122日目 舞踏会(13)

 タイマーが『0:00』を表示すると、ルフィナさんがこちらへ近付いてきた。


「どうやら、この辺にはないみたいですね……。或いは、見つけた誰かが既に処分してしまったのかもしれません。ビビアさん、貴重な時間を取らせてしまってごめんなさいね」


 うう、結局見つからなかった~……。

 ミニゲームは失敗。7分はぱあ。

 でも私を見つめるルフィナさんの顔色は、不思議とさっきよりもすっきりしていた。長い睫毛で縁取られた灰色の目は、温かさと仄かな力強さを湛えている。

 あれ、ルフィナさんってこんな顔してたっけ。いや、別人なわけはないんだけど、ちょっと違和感。


「ありがとう。もういいわ。……そうね、あなたのような優しいお友達がそばにいるのなら、たとえ茨の道だとしても、胸を張って歩いていけるのかもしれない。ありがとう、ビビアさん。あの達のお友達になってくれて、本当にありがとう」


 そう言うと、ルフィナさんは去って行った。

 彼女の背中を何とも言えない気持ちで見送っていると、後ろから声がかかる。


「ビビア、お待たせ。今戻ったわ」


 シエルちゃんだ。


「計画に不備はなし。このままいくと……そうねえ、きっと次の会議が終わった後くらいかしら? お城はドッカンよ。素敵な夜になりそうね」


 どこかニヒルな笑みを浮かべて語るシエルちゃんをぼんやり眺めていると、ふと彼女は何かに気付いたかのように首を傾けた。


「どうしたの? 何か言いたいことがありそうね」

「え?」


 灰色の瞳に愉快そうな光を湛え、私の顔を覗き込むシエルちゃん。


「ふーん? 私が嘘を吐いてるって? 面白いこと言うじゃない、ビビア。じゃあ、いいわよ。私がどんな嘘を吐いたのか、今ここで答えてごらんなさい。当ててみせたら……ふふっ、ビビアは友達だもの、正直に白状してあげる」


 あっ、ボーナスミッション『シエルがあなたに吐いた“嘘”を暴く』! こんなところで、こんないきなりくるのか!

 しかも選択肢のダイアログは表示されていない。自分で考えて、自分の言葉で答えなきゃならない模様。


 ……うーん、実のところ二つほど目星はつけてある。けどすっごく自信があるわけじゃないんだよね。

 調査フェーズでしっかりした裏付けが取れればいいとは思ってたんだけど、今のところそういう情報も見つけられてないし。


 まず最初に思いついたのは、ハンドアウトのシエルちゃんの行動に書かれていた『シャンタと共に自身も部屋を後にした』って文章。のちの会議フェーズで、ツインズは双方、「自分が部屋を先に出た」と言って譲らなかった。

 ハンドアウトの内容とは明らかに矛盾している。だからどちらかが嘘になる。


 でもね、私が見抜かなきゃいけない嘘っていうのは、『シエルがあなたに・・・・吐いた“嘘”』、なんだよね。で、ハンドアウトの行動履歴にあるタイトルは、『シエルから聞いた・・・・・・・・城内での行動』ってなってるの。

 だからもしボーナスミッションの答えがここにかかってくるっていうんなら、間違っているのはハンドアウトの内容のほうになるはずなんだ。


 つまり、シエルちゃんがシャンタちゃんと一緒に部屋を出たっていうのが、嘘。実際にはどちらかが先に出て、どちらかが残った。


 けど、もしそれが真実なんだとすれば、少なくとも双子のどちらかは本当に相手を貶めようとしていることになる。

 いくら喧嘩中だからといって、シエルちゃんシャンタちゃんがそんなことするだろうか?

 しないよね。だってボーナスミッションにはシャンタを守るっていう使命まであるわけだし。

 ただ逆にどちらかがどちらかを庇っているとかなると、さすがにややこしくなってお手上げなんだけど――――――、そう思うと、やっぱりこっちのほうがシンプルで、全部の疑問を解決できる気がするんだ。


「シエルちゃんの嘘は……シャンタちゃんと喧嘩中ってこと。どうかな」


 前提としてここが覆れば、色々納得がいく。

 つまり、二人は共犯。いがみ合っているふりをしているのは、推理や議論を攪乱するため。

 私が答えを口にすると、シエルちゃんの瞳は嬉しそうに輝いた。


「ビビアったら本当にお利口さん。私のこと、私達のこと、何でもお見通しなのね。困っちゃう」


 彼女は拗ねたように唇を尖らせているけれど、口調は弾んでいる。

 私もほっと胸を撫で下ろした。正解できたことも嬉しかったし、二人の喧嘩がフェイクだったこともとっても喜ばしい。

 そうだよね。やっぱそうだよね。

 シエルちゃんとシャンタちゃんって、そういう子だよね。


「そうよ。

 ご想像の通り、私とシャンタは今回の計画において志を同じくする仲間。いわゆる共犯ってやつね。

 私達はそれぞれ一つずつ、別の場所に起爆装置を仕掛けているの。望ましいのは二人ともばれずに計画を成功させることだけど、万が一どちらかが捕まってしまったとしても、こうすれば残ったどちらかが目的を果たせるでしょ。

 喧嘩しているふりをしたのは、周りに共犯の線を追わせないため。


 ふふ、そんな悪く思わないで、ビビア。

 敵を騙すには味方から、って言うでしょ? 私達の険悪な空気にはらはらしてるあなたがいれば、この不仲により信憑性が増すと思ったのよ。

 けど、ばれてしまったんじゃあ、もうあなたの前で喧嘩のふりをするのは意味を成さないことだわね。


 いいわ。

 ここからあなたは私の仲間。私にだけじゃなく、私とシャンタに協力してもらうわ。

 よろしくて?」


 ……って、ことは、もしかして。確信めいたものを胸に抱いた私は、即座にゾエ君の姿を捜した。




******




【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(非公式)・ミステリーデートツアーの配信について語る部屋・話題無制限】



[ドロップ産制覇する]

「犯人が吐いている最も重要な嘘を見破る」ってミッション、フェルケとリル両方あったのか


[Itachi]

シエシャンにも似たようなのあるな

もしかして答えは全部同じ?


[ロッタ]

この嘘について答えるイベントって何か発動のきっかけあったのかな


[Wee]

時間で発動っぽいですね

他のイベントの最中だったりするとずれるみたいだけど、

どの卓のプレイヤーもどのパートナーも大体残り時間10~15分あたりで会話が発生する


[えび小町]

答えは「喧嘩中」、かあ

竹、何だかんだ有能でムカツクな


[ジャガイモ]

あそこはもう完全に白四人で結束してるよね

これは強い


[もも太郎]

エンディング分岐どれくらい用意されてるんだろ

いつものかんじだとハッピー、サクセス、バッド?


[リンリン]

マユ卓全体的に順調なんだけど、リルサイドのマユとフェルケサイドのレティマが嘘の回答ミスってるんだよね~

これが最終結果にどう影響するか…

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