212日目 同盟(6)
ゾエ君、名無し君、ミラン君、ねじコちゃんで構成された攻略班は、様子を窺うこともなく喜び勇んで侵略に出かけていく。はてさて、この思いきりのよさが吉とでるか凶とでるか。
お留守番の私達防衛班は、拠点の管制室を見張りながら彼等の帰りを待つばかりだ。
因みに私は【病める森】の東にある拠点を、バレッタさんは【レンドルシュカ】にある拠点を担当しているので、同じ空間にいるわけではない。そこはちょっとほっ。
バレッタさんとのコミュニケーションにも慣れつつはあるんだけど、二人っきりは気まずいもんなあ。
さて、ボイチャで繋がった攻略班の様子から察するに、狂々さん達はやはりうちとの対立は想定済みだったみたい。彼等の縄張り【静けさの丘】の北エリアにて、今がっつり交戦中の模様。
しかしこちらが丘フィールドに侵入していることから分かる通り、先手を打てたのは我がチームのようだね。
試合開始と同時に
でもそれに見合ったリターンはあったってわけだ。現在形勢の利はこちらにあり、ついには一人二人と拠点侵入を果たしているようだ。
勿論一筋縄ではいかない。
狂々チームはリーダー狂々さんが強いのは勿論のこと、ちょんさんもいるんだ。この二人が二大エースとして活躍していて、なかなか厄介みたい。
そして砦内のトラップや仕掛けに上手く嵌められ、メンバーがダウンして強制送還させられることもしばしば。そういう時に彼等がすぐ現場に戻れるよう、回復用また拠点破壊用のアイテム一式を用意しておくのも、私の大事な仕事である。
しかしそんなふうに時折人員が欠けたとしても、押しているのはこちらのほうらしい。
狂々チームの誰も、不意を突いてうちを攻めるということができていないという、そこからもお分かりだろう。彼等は善戦しつつも、防戦一方なのだ。
それにも勿論理由があって――――――。
『ここんとこ狂々が見当たらん。潜伏してると思うから要注意』
『……っていうか人数減ってね?』
『管制室突入!』
『ないすー』
『ないすう』
『なーいす!』
『あ、これ狂々さんち北側からも攻められてますわ。乙』
『なるほど!? そっちカバーに行かざるを得んかったのか』
『北っていうとササか。じーじぇーい』
『いい仕事してますねー! ひゃっふーい!』
――――――そう、狂々領の北に位置するササ陣営からも、途中から同時に攻撃を受けてたっぽいんだ。
初動の様子からすると人員はうち――――南側に集結させていたようなので、恐らく予想通り狂々陣営とササ陣営の間には協定が存在したと考えるのが自然なんだけど……どうやら信頼は裏切られた模様。
彼等は賭けに負けたのだ。誠にお気の毒なことである。
チェスピースの移動の様子は全体に通知が入る仕組みとなっている。
YTYTさんとこは……うん、既にササ、きーちゃん、ちゃりさんチームが各々1ピースずつ奪取してるなあ。こちらもご愁傷様である。
ってなるとササはそっち方面の戦利品には満足し、こちらを攻めることにしたのか、或いは戦力を分散して二兎追うことにしたのか。
考察が捗るものだ。各チームの動き、めっちゃ気になる。
後で運営視点のアーカイブ、絶対視よう。
ところでこれは余談なんだけど、今回攻略班のヒャッハー勢に混ざっているねじコちゃんが、見事に彼等に馴染んでいてですね。
仲良くできていること、一致団結できていることは非常に喜ばしいんだけど、私としては非常にフクザツな気持ちでもあります。ねじコちゃん、君だけはこちら側にいてほしかったよ。
っていうかこの解き放たれて伸び伸びしてるかんじからして、もしかして彼女、ずっとあっち側に混ざりたかったんだろうか。一緒に暴れたい気持ちを理性で抑えて、私に付き合ってくれてたんだろうか。
ちょっと申し訳ない気持ちになるのと同時に、何だかねじコちゃんの存在が遠く感じるや。ふふ……。
なんて勝手にセンチメンタルになってる内に、前線で踏ん張り続けてるゾエ君がついに狂々拠点のチェスピースを見つけ出したらしい。トークからうるさいくらいの歓声が上がると共に、私のほうにもアナウンスが入った。
テファーナチームがギルトア領の第四エリアを攻略しました!
「すごいすごい! みんなナイスー!」
私も一緒になって喜ぶ。
ただ、あまり浮かれてばかりもいられない状況のようだ。攻略班のメンバーはすぐに声のトーンを下げ、移動しながらの作戦会議を始める。
『一旦満足して帰るかどうか』
『チェスピース奪った今この瞬間が一番危ういっすもんね。漁夫狙いが来てたら厄介だなあ』
『普通に考えたら一度拠点に持ち帰るのが現実的っぽいけど』
『持ち帰ったところでってのはあるんだよな。お持ち帰りルートにするとしたら、自然残りの時間は防衛に使うことになる』
そう、チェスピースは強い幻波を発するというギミックがある。建物の中にいないと、どこにあるのか誰が所持しているのかという、大まかな位置は特定できてしまう。
よっていわゆる“漁夫”――――敵同士がぶつかり合ったところを襲撃するプレーイング――――が有利に働くルールとなっているのだ。攻略の通知が全チームに行き渡った今この時こそ、最も狙われやすい瞬間とも言えるだろう。
しかしピースを自陣に持ち帰ったとして、それを私とバレッタさん二人に委ねてまた攻略に出かけられるだろうか。だったら攻略班が自分達で所持したままでいるほうが、まだ安全とさえ言えるかもしれない。
でなければ残りの時間は自陣に人員を割いて、拠点防衛に重点を置くか。
守るか攻めるか、みんなが下した答えは――――――。
『……ところで皆さん、こっちさらに人少なくなったと思いません?』
『ちょんもいなくなった。もしかしてここは捨てたか』
『諦めて北防衛に全振りか。とにかく一日目を生き延びようとするんなら、妥当な選択』
『ってことは……もしかして南ガラ空き?』
『チャンスでは』
『攻めるか!』
『攻めるべ!』
『ヒャッハー!』
――――――……はい。我等がイノシシ部隊の脳内から「撤退」という単語は除き去られた模様です。
そんなわけで奪ったピースを所持したままという無防備な状態で、攻略班はさらにもう一つの拠点からピースを没収することに成功。いやはや、勢いづいてるねえ。
私はまるで蚊帳の外とはいえ、やはり自分のチームが順調に勝利へ近付いている様子を見聞きするのは、大変気持ちがよいものである。自分が働いてないからこそ楽しいまである。
うむうむ皆の
なんて左団扇で高見の見物を決め込んでいたものだからバチが当たったのか――――――突然、スピーカーから悲鳴が上がった。
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