39日目 静けさの丘(1)

ログイン39日目


 ショップのパネルを開くと、早速リクエストの要望が――――――わっ、9件も来てる。


 みんなどんなの所望してるんだろ。あんま無茶なのじゃなければいいんだけど……と、心境としては、わくわく半分どきどき半分である。

 けれどいざ開いてみると、実際にはその殆どが既存のデザインの色違いであるとか、素材違いのリクエストだった。ほっ。

 これくらいなら裁縫スキルですぐ作れるものも多いから、素材が足りているものはぱぱっと納品してしまおう。


 それからデイリーミッションこなしたり、図書館行ってレシピ&スキル探しといったルーチンをクリアした後。今日はね、超久々に、遠征に行こうと思います。

 初のNPパーティで古の王の墓に行って以来だから、もしかしたら二週間以上経ってるかも……。


 いい加減他の街だとか他の国だとかにも行ってみたいところ。そのためにはワールドミッションを進めていかなければならない。

 自由度の高いプレースタイルが楽しめるきまくらゆーとぴあ。だけど、一応指標となる道筋みたいなものは用意されていて、それが“ミッション”ってことみたい。


 このミッションは、デイリー、ジョブ、コミュニケート、ワールド、スペシャルの五つが用意されている。

 デイリーとスペシャルは毛色が違うので省くとして、私の場合、ジョブがかなり、コミュニケートがそこそこの進みなのに対し、ワールドミッションだけ著しく進みが遅いのよね……。

 引きこもって生産ばっかやってたツケが、ここに回ってきたかってかんじです。

 そんなわけで行動範囲を広げるべく、このミッションを消化していこうと思った次第だ。


 で、次に先頭に上がっている指令が、【・病める森に行ってみよう】ってものだった。まずはギルドに赴いて、遠征ヘルプでミコト君を雇う手続きをする。

 このとき各遠征フィールドに関する簡単なアドバイスも貰えるようになっていた。それで“病める森”について聞いてみたんだけど――――――。


「病める森は、現在立ち入り不可となっております」


 ――――――と、言われてしまった。え、そんなことってあるの?


 さらに詳しく聞いてみると、以前毒霧立ち込めるこの森を浄める試みが、ギルド主導のもと冒険者達で成されたんだとか。

 しかし彼等は浄化に失敗、森の主は暴走し、それに影響された幻獣達もあわやスタンピード手前といった惨事に陥ってしまう。


 そのときプロジェクトに協力していたシラハエの賢人オルカの助力で、何とか森そのものを封印することには成功する。けれど以降封印を解くわけにもいかず、今日までそのままになっているそうな。


「当時の映像はきまくらひすとりあ。に保管されていますよ。興味があればご覧になってください」


 そう言われたので公式動画サイトを見てみると、【革命イベント>閉ざされた森】としてダイジェストビデオが公開されていた。

 なるほど、プロジェクト自体がプレイヤー参加型のイベントだったっぽいね。けど、浄化任務失敗ルートに突入しちゃった、と。


 黙々と仕事をこなすNPC達を他所にお気に入りキャラ近くの作業場所を巡って勝手に揉めだすプレイヤー達、怒れる巨大フクロウ型幻獣の襲来、「戦犯はおまえだ」「いやおまえだ」と罵り合いながら文字通り足を引っ張り合うプレイヤー達、ざわめく森、そして幻獣達の暴走、「ここにきてこんなシリアス展開ぶっ込んでくる!?」「メイポリの二の舞は嫌ああああ!」などと喚き散らすプレイヤー達……。

 ……いやあ、色んな意味で見応えのある映像だったなア……。


 あ、でもね、ラストの賢人オルカさんの活躍は純粋にかっこよかったよ。

 彼女が森の周りに黄金の種を撒いて、そこにファンタジーな如雨露で水を注ぐと、巨大な蔦植物がぐわあーっと空に伸びてって、森を覆うように蔓を張り巡らせていくの。

 で、森の中心にも青い実を付けた巨大な樹があるんだけど、その樹の枝と蔦達が手を繋ぐように絡み合っていくんだ。最終的に森はそれらの植物達により、ドーム状に閉鎖される、という顛末だった。


 そんなわけで森の中に入るのは物理的に不可能とのことなんだけど、近くまで行くことはできるらしい。ギルドの人にも、「百聞は一見にしかずと言いますし、物見遊山で出かけてみるのもいいかもしれませんね」と勧められた。

 ってことは多分、探索はできずとも、ワールドミッションの消化自体は可能だと思うんだよね。辺境の町レンドルシュカも方向が同じだし、とりあえず目的地は変えずに行ってみようかな。


“病める森”は“静けさの丘”を越えたさらにその先にあるらしいので、南門にてミコト君と合流。彼には【狩りを優先】のオーダーをだして、素材集めなどもしつつ歩いて行くことにした。


 前回のでこぼこ四人パーティでは結束力が20%だったけど、今回の二人ぼっちパーティは結束力50%になっている。そのお陰かミコト君は前よりも仕事が早く、心なしか機嫌もよさそうだ。

 もしかしたら全員ほぼ初対面且つオーナーたる私も初遠征という前回の現場は、相当やりにくかったのかもしれない。ごめんよミコト君……ごめんよみんな……。


 静けさの丘には納屋のような、小さな朽ちた建物があるんだけど、傾いているためか扉が開かなくて、以前来たときは入れなかった。

 でも今日近くを通りかかった際、ミコト君が扉の前でおいでおいでをしていたので行ってみると――――――。


 ドガッ。


 ――――――と、彼の蹴り一発であっさり開いてしまった。

 にへらにへらと得意気な顔のミコト君。撫でるモーションで褒めてあげると、その相好はさらにゆるゆると崩れた。

 うむ、かわゆい。人気ナンバーツーなのも全く頷ける話だね。


 それにしてもこののほほんとしたビジュアルに騙されて当初は育ちのいいお坊ちゃんタイプかとも思ってたけど、実際は君、結構な脳筋且つ野生児キャラだよね。

 扉が開いたのはスキル【狂力クレイグス】のお陰だろう。他にも彼の所有するスキルは【狩猟】に【解体】、【木登】、【反撃】……。

 うーん、なかなかどうして謎深きキャラだなあ。


 さて、開放された扉から中を覗くと、そこでは見たことのない植物がびっしりと地面を覆っていた。

 特にスミレのような小さな花や、ハートの葉っぱを持つ真っ白なクローバーが可愛い。間違いなく、新種の素材アイテムだろう。

 勿論せっせと抜かせていただく。

 今まで取得してきたギルドポイントで、アイテムボックスの容量もかなり増やせてるからね。採れるだけ採っちゃお。


 正直現在お金には全く困ってないのだけれど、それはそれ、これはこれ。

 薬草を引っこ抜く作業って、なんか楽しいんよね。新しい素材を見つけるとコレクション欲も疼くし。


 そんな発見もあり、ミコト君が調達してきたものも合わせると今回入手できた新たな素材はこんなかんじ。



【メインテイン・ビオラ】

 腐食を防ぐ成分が含まれているスミレに似た植物。

 代表的な使用法:料理


【ホワイトクローバー】

 患部に擦り付けると[状態異常:痒み]が回復する薬草。とても沁みる。[白鎮軟膏はくちんなんこう]の主原料。

 代表的な使用法:調薬


【クールコリアンダー】

 食べると[状態異常:混乱]が回復する薬草。苦い。[カルムティー]の主原料。

 代表的な使用法:調薬


【クラウドウール】

 クラウドシープから採れる羊毛。雲のように軽く滑らかな肌触り。

 代表的な使用法:紡糸


【クラウドシープの肉】

 美容によいと言われるヘルシーなお肉。[耐久]を高める成分が含まれている。

 代表的な使用法:料理


【フラワーモヘア】

 フラワーゴートの雄の毛。滑らかで花の香りがする。

 代表的な使用法:織物


【フラワーゴートの角】

 花の香りがする角。幻素結合を活発にする成分が含まれている。

 代表的な使用法:調薬



 ビオラとかクローバーとか可愛いから頭飾りみたいなアクセに使えたら素敵だけど、どうなんだろうね? 今度試してみようかな。

 なんてことを考えながら納屋を出たそのとき、目の前に影が差した。


「おや、誰かと思えばテファーナんとこのおチビさんか。久しぶりだの」


 突然現れたしゃがれ声のその女性は、黒ずくめにして、にやりと笑う仮面を付けていた。

 マグダラさん、再び。

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