101日目 必然(表編)

ログイン101日目


 その後ゆうへいさんとは他の情報の取引なんかも行ったりして、会合は終了した。


 シラハエで取得した称号の話だったり、ステータスの話だったり、他職のアイテムどうしをセットにする方法だったり、チャレンジスキルの話だったり未確認スキルの話だったり、シエルちゃんシャンタちゃんの話だったり、なんか色々聞かれたよ。

 分からないことや答えられないことも沢山あったんだけど、お陰様で知ってること適当に喋ってるだけで1千万以上稼げてしまった。


 ただね、唯一私がアンロックによって取得したスキルの内容、これだけは敢えて伏せることにした。

 というのもスキル【必然アルスマグナ】、こんな能力になってまして。



必然:任意発動スキル 消費:100~ 確率で、過去にミラクル・クリエイションで発生したものと同じ効果を生産物に付与する



 これね、ミラクリ発生条件を達成していると使用可能になるっぽくて、且つ10時間という驚異のクールタイムのため、まだ二回しか試せてはいない。


 けど発動した上で生産すると、スキルやら属性やら状態異常耐性やら、今まで私が付与できたミラクリ効果がずらっと並んで、そこから選べる仕組みになってるの。

 説明文に『確率で』ってあるように絶対ではなくて、二回試行したやつも一回は成功、一回は失敗だった。でも失敗によるマイナス作用とかは持久を消費する以外特になく、本来のミラクリ――――つまりランダム発生に戻るってだけのことだった。


 ――――――こんなん公表しちゃったら、「スキル〇〇が欲しいです!」、「〇〇の付いた服なら何でもいいです!」みたいな雑なリクエストが益々増えるだけじゃんね、っていう。


 勿論このスキル自体は大変便利であるし、いずれ活躍する機会もあるだろう。けど私、ミラクリについて言えばランダムガチャなこの側面を結構気に入ってるのよね。

 ビミョい効果になることも多々あるものの、初めて見る力が付いたりするとテンション上がるし。

 そんなわけで、今はみんなにはヒミツにしておこうと思った次第。まあいずれはばれるだろうけどさ。


 因みにゆうへいさんに聞こうと思ってた木製ポシェットの件。なぜか収納アイテムに分類されちゃったってことと普通の習可ではなく時限習得スキルになっちゃったってことなんだけど、「情報売ってほしいです」って頼んだら「知らねーよ」って一蹴されてしまった……。

 なんかあの人基本物腰低いけど、ふとした拍子にちょいちょい私の扱いが荒くなるよね。情緒不安定なのかしら。


 まあ一応予測できるところはあって、恐らく本来家具やインテリアに分類されるべきレシピを私が無理矢理特装アイテムに改造したことが原因だろう、とのことだった。


 あのアイテム、普通にレシピ通り【工芸】スキルで【小物ケース】を作ってれば、収納機能が付くのは当然のことなんだって。

 時限習得スキルというのも、通常家具や建築物に発生するミラクリ効果だそう。そのアイテムを使ったり、該当する建物や部屋に入ることにより、時間限定で使えるようになるスキル――――――それが“時限習得スキル”だそうな。


 だから小物ケースがこのような性質になるというのは、別にレアケースというわけないらしい。勿論ミラクリ自体は稀だけどね。

 ただしその性質が特装アイテムの性質と合体するというのは、異例なことだった模様。


 なんか、情報のプロなはずなのにゆうへい氏が知らなくて私が知ってること、結構あるんだな~。案外情報屋も大したことなかったのかもな~。

 って一瞬思いかけたけど、それだけきまくら。ワールドが複雑で広大ってことなんだろうね。


 何はさておき取引は無事終わり、一夜明けた本日。

 早速、届いてましたよ。ゆうへい氏に紹介してもらった、きまくら。SNS界の有力者、期待のホープたるお方からのメッセージが。

 ずばりその名は、[3745《ミナシゴ》]さんと言う。


 どっかで聞いたことあるって? そうなんだよね~、私も覚えがあるなあと思ってゆうへいさんに尋ねたら、クラン[国境なき騎士団]のサブマスターだって言うじゃない。

 確かこのクランの団長に妨害プレイヤーから守ってもらったことがあって、そのときミナシゴさんともちょっとだけ話したんだよね。


 しかもこの人、公式動画サイトきまくら。ひすとりあに色々アップしてるって言うから見に行ったらば、何と勝手に私を題材にした動画を出してるっていう。

 シエルちゃんとの初デートで、ゾエ氏と追いかけっこしてるあのショートムービー、犯人は彼女だったらしい。

 再生数は5万まで伸びていて、彼女の動画全体からしてもトップクラスに人気のある作品となっていた。おい。


 まあ公式ルール的には、ゲームに付随する公式コミュニティでのみ、こうした他人の情報を公開することもある程度合法とされているらしい。だから文句は言えないのだけれど、こっちの心証は下がるよね。

 とはいえ同じく彼女が投稿した人気動画、『【MAD】ササ×リンリンで“恋はデリシャス”【疑惑】』で吹いたんでプラマイゼロにはなった。


 昔流行った某少女向けアニメのOPに、ササとリンちゃんが無理矢理合成されてる動画である。ちゃんと歌詞や挿入された台詞通りに精緻に口が動くし、反面著作権を侵害しないよう一から作り直された音源や映像がめっちゃチープだしで、色々破壊力がヤバかった。


 このめちゃくちゃ歌下手な男声ボイス誰……。

『見つめる先にいるのはあ、な、た☆』でリンちゃんが胸の前で手を組むんだけど、指の数がえぐい……。

 白馬に跨るササ、骨格大丈夫か……。

 おまけに運の悪いことに、このときの二人は丁度私の作った【市女笠の衣装セット】をお揃いで着ていて、それがまた異様な世界観を引き立てている。


 ……あれ、っていうかもしかしてこの流れでいくとリンちゃんの彼氏ってササ……? ……私、リンちゃんの彼氏を全ブロックしていたり?

 もっと不味いのは、このままリンちゃんとササの関係が上手く進んだ場合、将来ササは私の家族に……?

 いやいや。

 さすがにそれはないよね。ただのネタだよね? 


 ……閑話休題。

 ――――――えー、とまあ、ミナシゴ女史はどうやら動画投稿のカリスマとして定評があるらしいのよね。それで彼女に、先日撮った私の作業動画を適当に編集してもらって、彼女のページでアップしてもらうのはどうかって、ゆうへいさんは提案してきたの。


 ここまでくるとゲームとしての活動からはちょっと逸れてくるし、本来だったらリアルマネーがかかってもおかしくない依頼である。だから受けてくれるとは思い辛かったし、或いは結構な報酬を要求されるんじゃなかろうかと予想していた。

 でも意外なことにミナシゴさんは、あっさりオーケーしてくれた。それも無償でやってくれると言う。


 何でも、「こちらにとっても注目を集める機会になるし、宣伝になる。それに面白そうなので、喜んでやらせてもらう」とのこと。

 ありがたいことだけど、そんなにこの案件を高く見積もって大丈夫なものかしら? と、ちょっとドキドキ。


 いや、でも、きーちゃんのウラクリ情報を非常に高く評価しているのは、他でもないこの私。私が自信持たないでどうするんだって話だよね。

 ここはドンと構えねば。


 そんなやり取りを昨夜済ませて、録画もまるっとミナシゴさんに送信しておいた。で、今日彼女から届いていたメッセージがこちら。



[3745]

あのー、ブティックさん

ちょっと追加で提案というか

報酬はいらないって言っちゃったけど、代わりにお願いというか何というか


[3745]

編集した動画、ひすとりあ。だけじゃなくて、コモランにもアップしたいんだけど、いいかな…?


[3745]

話聞いたときから、絶対いいモノができるとは確信してたんだけどさ

まさかこんな衝撃的な素材が渡されるとまでは思ってなくて

おまけにアンロックイベントまで収録されてるじゃん

もう画面映えする要素満載過ぎでしょ


[3745]

勿論広告とかは付けないから

あ、ブティックさんが付けたいというなら話は別だけどね?

けどこれは是非、きまくら。ユーザーのみならず、沢山の人に視てもらいたい動画だなって


[3745]

…ええ、本音を言うとコモランの私のチャンネルもフォロー数増やしたいっていう欲は、ばりばりありますけれども


[3745]

どうかなあ

編集作業のお代がわりに、許諾してくれないかなあ



『コモラン』というのは、動画共有サイトの最大手、“CommonLand《コモンランド》”のことである。きまくらひすとりあ。はきまくら。ユーザー限定で開放されているプラットフォームであるのに対し、コモランはそうでない一般の人達も使っている。

 ミナシゴさんは自身のチャンネルの宣伝のため、そちらにも投稿したいと提案しているわけだ。


 まあ私としては、別に構わないかな。っていうか正直、何やらこの件に過剰な期待を寄せている彼女には悪いけど、結果はあまり変わらない気がしている。


 いやだってゆうへいさんの反応など見るに、きまくら。ユーザーにとってもあの作業動画、コアな内容っぽいからさ。とはいえその中でも刺さる人には刺さると思うから、そこから話が広まればいいな、っていうのが、私の希望的観測。

 でもそれがきまくら。をやってない、そもそも全然知らない人達ってなると、話は別だよね。大したフックにはならないだろうから、別に公開するプラットフォームが一個だろうと二個だろうと、結果――――延いては私への影響も大差ないだろうなー、と。


 まあ盛り上がってるミナシゴさんにする話ではないので、そこら辺の推測は黙ってるけどね。

 彼女のモチベが上がるというのなら、私に拒む理由はない。


 それはさておきどんな動画になるんだろ。

 楽しみだな。上手くいくといいな~。

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