、且つ彼等にとっては手慣れない未知なる検証作業を強いるとか、ほんと、ゲームとは一体、ってかんじだよね。


 多分彼等にとっての大ミラクリ付与作業は、私にとって、ただでさえ苦手なアクションゲーの最終マップを縛りプレイでクリアするまで挑め、なんて言われてるのと同じなんだろうな。

 確かにそれは、作業台の一つや二つ、引っ繰り返したくなる気持ちにもなるだろう。


 そしてゆうへいさんの言葉を真とするならば、多くのユーザーも彼等と同じ認識を持っている、と。である以上、そんな情報役に立つものではない、と。


 ……うん、そうね。私だってガチゲーマーの人から「このゲームの最終マップの縛りプレイでの挑み方」なるものを教授いただけたとして、興味が湧くとは思えない。

 それ絶対あなただからできるんやん。こちとら縛りなしでもクリアできないし、そもそも最終マップまで行けた試しもねんだよ。

 っていうね。


 そうか。そうか……。


「あなたの依頼をお受けできない理由、お分かりいただけたでしょうか」

「はい。余計な時間を取らせてしまって、すみませんでした……」


 きーちゃん素材の真価の証明に至る道は、やむなく閉ざされてしまった――――――かに思えた。


「思ったんですがブティックさん。あなたはどうも、この件から利益を得ようとしているわけではなさそうですね」


 肩を落とす私に、ゆうへい氏はそう声をかける。


「利益? ……ああ、うん、情報の買取をお願いするというよりかは、とにかく広めてほしかったんです。きーちゃんの素材が凄いってこと、知ってほしくて」

「だったら、情報屋うちを介する必要は特にないのでは?」

「え……?」

「その情報を、ご自身で発表すればいいと思うんですけど」


 一瞬納得しかけるも、いや、待って待って。私にそんなインフルエンス力ないって。


 それに、情報のプロであるゆうへいさんがこの仕事を断ったんだよ? 運よく注目を浴びたとしても、無力な一ユーザーに過ぎない私が発表したところで「ウソツキ」って袋叩きにされる未来しか思い浮かばない。

 依頼したおまえが言うなって話だけど、彼の意見を聞いた今、この情報が肯定的に受け止められると考えるのは些か楽観的過ぎるだろう。


 情報屋の皆様にさえ、裏付けを取ることは無理、できたとしても時間の無駄、そう判断されてしまったのだ。だとしたら他に誰が、ウラクリの存在を証明できようか。


「いえ、ですからそれはうちがやるからこそ、利益が絡んでくるからこそのリスクなんですよ。あなた個人が無償でやる分には、そもそも裏付けとか証明とか、必要ないんじゃないですか」

「裏付けが、無用……?」

「我々はクラン情報屋として、情報と引き換えにキマを稼ぐ活動をしています。ご存知のように攻略サイトも運営しており、そこからリアルマネーでの報酬も得ています。対価があるので、提供する情報は信頼できる、有用なものでなければならない。我々を通すからこそ、裏付けが、検証作業が必要になる。でもこれが個人の発言なら?」


 対価を求めない、個人の発言。なるほど。

 いわばそれって、ただの独り言のようなもの?


「勿論言い方、やり方にはある程度注意が必要です。でも例えばあなたがSNSだいあり。で『習可はこの方程式を使えば確実に付くって説を私は推します!』みたいなことを呟くとします。他の誰もその方程式を実現できなかったとしても、その発言を非難する人間が一体どれほどいるでしょう。いたとしても、それははっきり、相手が間違ってますよね。あなたは可能性を提示したに過ぎないのですから」

「そっかあ、確かに。……でもそんなことしたところで、きまくら。界に影響あるとは思えないんですよね。私そもそもSNSやってないし」

「影響ないとは言いきれないと思いますが……しかし、そうですね。ブティックさん、宣伝とか広報とか、自己アピール系苦手そうですもんね」

「うん」


 それについては、全くもって否定しようがない。


「でしたら、そういうの得意そうな奴をひとり、紹介しましょうか。インフルエンサーと言うには若干頼りないですが、まあ、きまくら。においてはそれなりの発言力を持っていると言えます。だいあり。、ひすとりあ。におけるフォロワー数もなかなかのもんですし」

「ほんと!? それはすっごく、ありがたいです」

「その代わり、一つ条件が。今回あなたからいただいた情報――――ミラクリやらウラクリやらに関する事柄については、これでチャラにしてもらえませんかね」

「『チャラ』?」

「迷ってたんですよね。“情報屋”として、この件をどう取り扱うべきか」


 曰く、今回私が提供した情報が凄い発見であるというのは、間違いないとのこと。聞いてしまったからには報酬が発生する。

 しかしそれをキマに換算して価値を付けるとすると、難しいんだって。


 何せ情報屋は仲介業者。人から仕入れた情報を別の人に流すことによって、収益キマを得ている。

 本来ならその収入見込み額から算出して値段設定をするんだそうな。

 それが此度の件はリスクの大きさを考え、情報屋としては売りにださないことを決定してしまった。したがって不良債権を抱え込んだみたいな状況になっちゃったんだって。

 だから私にはキマで支払うんでなく、別のもので支払いたいという、そんなお話だった。


 私からしても、勿論不満はない。当初予定してた計画とはちょっと違う進行になっちゃったけど、まだ道はあるみたいだし、ここまで来たら勢いで突っ切ってしまおう。


 全きまくら。ユーザーに、とは言わない。一割でもいい。

 届け、私のこの想い!




******




【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(公式)・遠征クエストについて語る部屋】



[千鶴]

みんなが言ってる障害物競争が何なのか分かんない


[ピアノ渋滞]

大樹


[송사리]

ヒメカゲタイジュのことだよ


[千鶴]

あ、そゆことかあ


[新築馬]

最近廃人どもが雪原とか遺跡でよろしくやってくれてるからタイジュ過疎り気味でラッキー

パンとかファミリーとかも個人開拓に設定しとけば弾けるし、ぬるゲーにして報酬うまあ

って思ってたらなぜかゾエが単騎で入ってきてオワタわ


[おちゃづけ]

ゾエ最近ソロで活動してるよね


[アラスカ]

ヨシヲもひとりで野良に混ざってくるから困ってる


[おろろ曹長]

>>新築馬

同じこと思った奴いて草

マジいっつもあいつだけ勝手にガチンコRTAしてるよな


[ツクツクロード(実況中)]

結社崩壊wktk

とはいえ結局ちらばってても迷惑案件なんよ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る