40日目 病める森(1)

ログイン40日目


 さて、予定通り今日は昨日の遠征の続きをやっていくことにしよう。【静けさの丘】を抜けて、今度は【病める森】のほうへと街道を進んで行く。


 ちょっと不思議だったのは、普段の遠征よりプレイヤーの数が気持ち多く感じること。週末とか祝日ってわけでもないし、うーん……?

 まあ気のせいと言われればそれも納得できる程度の差なのだけれど、私が今向かってる先が現在立ち入り不可となっているフィールドなだけに、この通行量はやや首を傾げてしまう。


 辺境の街レンドルシュカならさっきの分岐を別方向に進まなければならなくて、この道は病める森にしか繋がっていないはず。

 物々しい装備のフルパプレイヤー達なんかもいて、みんな私と同じようにただワールドミッション埋めに行くだけの人達とは思えないんだけれども。


 こっそりセミアクティブ解除して話を盗み聞きしようかなとも思ったんだけど、様子を窺ってたら通行人の一人と目が合ってしまった。

 にっこり微笑まれたので、私も軽く愛想笑いと会釈を返し、そそくさと歩みを速める。


 なんか最近こういうこと多いんだよね。ゲーム始めたての頃は外を出歩いても誰も私のことなんて気に留めなかったのに、ここのところはひと気のある場所に行くと常に誰かしらに観察されてる感覚があるっていうか。

 これ多分、身バレしてるってやつなんだと思う。私が知らない人でも私を知ってる人がそこそこいるっぽい。


 革命イベントとかデート騒動とかで話題になってたらしいし、っていうかデート騒動の際は自分から陰キャさんのSNSに顔をだしたりもしてたもので、まあしょうがないことと割り切ってはいるけどね。

 そのお陰もあって商売繁盛してるってのもあるだろうし。


 ただ今みたく人目を気にして身動き取り辛くなってるっていうのは、ちょっと痛いんだよねえ。

 セミアクティブの人には『…』と書かれた吹き出しのアイコンが付くもので、解除すればそれは消える。つまりこう観察されてると、「あ、こいつ盗み聞き始めたな」っていうのも一発でばれるっていう。

 いや、盗み聞きしようとするほうが悪いんですけどね。だったら堂々とアクティブモードにしとけよって話なんですけどね、はいすいません。


 そんなわけでささやかな疑問は解消されぬまま、やがて病める森が見えてきた。巨大な蔦植物と枝が絡み合って封鎖された、ドデカいモンブランみたいな森だ。


 あれ? 中心にある大樹の実が赤い。

 動画で観たときは青かったような……まあでもそんなはっきり憶えてるわけじゃないから、思い違いかな。


 森の入り口付近はなぜかそこそこ混雑していて、数十人ほどのプレイヤーがたむろしていた。

 お喋りに興じている人もいればその場で露店を開く人もいたり、はたまた何もせずにぼんやりしている人も少なくない。けどみんな森のほう――――特にその中心にある大樹を気にしているような素振りがある。

 何かを待っている……? かと思えばおもむろにその場を立ち去っていくプレイヤーもいるし、うーん……。


 まあいいや。この件については後でネットで調べてみよ。

 ぴこんっと音が鳴って、ワールドミッション【・病める森に行ってみよう】が達成されたのも確認できた。とりあえず私の目的はこれで果たされたわけだし、次は辺境の町“レンドルシュカ”に行こうかな。


 そう思った矢先、呼び止められた。


「ビビアちゃん! ビビアちゃんじゃない!」


 溌剌とした女性の声はしかし、聞き覚えのないものだった。振り返った先に見た蝶の羽を持つ女性の姿も、やはり見覚えのないもの。

 でも相手にとっての私はそうではないらしく、彼女は豊かなポニーテールを左右に揺らしながら、親しげに駆け寄ってきた。


「久しぶりい! まさかこんなところで会えるとは思ってもいなかったわ! ……ってあら、なあにい? そのとぼけたかんじ。まさか師匠の顔を忘れたって言うのお?」


 ――――――師匠……あ、もしかして、私が弟子入りしてるって設定の、テファーナさん!?


 けれど私が正解に辿り着く前に、テファーナお師匠は機嫌を損ねてしまったようだ。彼女も賢人だというから相当の年長者だろうに、子どものようにぷくっと頬を膨らませて、つんとそっぽを向く。


「あっそーお。独り立ちしたからってそんな態度取るのねーえ。用済みになったらお世話になった先生のことなんかどうでもいいですかそうですか。いいですよーだ。そっちがそうならこっちだってあなたのことなんかもう知りませーん。後で困ったことがあって泣きついてきたって、もう二度と助けてなんかあげないんだから」


 言って腕を組み、たしたしと地面を蹴りつつ、その視線はちらちらとこちらを窺い見ている。

 あ、あれえ? お師匠様で、且つ賢人だっていうから、テファーナさんってもっと落ち着いた大人の女性を想像してたんだけどな……。

 いやまあ確かに一番最初に貰った彼女からの手紙からはやたらフレンドリーな印象を受けたけれども、こんな幼いかんじだとは……。


 戸惑いつつもとりあえず私は師匠のご機嫌を治すべく、ごめんなさい、のち花を飛ばすスタンプを押しておいた。するとお師匠様は一瞬できらきらと顔を輝かせ、「うふふ、まあいいわ。会えて嬉しい!」と再び距離を詰めてきた。

 単純だけど、実際にいたらめっちゃモテそうなタイプの女子である。可愛いし、なんかいい匂いしそうだし。


 因みにさっきまで沢山いたプレイヤーは、現在姿を消している。個別イベントモードに入ったようだ。


「それにしてもこんな場所に来るだなんて珍しいわね。……私? 私はだってほら、病める森を管理する役目があるから。忘れたの? 私はレスティーナ四賢がひとり“病める森の番人”テファーナよ。それに……」


 そこでふと、お師匠様は気づかわしげな眼差しを森のほうへ向けた。


「最近は特に、心配なの。“追憶の樹”の実が赤く熟れてきて、今にも弾けそうだから……」


 ああ、やっぱりあの木の実が赤くなってきたのは最近、ってことで、私の記憶は間違ってなかったんだ。でもなんでそれが心配に繋がるんだろ?

 疑問に思ったところで、タイミングよくダイアログが現れた。



→・“追憶の樹”って?

 ・臨界の極意を教えて

 ・仕立屋の極意を教えて

 ・世間話でも



 スキルは勿論気になるけれど、とりあえず流れ的に一番上の選択肢を選んでみる。するとお師匠様は不意を突かれたように私を見つめた。


「……ああ、そういえばこの間ギルトアから連絡があったわ。マグダラのことで、少しごたごたしてたんですってね。そう、あなたはまだ小さかったから憶えていないでしょうけれど、マグダラは昔私の家に一緒に住んでいたのよ。彼女やギルトアとは古い――――――本当に古い、友人でね。そしてあの樹には……マグダラの記憶が宿っているの」


 憂いを帯びた目をそっと伏せて、お師匠様は語りだした。遥か昔、賢人達の間で生じた出来事を――――――。




******




【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(公式)・コミュニケートミッションについて語る部屋】



[3745]

きまくら。のキャラクターエピソードって恋愛絡むこと多くてなんだかなあ


[マ ユ]

デートイベとかでキャラ萌えを売りにしときながらプレイヤーは大体蚊帳の外っていうね

まあだからこそ同人が盛り上がるってところは個人的に好きだけど


[おろろ曹長]

これメインシナリオは賢人中心ってことなのか?


[陰キャ中です]

メインはなくて全員が主人公みたいなことプロデューサーが言ってた気がする

けど話のスケール的なこと考えるとプレイヤー目線じゃどうしても賢人メインに映るよね


[灰鳥]

メインはリル様だよ?


[ちょん]

メインはディルカだぞ


[ピアノ渋滞]

>>ちょん

あの薄さでそれは笑う


[ポワレ]

ディルカスキル的にも性格的にもちゃんとキャラ立ってんのになんでミッション二つなの

ディルカ推しではないけど普通に勿体なく感じる


[ゾエベル]

メインはシエル&シャンタ様だ!


[マリン]

>>ゾエベル

とりあえず最初のミッションクリアしてからどうぞ

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る