211日目 賢人達の遊戯会(1)
ログイン211日目
さあ、やってまいりました今日この日。ワールドイベント【賢人達の遊戯会・エリン主催編】メインイベントのお時間です。
時刻は19時40分。
試合開始は20時きっかりからなんだけど、老師戦のときと同じで、その前に控え室に入ることが可能なんだ。ここでメンバーとの顔合わせやちょっとした作戦会議ができるってわけ。
運営からの指示に従って
さてはて、一緒にゲームを遊ぶ仲間はどんな顔ぶれなのかな? どきどきしながらスキップドアを潜る。
すると殺風景な部屋には、既に二人のプレイヤーが待っていた。
一人は、水色の髪の小柄で華奢な女の子。腕や足が球体関節になっている機械種族の子だ。
ネームタグには[ねじコ+]とある。
そしてもう一人は笠を被った和装姿の青年。背中に帯でぐるぐるに巻かれた大きな箱を
名前は[ミラン]さん。
わーい、知らない人だー。と、早速回れ右をして帰りたくなる人見知りな私。
けれどありがたいことに、ねじコさんのほうがすぐに近付いてきて挨拶してくれた。
「あ、ブティックさん、初めまして。ねじコって言います。ブティックさんとチーム一緒で嬉しいです。今日からのイベントめっちゃ楽しみにしてたんですよ~。よろしくお願いしますね」
おお、なんか話しやすそうなかんじ。そして自分からきちんと挨拶してくれる辺り、しっかりしてそう。
こういう人がチームに一人でもいてくれると大助かりだよね。
そんなねじコさんから勇気を得たもので、私もこの流れで傍観しているミラン氏に話しかけてみることに。
「ビビアと言います。一応リーダーってことになってるんですけど、皆さんからアドバイス貰いつつやっていきたいと思ってます。よろしくお願いします」
「うぃーす。ミランでーす。おなしゃーす」
あれ、なんか思った以上にノリが軽いな。こっちが一応丁寧にお辞儀してるのに対し、向こうはだらけた姿勢で座ったまま、顎で会釈してるだけだし。
いや、会社じゃないんでこういう態度が悪いとも思わないけど、ねじコさんとはタイプが全然違くてちょっと混乱。
私がちがちになり過ぎ? ゲームなんだし彼のようなゆるいテンションのほうが正解だったかな。
いずれにせよ、ミラン君はイマドキのワカモノな印象だ。けどかんじ悪く映らないのはちょっと不思議だし面白い。
かったるそうなニヒルな雰囲気はあれど、なんか堂々としてるんだよね。ちゃんと目を見て話してくれるし。
そこら辺、マナーはアレでもこちらへのリスペクトが感じられるのかもしれない。職場の後輩でいたら、大成するかすぐ辞めるかのどっちかだろうなーって思うタイプかも。
なんて考えつつ彼等と軽い雑談を交わしていると、次なるスキップドアが二つ同時に出現する。開かれた扉から姿を現したのは、翅を生やした目付きの鋭い女の子と、刀を二本差したパーカー姿の少年だった。
――――――バレッタさんと、名無しさん……! ……だっけ?
知ってる人ついにキター! ……んだけど、嬉しいかと問われると正直微妙。
知ってるは知ってるけど、ちょっと関係性が薄過ぎて。しかもご両人とも、私に対してあんまり友好的な雰囲気じゃないし。
案の定名無し少年は「うーす」とだけ呟いて、雑談していた私達三人の横をすり抜ける。そして部屋の隅の椅子に陣取り、マルチタブレットをいじりだした。
あー、これこれ。これがイマドキのワカモノのスタンダードバージョンな気がする。
もって一年、何ならいつぱったり出勤してこなくなってもおかしくないタイプね。
なんて偏見ましましの感想を抱きつつも、でもね、バレッタさんにはこないだリクエストに応じて服作ってあげた経緯がありますのでね。別に感謝しろとまでは言わないけど、ちょっとは私に対して愛想よくなっててもいーんじゃない?
だってほら、あの【ナチュリートな衣装セット】、今日もちゃっかり着こなしてますからね。気に入ってくれたのは間違いないでしょう。
どうどう? バレッタさん。
少しは私のカースト、上げてくれたんじゃない?
と、うずうずちらちら物欲しげな視線を送る私を、バレッタさんは真っ直ぐに睨み返してきた。
「この衣装、気に入ってる」
「あっ、ほ、ほんとですかー! よかっ、」
「だからトントン。あの件は不問にしてあげる」
「へ……?」
予期せぬ反応に、絶句するしかない。
なに、『トントン』って! 『あの件』って!
カースト上がるどころか、私への当たり、さらに強くなってない? 私がいつ何をやらかしたっていうのー!?
も~、散々だよ。
っていうかきまくら。運営さあ、なるべくフレンド伝いにチームメンバー配属するっていう、あの説明は何だったの? 二人は全然知らない人だし、もう二人は一応知ってはいるけどあんま関わりない人だし、“フレンド”なんて全然いないよ!
……なんて心の中で愚痴りつつも、実はこの展開は既に予想済みだったり。っていうのも、同じチームに誰か来てくれてないかなって、事前に探りは入れてたんだよね。
公式からリーダー宛に、チームメンバーが誰なのかは特に知らされていない。けどメンバー一人一人には、「~チームに配属されますが問題ないですかー」っていうメッセージがそれぞれ来るみたいだからさ。
それでリンちゃんとかクドウさんとかラーユさんとかに「どう? うちに配属じゃない?」って聞いてみたんだけど、残念ながらほとんど軒並み別チー、若しくは都合が悪くて参加希望を出していないとのこと。
リンちゃんクドさんなんかはヨシヲのところに奪られちゃったみたい。もおーっ、あの小6男子、やっぱりことごとく私の邪魔してくるじゃないの。
でもね、それでもまだ僅かに気持ちに余裕があるのは、最後の心の砦が存在するから。そう、唯一ひとりだけ、うちのチームに来てくれるフレンドがいたんだよね。
ぶっちゃけ色んな意味で、そのひと一人いれば百人力感あってさ。安心感半端ないの。
そうして、控え室に六つ目のスキップドアが現れる。
「どもども~。四日間よろしく頼んますわ~」
へらりとした笑顔を浮かべ、ひらひら手を振る山羊角の青年。そう、ゾエベル氏である。
彼は真っ直ぐに私達のところへやって来て談笑したかと思えば、バレッタさんと何やら煽りめいた軽口を叩き合ったり、あの気難しそうな名無し君を呼び寄せて輪に混ざらせたりしている。
いやもう、これよ。
このコミュニケーションお化けの力よ。これが必要だったのよ。
やっぱ今の世の中、一家に一台ゾエ氏の時代だよね~。
そんなわけで役者は揃い、賢人達の遊戯会は始まりを告げたのだった。
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