212日目 同盟(2)

 そうこうしている内に一時間はあっと言う間に過ぎ、今イベント初の密談フェーズタイムがやって来てしまった。


 個人的には攻略フェーズよりも気合を要する時間である。

 チームの代表として一人で挑まなきゃならないし、何よりうちのチーム、ヘイトの買取数が突き抜けてるからね……。もう在庫過多で破産寸前だよ~。

 呼びだされてのこのこ出て行ったら集団リンチに遭う、とかなりかねないもん。まあシステム上それはないとしても、誰にも相手にされないとか、ねちねち嫌味言われるとかは全然ありそう。


 一応どんな姿勢、作戦で臨んでいったらよいか、事前にみんなに意見を聞いてみたところ――――――。


「リーダーの好きにしていいっすよ」

「まあこれだけヘイト稼いじゃってますからね。今更協力しようとか言っても取り合ってくれないでしょう」

「何なら密談フェーズで全員敵宣言してくれば」

「ヨシヲとは組みたくない。他はどうでも」

「ビビアさんがやりたいようにしてください。どっかと同盟結ぶもよし、孤高を貫くもよし! 態度悪いリーダーは後で言ってくれれば俺等がどうにかしとくんで」


 ――――――だ、そうです。

 私の『好きに』だとか『やりたいように』だとか良いように言ってるけど、つまりみんなノープランなんじゃん! 適当だし人任せなんじゃん!

 それでいて好き勝手暴れてるもんだから、私の心労が半端ないんですけど!

 くっそ~、脳筋どもめ……。


 まあ本気で「どうでもいい」って考えてることは伝わってくるから、プレッシャーはちょっと軽くなったけどね。私が密談フェーズでやらかして全方位から敵対されることになったとして、誰も私のこと責めたりはしないんだろうなってことは分かる。

 でもやっぱりお飾りリーダーとして、最低限の体裁だけは整えておかなきゃ。


 ってなわけで、即席で考えた密談フェーズでの私の方針。どこか他チームから密談の申し込みがあった場合は、そのチームにひたすら媚びを売りに行く。


 やっぱ私の考えとしては、今回のルールだと最初は協力が強いと思うんだよね。

 どっかのタイミングで裏切り必須とはいえ、ライバルが12派閥もあってそのすべてを1チームで征服していくとか、現実的ではないだろう。

 いくらうちの蛮族君達が強いって言ったって、複数のチームが一斉にうちに矛先向けてきたら勝てるわけないもの。そしてそういった状況はヘイトバーゲンセールを終えてきた今、往々にして有り得る事態と言える。

 どこでもいいから、とにかく一つでも味方を増やさなきゃ。


 もっとも私が余所に尻尾を振って同盟を組んだところで、チームメイトあいつらがそれに従って行動するとは限らない。

「リーダーの好きにしていい」とか言ってますけど、いざ本戦が始まったら「同盟なんざ知らーん、目に付いたところを攻めるんじゃー!」って手のひらを反す可能性だって十分ある。これまでの観察を経て築かれた彼等への信頼感なんてそんなもんである。

 まあ、それならそれでしょうがないってことで。

 とにかく私は私の理性と倫理観に則って行動しましたんでね。当方に責任はないのです。


 で、これも十分あり得ることだと思ってるんだけど、初手どこからも密談の申し込みが入らなかった場合。そしたら、今のところいざこざが発生していないチームに、媚びを売り込みに行こうと思っている。


 さすがのうちのヒャッハー集団達も、全部のチームにちょっかいかけてる時間はなかった。聞いたところ、陣地が離れているとか産出されるアイテムに魅力がないとかの理由で、特に関わり合ってないチームも幾つかあるとのこと。

 その中にはダナマスのきーちゃんチームとか、シロガネとムラクモヤマを縄張りとするめめこさんチームなんかも含まれる。知り合いっていうのもあって、ここら辺に交渉持ち掛けてみようかなって考えてるよ。


 きーちゃんチームは距離が遠いので協力といっても何ができるんだって話ではあるんだけど……まあ、同盟相手皆無ってなるよかましでしょう。


 時刻は21時10分。視界スクリーンに、『密談フェーズ開始!』のダイアログが表示される。

 話の流れからお分かりかとは思うが、この密談システムは申し込み制となっている。申請があると通知が入り、許可すると先の控室のような空間に対象者が飛ばされる、という仕組みである。

 それでとりあえずどこかからお誘いが入らないか、まずは三分ほど様子を見ようかと思っていたんだけど――――――。



[マ ユ]さんから密談の申請が届いています。許可しますか?



 ピコンッという通知音と共に表示された文字に、私は目を瞠る。

 え、早速? しかも相手は……ま、マユさん?

 うちが一番恨み買ってそうな、クリフェウスさんちのマユさんじゃん!


 いや申請が入るのは嬉しいんだけど、これはもしや交渉を持ちかけられるとかではなく、呼びだされて嫌味や小言をぶつけられる、若しくは宣戦布告される流れ? 或いは協力するふりして嵌められるなんて可能性も……。

 うちのヒャッハー衆のしてきたことを考えると、全然好意的に受け取れないよ! どどど、どうしよう……。


 しかし、ゆっくり悩んでいる暇はなかった。



[まことちゃん]さんから密談の申請が届いています。許可しますか?

[エルネギー]さんから密談の申請が届いています。許可しますか?

[YTYT]さんから密談の申請が届いています。許可しますか?

[狂々]さんから密談の申請が届いています。許可しますか?

[ササ]さんから密談の申請が届いています。許可しますか?

[ヨシヲ]さんから密談の申請が届いています。許可しますか?



 ひいいいいいい……っ!

 ピコンッ、ピコンッ、ピコンッ、ピコンッ、と断続的に響き渡るSEに、私は戦慄するしかない。

「誰にも相手にされないかも……」なんていじけていたくらいなので、大人気と言ってもよいほどのこの申請ラッシュは喜ばしいことである。……なんだけど、ここまでくると逆にマイナス思考に陥らざるを得ない。


 だってこの中に『ササ』とか『ヨシヲ』とかの名前も混ざってるんだもん! マユさん含めると、うちとバチバチな三大巨頭が揃ってるんだもん!

 こんなの、他チームのリーダーが全員手を組んで私を潰しに来てるようにしか見えないよ!

 なんて被害妄想に襲われていると、ねじコちゃんが私の異変に気付いたらしい。作業の手を止めて声をかけてくれる。


「どうしました、ブティックさん? 総スカン食らっちゃったりしてます?」

「それが逆で……」


 かくかくしかじか、私は事の詳細をねじコちゃんに話した。すると彼女は訳知り顔で苦笑を浮かべる。


「はー、なるほど。そっちの方向性で来たか……」

「どうしようねじコちゃん。こんなの誰も信じられないよ。密談に応じたところで、私ミンチにされちゃうよ」

「んー。いや、寧ろこれはストレートに、ブティックさんに協力を求めてるんだと思いますよ。そうでなくとも情報交換狙いとか。怖がらなくても大丈夫かと思います」

「えー!? だってだって、クリフェウスさんちのマユさんとかアンゼローラさんちのササとかジャコウさんちのヨシヲとかもいるんだよ!? 100パーうちに恨みある人達じゃん!」

「それはそれ、これはこれですよ」

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