212日目 同盟(7)
『襲撃! 襲撃! 【病める森】南東、うちの第六エリア拠点から煙が上がってる! コメラン撃ち込まれてる!』
バレッタさんの声だ。攻略フェーズも残り二十分を切った頃のことだった。
私は慌ててカメラを確認する。確かに、木立の中佇む丸い豆腐建築から、数本の黒い筋が空に向かって伸びていた。
私が現在いるのは第四エリア、病める森北東の砦である。
それにしてもバレッタさんの『
攻略班はすぐに引き返してくれるとのこと。しかし彼等が戻ってくるまでの間、私とバレッタさんで持ち堪えなければならない。
緊張に強張る心を、しかし攻略班のみんなが解してくれる。
『別にピースの一つや二つ奪われたところで問題ないんで。うちらが取り返せばいいだけのことですよ』
『報告ナイスです! 気付くの大事』
『無理そうなら応戦とかいいっすよ。それよか襲撃者が誰なのかとかどっから攻められてるのかとか、なるべく情報欲しいっす』
『防御ザルの作戦なのは承知の上だし』
みんないい人達だなあ。初日好き勝手暴れられたときはどうしたものかと頭を悩ませたものだけど、こういうところは凄く大らかで心強いよ。
だからこそ、私も自分にできることは頑張らないとね。
とりあえず私とバレッタさんは、【スキップドア】を使って第六エリアの拠点で合流する。
【コメットランチャー】は今この時も断続的に撃ち込まれていて、鈍い砲撃音と共に建物が揺れた。拠点破壊用のアイテムや建物の崩壊によりプレイヤーがダメージを負うことはないんだけど、この音と振動はやっぱり不安感を煽るなあ。
私達は手分けして、現状把握に努めることに。バレッタさんは管制室のカメラから、私は【双眼鏡】を手に襲撃者の様子を探る。すると大まかに分けて二つのことが分かった。
「皆さんに良いお知らせと悪いお知らせがあります」
『良いほうからでよろ』
「了解。第六エリアの拠点ですが、まだ敵の侵入は許していません。彼等は外側の防壁を壊している最中です」
『ミラン壁ないすう』
『お豆腐サイコー』
「で、悪いほうの報告ですが、人数からして少なくとも2チーム以上の連合軍の模様です。確認できただけでも七人いて、その中で争いが起きてる様子は見受けられません」
『チーミングかよ卑怯者』
『正々堂々単独で勝負しに来いよごるぁ』
『寄って集って虐めとか恥ずかしくないのお?』
スピーカーからのブーイングの嵐をBGMに、私とバレッタさんは顔を見合わせる。その時、何かが崩れる一際大きな物音が響いた。
「ちっ」と舌打ちするバレッタさん。彼女は颯爽と身を翻し、管制室の扉に向かった。
「壁、壊された。私は応戦しに行く。ブティックは
「あ、私も一緒に行きますよ。足手纏いかもしれないけどいないよりかは、」
「監視係は絶対に必要。他の拠点が襲撃されないとも限らないんだから」
バレッタさんはぴしゃりと言い放ち、さっさと走り去ってしまった。そう言われては、私は閉じた扉を前に立ち竦むしかない。
いや、分かってるよ。彼女の指示が理に適っていることは。
けど戦力外通告を受けた感は拭えないし、独り取り残された心細さもある。
だめだめ、切り替えないと。私は頭を振って、もやもやした感情を払う。
人にはそれぞれ得手不得手がある。
今はできないタスクを見つめて指をくわえている暇はない。目の前のできるタスクを消化していくことが優先だ。
私は管制室に映った複数のカメラ映像を睨みつけ、情報を拾うことに集中した。
ここ第六エリアの拠点では、チェスピースは中層――――三階中心部付近の部屋に隠されている。獣使いであるバレッタさんは敵チームがそこまで侵入してこないよう、眷属獣を使って邪魔したり撹乱したりしているようだ。
私は他のエリアにも気を配りつつ、拠点内のカメラ映像から分かる敵の情報を彼女に知らせる。
『良いお知らせがもう一つ。襲撃者はまこマユじゃない。同盟は守られてる』
「ほんと? じゃあ誰が?」
『[エルネギー]と[イーフィ]。奴等緩衝地帯をわざわざ踏み越えて遠くから来やがった』
私は頭の中で地図を開く。
病める森の東に位置する、メインワールドでは本来存在しない緩衝地帯の荒野。その北東にあるのがイーフィ領で、緩衝地帯の南東及び我が縄張りの正反対、マップ極東にあるのがエルネギー領である。
確かになかなか面倒臭いことをしてくれる。そんな文字通りの“遠征”をせずとも、そっちはそっちで近くの人達で喧嘩してればよいものを。
そして攻略班がまだ自領にすら辿り着いていないところで、さらなる悲劇が。
ギルトアチームがテファーナ領の第四エリアを攻略しました!
「うそ……いつの間に!?」
予期せぬ通知に、私は愕然とする。
第四エリアといえば、さっきまで私が見張りを担当していた拠点である。しかし
第六エリアが攻められたときは、【コメットランチャー】の軌道や煙が分かりやすく映っていた。対して第四拠点にそういった破壊兵器が撃ち込まれた痕跡はないし、防壁が崩れている様子などもない。
一体全体どうやって忍び込んだっていうの!?
とその時、私は信じられないものを見つけてしまう。
我々の拠点内――――というかどこのチームの拠点も大体そうだとは思うんだけど――――には、チームメンバーのみパスワードを知っている、ロックのかかった鉄製扉が各所に設置されている。
外を囲む防壁にも、同じパスワード式の一際大きくて頑丈な門扉が取り付けられている。
しかしふいにそこがひょいっと開いたではないか。中から現れ何食わぬ顔で去って行ったのは、なんとちょんさんである……!
「ぱっ、パスワードがばれてる!?」
『マジ? それ相当ヤバくね? うちの拠点全部「46454645」で統一だろ?』
『バカバカ言うな言うな言うな』
『いやでも待った。これもしかしてなんだけど、今日うちら第四エリアに一旦集合してそこから狂々領に出発したじゃん?』
『したな』
『したした』
『最後に出たの誰よ?』
『俺じゃないっすよ』
『私は一番最初に出ました』
『ん? じゃあ俺か』
『ゾエ、扉ちゃんと閉めた?』
『……あー……。………………忘れた!』
………………。
『バカーーーーーーーー!!!!』
ゾエ君以外すべてのメンバーの心が一つになった瞬間であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます