96日目 ゆうへい(後編)
思わず私はその場にうずくまって呻いた。
ぐ~~~~あ~~~~。
ヤってたね~~。これはばっちし、ヤってたね~~。
しかしどんなに恥ずかしくとも合わせる顔がないとしても、失礼に失礼を重ねるのはもっとよろしくない。私は重い腰を何とか持ち上げ、ゆうへいさんに通話申請を送った。
で、一頻り謝り倒したのち本題に入ったのだけれど――――――どうも話してるかんじでは、『不備』とやらが思い当たらないのよね。
あの日の私は確かに猫に酔いしれていたようだ。とはいえその割に話すべきことはちゃんと話していた模様。
且つ向こうは向こうで、ちゃんと私の言った通りの手順に則ってミラクリ実験を行ってくれてるっぽい。私からも軽くお願いしていたのだけれど、念のためキムチさんにも協力してもらっているらしいし。
ソーダを飲んで、ウラクリが付いていると思しき素材を使って、丁寧に時間をかけて服を作る、この三原則はきちんと守られている。
検証作業に当たっている人員は7名で、総試行回数は23回だそう。しかし、うちスキルが付いたアイテムはたったの3つだって。
確かにそれはおかしい。だって私の経験則でいくと、変なミスしてない限り百発百中であるはずだもの。
「手間とか時間が足りてないとか」
「いえ、それはないですよ。どのアイテムにも1時間以上は費やしてますし、最高で2時間ほどかけているものも幾つかあります」
あれ、最高で2時間か。私的にはそれ、結構少ないほうだな。
いやでもセットにしてない単品アイテムだとそのくらいのときもあるか。
2時間アイテムだと大ミラクリ率は……う~ん、どうだったかな。でも確定とは言いきれないかもしれない。
「はあ? 冗談言わないでくださいよ。2時間もやって、これ以上どこに手間かけるって言うんですか」
「それは、セットアイテムとかにして色々手間稼ぎを……」
「当然セットにしてますよ。すべての検証作業をセットアップの最大数5アイテムにして行ってます」
うーんそうか。話を聞くに、この実験に取り組んでいるメンバーは往々にして、私ほど服や物作りが好きというわけではないっぽい。
そうなると入れ込める力量とかも違ってくるだろうから、これ以上を求めるのは酷ってものか。
「ただそのかんじからすると、2時間で確定とはいかないまでも結構な率で大ミラクリとやらが発生する、と?」
「そうですねえ。私は基本もっと時間かけてるもので根拠にできる事例がそも少ないんですけど、それでも23分の3っていうのは、さすがにおかしい気がします。それくらい回数重ねてたとすれば、仮にソーダ飲んでなかったとしても、もうちょっと成功数が増えそうなものですけど」
「ふむ。……で、さらに引っかかる点を言いますとね、その数少ない成功例すべて、2時間かけたやつではないんですよね」
「え」
「極めつけに、キムチから提供してもらった資材で作ったやつでもない」
えええええ。そうなの?
これは根本的に、私の提唱する説が間違っているとされる流れ?
全部が全部きーちゃん素材を使うわけにもいかないことは事前に聞いていた。きーちゃんだっていきなり23個もウラクリ素材用意できないもんね。
だから足りない素材は別のルートから準備するか、ウラクリ自体の検証も兼ねて自分達で用意した、とゆうへい氏は言っていた。
私としてもそこに一抹の不安を感じてはいたんだけど、失敗があるとすればきーちゃんメイド以外の素材が正常に機能しないという、これしか考えられなかった。
まさか手間もウラクリも関係ないところで、これだけの不発が生じるとは。
まずいなあ。これじゃ嘘情報を流して沢山の人の大量の時間を奪ったはた迷惑な人間になっちゃう。
しかし私が嫌な汗をかいていると、ゆうへいさんはそれを察したのか、「いえ、ブティックさんは気にしなくていいですよ」と言ってくれた。
「検証作業はこちらの判断で行っていることなのでね。例えこの情報がただの勘違いであったとしても、前金の返金など求めませんし、ブティックさんに責任を負わせることはありません。あなたとはこれからも良好な関係を築いていきたいと思っている」
ならよかった。
……にしても私、いつの間にか前金とかもらってたんだね。記憶にないから、多分酔ってるときに無意識でやった取引なんだろうなあ……。
後でトレード履歴確認しとかないと。
「ただどうもこうしてお話を伺っていると、何か些末な説明漏れがあってそれが原因で実験ミスが起きている、とも思えないんですよね。もっと大きな、根本的な意識の違い、ずれのようなものが、あなたと我々の間で生じているというか」
「はあ。そうなんだ」
「勘、ですけどね。というのも今回の検証で発生した成功例と言えるものも精々が単なるスキル付き、までのことなんです。あなたの言う大ミラクリ――――通常のミラクリと、スキル付きが同時に発生した事例というのは、まだ一度も見ることができていない」
あ~そっか~。そういえばスキルに意識が行っちゃってつい蔑ろにしちゃいがちなんだけど、通常の人の感覚で言えばスキルと他の何らかの効果ミラクリが同時で付くこと自体、まず有り得ないことなんだっけか。
でもソーダを飲んでウラクリ素材を使っていれば、そんなのは普通のことである、というのが私の論。
その同時発生が情報屋さん調べでゼロである以上、例えスキルが付いていたとしても“大ミラクリの検証”としてはすべて失敗である、と。
そう考えると手間とか努力の差分であるとかそういった、80%か90%か、みたいな問題ではないのかも。イチかゼロか、なのだ。
「それでブティックさん。重ねてお願いするようで申し訳ないんだが、一つ、頼まれてくれないか」
「何でしょう」
「もしよければ、あなたが実際に製作を行っているところを見せてもらいたいのです」
ええっ。
それはちょっと嫌だなあ。人に見られてるって思うと、絶対緊張して集中できないもの。
「ああいえ、直にとは言いません。録画を撮って送ってもらえないかと」
「あっ、なるほど。録画、かあ」
「且つ一応、製作の最中に今何をしているところなのか、手順などを説明してもらえるとさらにありがたい。いわゆる実況動画みたいなかんじで。もしかするとそこから、ブティックさんと我々の間で生じている
確かに散々言葉を交わして問題点が浮いてこないのだから、もう実際に見てもらうほかない、か。自分の動画撮って他人に見せるとかあまり気の進むことではないけれど、生で観察されるよりかは大分ましだものね。
よし、やってやろうじゃないの。
******
【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(公式)・園芸師について語る部屋】
[半月]
センネンヒノキはまあぎり管理できるかも
桜は植林場は無理よ、手間とコストがリターンに見合わない
[ドドンネ]
結局温室で食材大量生産して料理人に売り付けるのが一番手っ取り早くて儲かるべ
[高屋花]
料理人界隈は民度が低くってあんま関わりたくないんですわ…
[HA]
職業差別はよくないゾ
[鶯*]
華のない中継ぎ産業としてよく織り師が筆頭に挙げられるけど、園芸師も大概だよねえ
[yuka]
①キャラ推し勢を手玉に取って底意地の悪い商売を繰り広げる金の亡者料理人
②ASMRに取り憑かれた作業厨イカれ大工
③貧乏薬師
どことの取引がマシかといえば②一択でしょう
[富士]
建築資材調達には植林場が必要
植林場には広い土地が必要
って時点で諦めた
オラ田舎になんか行きたくねえだ
[あの]
あれ剪定はともかくとして伐採て園芸師取れたっけ
[まっちぁ]
取れるよ
[すたっかーと。]
>>鶯*
織り師と違って園芸師のいいところは自分ひとりでもゲームが完結するところ
好みの菜園と庭園作ったらもうそれでいいの
誰と関わることもなく静かに暮らしていこうよ
[マトゥーシュ]
実際こういう層が一定数いるのがきまくら。の笑えないところである
[ドドンネ]
その層はどうせこぐにと兼業してるんで
[ふゆぴー]
楽しみ方は人それぞれやで
[高屋花]
>>すたっかーと。
結果ハウジングに凝るようになっちゃって②ルート突入ですねお疲れ様です
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