69日目 新調(2)

 作りかけのものを一旦放置して裁縫とは全く別分野の工芸アイテムを作製、その後裁縫にまた戻る、といったやり方は、今まで試みたことがない。

 でも同じ被服アイテムでセットにならない――――意図したわけではなく結果的に、だったわけだけれど――――複数の服を同時並行で作製したときには、最後に裁縫スキル発動で纏めてアイテム化することに成功している。

 だからシステム的に失敗、とはならないと思うんだよね。


 危惧することがあるとすれば、衣装のほうにすら付くはずのミラクリが付かなくなるかもしれない、ってところかな。

 私の場合要素さえ揃っていれば裁縫でのミラクリ付与はほぼ確実なわけだけれども、工芸でのミラクリ付与はほぼ不可能、ってことが今までの検証で分かっている。

 そうすると裁縫と工芸を同時進行で仕上げたとき、コンピュータはちゃんと裁縫に費やした作業と工芸に費やした作業を見分けて、相応しいところにミラクリを付与してくれるのかってところが結構怪しい。


 まあでも、いいかな、最悪ミラクリは付かなくても。あれの効果って結局ランダムだからさ、使用者如何によっては全然微妙な効果が付くことも少なくないんだよね。


 これが店に出す売り物だったらば、誰かしらその効果を必要としている人が購入してくれてウィンウィンになるのだけど、今回は自分一人のために作っているわけである。

 今までの体感、私自身・・にとって汎用性のあるミラクリ性能は排出率10%くらいってとこだから、まあ実際問題そんなに期待しているわけではなかったり。

 私からすればミラクリは“お楽しみ”要素が強いかな。ガチャってほら、引くことそのものが楽しかったりするもんね。


 では、急遽予定変更。本体を仕上げるまで着物は一旦脇にどけておいて、早くも二本目のソーダを流し込む。

 今から【番傘】を作ります!


 必要な材料は和紙と骨組み用の竹、糸、そして防水するための油の四つだ。さらに【和紙】も工芸スキルで作れるということなので、これも試しに自作してしまいましょう。


 一旦裁縫用のツールは仕舞って、代わりに【中級者用工芸キット】を作業台の上に取り出す。

 工具箱の形をしたこのセットには、刷毛はけだとかヘラだとか、工芸に使うっぽいアイテムが色々と入っている。まあ裁縫系のツールとは違い、私がこれらの道具を実際に手にとって使うことは基本ないんだけどね。

 実際和紙作りともなるともっと専門的な用具が必要なんじゃないのって思うけど、そこはゲーム。この簡単な内容のキットだけでも何とかなっちゃうのです。


 因みにシステムを使ってスピード生産するときの設定画面は、こんなふうになっている。



≪レシピ:和紙≫

→①【コウゾ】

 ②植物の根等

 ③水等

 ④-

 大きさ:

 数量:

 


『【】』で括られてる素材は確定要素、つまり他のアイテムじゃ代用できず、絶対コウゾ――――リアルでも和紙の原料となる植物――――じゃないと駄目って意味ね。

 で、カッコで括られてない材料表記は設定可能な候補が複数あるとか、同じ系統のアイテムなら代用可能とか、選択に自由が利くって意味なんだ。


 だからこのレシピで言うと例えば、二番目の材料欄『・植物の根等』には【オシャベリリリイの根】を設定することもできれば、【アモネモの球根】も設定できる、ってこと。

 中には系統が合っていても失敗判定で【ゴミ】になっちゃう、そんなケースもあったりするらしいけど。


 実は【】が確定素材を示すっていうのに気付いたのは、工芸スキルを取得してからのことなんだ。

 というのも裁縫レシピで確定素材っていうのは基本存在しないっぽいから。服って大体布と糸でできてるものだけど、布も糸も種類は多岐に渡り、応用も利くのでね。

 多分原料に正確性を求められる調薬とか料理とかの分野だと、【】表記も多くなってくるんだろうね~。


 今回の和紙作りでは、②にオシャベリリリイの根、③に普通の【水】を設定する。


 オシャベリリリイの根は[力]を上昇させる効果がある。

 基本的にフィールド対応を得意とする工芸分野ではステータス上昇の効果は見込めないのだけれど、“護身具”は別なんだとか。


 護身具っていうのは、それを使って対象にダメージを与えられる特装アイテムのことね。代表的なもので言うと剣とか銃とか、そして傘や扇なんかの一部工芸アイテムも含まれるそうな。

 で、この護身具というカテゴリのアイテムは、担当スキルに拘わりなく[力]値上昇の効果を秘めているらしい。そうなると、非力で可憐なビビアちゃんには必須なこのステータス、狙わないわけにはいかないのです。


 ③には敢えて特殊効果も何もない普通の水を選んだ。

 勿論ここに効果付与の何らかの液体を設定すること自体は可能である。けど独立した完成品を作るならまだしも、こういう素材作りにおいて要素をごちゃらせるのってあんまりよくないっぽいんだよね。


 どうしたって一つの効果しか付与できないものも多いから、複数の要素は無駄、寧ろ狙った要素を付けるのに邪魔になる。

 その上かけ合わせの相性がよくなかったりすると、すべての要素が相殺されたり、失敗してゴミになることもあるんだとか。


 中にはいいかんじの化学反応が起きてスーパーなアイテムが生成されることも稀にあるらしいけど、工芸初心者な私がここで危ない橋を渡る意味なんて何もないからね。無難にいきましょ無難に。


 で、最後の『④-』。これは特にヒントとか指針はないけど、他に何か合成したいものがあればこの項目でどうぞってやつだ。


 一応④を埋めれば⑤が、⑤を埋めれば⑥が~、といったふうに項目は増えていくので、やろうと思えば数十の素材を組み合わせることも可能だそう。

 しかし前述した通り要素が増えれば増えるほど失敗する確率は高くなるので、ここも私はスルーでいく。『合成の追求はエンドコンテンツ』って攻略サイトばっちゃも言ってた。


 大きさは[特大]、数量は~……念のため多めに、10枚もあればさすがに足りるでしょ。

 ってことで【工芸】を発動すると、粘土が踊ったり刷毛が螺旋を描いて滑ったりと、それっぽいモーションが流れる。

 ……うん、絶対和紙が出来上がるような絵面ではないけれど、まあ突っ込むのは野暮だよね。“工芸”ってほんと、範囲が広いからね。

 で、てぃんとーんとSEが鳴って、作業台の上に大きな四角い紙がふわりふわりと落ちて重なった。



【パワーペーパー(和紙)】

品質:★★★

身体強化の力を秘めた紙。

代表的な使用法:工芸



 オッケー。さて、お次は色を付けなきゃね。

 久々に染色キットでも出そうかと思ったんだけど、この大きさともなると私が持ってるキットのお鍋では心許ない。新しい、もっと大きいツールを買おうか?

 いや待てよ、そういえば私には丁度よいスキル――――【絵付け】があるではないか。本来この能力は模様を描くためのものだけれど、勿論広い範囲を塗り潰すことも可能だ。


 というわけで、紫紺色の染料で手っ取り早く色を載せちゃいました。裏側は着物と同じベージュ色で着彩する。

 そう、表裏で色を分けられたもので、これは逆に絵付けスキルで正解だったかもしれない。お鍋で煮込んで~ってなると、両側とも同じ色にしかできないからね。

 よーし、和紙の準備は整ったので、次はいよいよ和傘作成に着手しようではないか。



≪レシピ:番傘≫

①【乾燥させた竹】

②和紙      →【パワーペーパー・(和紙)】

③糸       →【綿糸(生成り)】

④油等      →【ツナミクジラの油】

⑤-



 素材設定はこんなかんじ。


 コーティング剤は、手持ちのアイテムだと【ツナミクジラの油】が防水性を強化し、【アースオイル】が全体的な品質を高める素材のようだ。

 別にどっちでもいいかなーとは思ったんだけど、今後の遠征予定としてはシラハエを重点的に攻める計画なので、前者にしておいた。シラハエって雨が降りやすいらしいんだ。


 さあ、工芸スキル発動でアイテム生成! けど、作業終了のコマンドを指定する前に、仕上げのデコレーションも忘れない。


 まず骨の先――――軒爪のきづめというらしい――――に、【ロイヤルシルクの組紐(赤・特長・素材用)】を等間隔に数本結び付ける。そう、いつぞやかの市女笠コーデでも多用した、蝶々結びの飾りである。

 えへ、なんかこれ、手っ取り早く和風ファンタジーを作るのに使いやすくて、マイブームになっちゃった。

 傘を広げれば、鮮やかな組紐が珠暖簾たまのれんのように揺れる手筈なわけだ。


 次に和紙の部分にさらに絵付けを施していく。

 表面には淡い色で、優雅な唐草模様と1羽の鳥を描く。大柄ではあるもののシルエットのみの図柄なので、シンプルな雰囲気に収まっている。

 対して裏のベージュ地には、メインの着物の柄を参考に似たような花の和柄を全体に散りばめる。表から見ると地味かと思いきや、裏は結構華やかな塩梅にしてみた。


 よし、きりがいいので今日はこの辺にしておこう。明日はまず草履を作るぞー!

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