212日目 同盟(1)

ログイン212日目


 さあ、【賢人達の遊戯会・エリン主催編】のメインイベント二日目がやって来た。本日からいよいよ攻略フェーズが始まる。

 昨日は初対面ということもあってヒャッハー四人衆のことは好きに遊ばせておいたけど、さすがに今日もそれじゃあ困りますのでね。特に大工のミラン君にはしっかり働いてもらわないと。

 というわけでワタクシ、始めにびしっと言わせてもらいました。びしっと。


「あの、ミラン君、できればでいいんだけど、今日は拠点建築のほう手伝ってほしいな。このペースでいくとチェスピースの半分くらい素っ裸で晒すことになるから。他のみんなも、今日はあんまり遊ばないで真面目に作業してね。いやあの、昨日が遊んでたとか不真面目だったとかそういうわけではなくてね。なるべくね、こう、みんなもできれば試合に勝ちたいでしょ? そのために一人一人ができることをですね、……」


 びしいっ! とね。

 背後ではねじコちゃんが手を組んで、「ブティックさん頑張れ!」って小声で励ましてくれてました。

 したらば、私の熱い活に皆心を打たれたようで、フィールド採集や拠点建築にちゃんと取り組んでくれるようになったよ~。


「なんかちょっと可哀相になってきた」

「そういやあの人リーダーだったわ」

「Bさんより後ろのねじコの圧が……。あいつ何でもないふうな顔して実は昨日一日溜め込んでたんだなって……」

「了解しましたビビアさん! 何でもお申しつけください、何でもやります!」 


 そうしてみんなはばらばらと、自分に割り当てられた仕事に散っていく。うんうん、よかった、蛮族でもちゃんと言葉は通じたんだ。

 最初からこうしてればよかったんだね。楽しむためのゲームであんまりみんなに指図するのも悪いかなって思ってたけど、やっぱ時にはリーダーとしての威厳を発揮することも大事なんだな。


「ゾエさんだけがただのアホだったことが明らかになった……」

「え? ねじコちゃん何か言った?」

「いえ、何でもないです。じゃあ私達も仕事しましょうか!」

「うん!」


 もっとも、みんながプレイヤー狩りして遊んでるのを羨んでたとか、自分達がしている地味な仕事が退屈だったとか、そういうわけじゃ全然ないんだ。寧ろ私としては、この手のこつこつ地道にやる作業ゲーが楽しくて仕方がない。


 のこぎりでこりこり木を切ったり、地中を掘り進めて鉄鉱石を集めたり、レンドルシュカの町でランダムに発生する廃材を探したり、それらをクラフトして新たなアイテムを生み出したり。

 特に伐採や採掘はやったことなかったから新鮮なかんじ。

 簡単に大きな木を切り倒せたり、お豆腐みたくさくさく地面掘れちゃうの、たーのしーい。無限にできちゃうよ~。


 それにね、こうやってみんなでトーク繋ぎっぱなしでゲームやるのも、ソロにはない醍醐味がある。割と頻繁に不穏な会話が混ざるのはまあアレだけど。

 私がよくやってる、きまくら。実況流しながらきまくら。で作業するっていうのと近いものがあるかも。流れてくるのが身内――――って言っていいものかは謎だけど――――の会話ともなれば、愉快さも一入ひとしおだ。


 きまくら。って独りでやっても楽しいしみんなでやっても楽しいなんて、最高のゲームだなあ。たまにはこういうわちゃわちゃしたのも悪くないね。

 ほら、耳を澄ませば今この時だって仲間達の賑やかな声が……――――――。


『えちょ、待って待って待って、どこに仕切り立ててんすか。それじゃうちらが出れなくなるでしょ、なーにやってんすかゾエさん。うわしかもこれ鋼材じゃないですか、壊すのちょーめんどいんですけど。仕事増やさないでもろて』


『……から台座周りをもっと、ふわっ!? なになになに!? なんか落ちた!』

『あ、そこ落とし穴付けといたわ。分かりにくくていいっしょ』

『言っとけよクソ名無しがあ!』


『………………』


 顔を見合わせ、沈黙する私とねじコちゃん。なんか私達、昨日もおんなじようなポーズしてたね。


 ……いや~、やっぱね、人にはそれぞれ得手不得手があるっぽくてですね。建築のお手伝いに回ってもらっていたゾエ氏と名無し氏は、ミラン君とバレッタさんの強い要望により左遷となりました。

 聞いてるかんじ狩りに出ていた昨日はこの二人が特に活躍していたようだけど、今じゃすっかりお払い箱に……。

 まあでも、ちょっと安心したよ。遠征であれだけ強い二人が生産系作業も卒なくこなすなんてなったら、私の立つ瀬がなくなっちゃうからね。お飾りリーダーは承知とはいえ、最低限の沽券は確保しておかないと。


 因みにだけど、目立たないながらねじコちゃんもなかなか良い仕事してくれてるんだよ。

 彼女はいわゆる“人形ドール遣い”で、ぽてっとしたピンクの兎の縫いぐるみを連れ歩いてるの。この子が離れた場所とか高い場所にあるアイテムもひょいひょい持ってきてくれるんだ。

 可愛いし、痒いところに手が届くかんじなのがいいよね。ドールってこういう便利さもあるんだな~。


「ふふふ、ブティックさんも気付いちゃいましたか、ドールの魅力に……。どうですか、これを機にドール用の衣装にも挑戦してみては。っていうか何ならブティックさん、ドールそのものも作れるのでは? 【コグマベルト】でしたっけ、縫いぐるみっぽい装飾アイテム作ってましたよね」

「う、うーん、よくご存知で……。確かに興味なくはないなあ……」

「イキガミ取っちゃいましょうよイキガミ」


 彼女の言う『イキガミ』とは、【息髪リザード・テイル】というハイスキルのことである。ドールを自動マリオネット化する能力だね。

 ねじコちゃん曰くこのスキルを持ってるドール製作者さんが少ないらしく、需要は大きいそうだ。うんまあ、考えておくよ……。


 閑話休題。

 さて、匠達に暇を出されてしまったゾエ君名無し君は、私達とバトンタッチして資材集めに移ってもらうことに。フィールドに解き放すと無闇に遊びに行っちゃいそうって理由もあって拠点のほうに配備してたんだけど、まあ仕方ないね。

 とはいえこの交代は別の意味でも正解だった。


 っていうのも昨日テファーナさんちのお子さん四人組が、辺り構わず喧嘩の安売りバーゲンセールしてたでしょ? 当然、恨みを買ってないわけがなく。

 もーね、フィールドでアイテム集めしてると、ちょいちょい余所の人達がやってくんのよ、ちょっかいかけに。特にクリフェウスさんちのユカさんとアンゼローラさんちのササさん達、果てはジャコウさんちのヨシヲ君達ね。


 クリフェウスさんちはまだ分かるよ、お隣だから。平和的に取引申し出てきたリーダーマユさんを容赦なく強制送還おいかえしちゃって、ユカさんめっちゃ怒ってたもんなあ……。

 けどアンゼローラさんちとジャコウさんちは領地の境界が接しているわけでもなく、わざわざ遠路はるばるご来訪いただいてるんだよね。暇かよ。

 ……ええはい、先に遠路はるばる喧嘩売り付けに行ったのはこちらなんですけど。暇かよ!


 私にはおニューの傘と雷技があるし、ねじコさんもドール使いとしてある程度襲撃者への対応はできる。

 けどやっぱ水フィールドでないここでは【レオニドブリッツ】もそこまでの威力はでないし、相手側のレベルの高いこと高いこと。敗北し、折角集めた資材を奪われてしまうこともしばしば。


 っていうかね、どうもあの人達、雷ダメージ対策ちゃんとしてきてるっぽいんだよね。じゃないと【マグネティック・フィールド】でバフ掛けしてもあの硬さっていうことの説明が付かない。

 うちのチームには【ダイナモチャージ】持ちのゾエ君もいるし、まさかこっちを強く意識しての装備で来てるんだろうか。

 特殊装着は基本的にここ【メタモルランド】では変更できないゆえ、変えるとしたら一旦メインワールドに戻らなければならないはず。試合中ずっとうちをメタった装備でいるのもそれはそれで弱いだろうし、着替える手間を考えるとつまり………………暇かよ!!


 都度ゾエ君達が助太刀にやって来て追い返してくれてはいるんだけど、治安がよくなる気配は今のところ皆無である。うーむ、因果応報という言葉の意味を身を以て知る今日この頃。


 因みに準備フェーズ中はチェスピースの台座周辺――――つまり拠点周りには、敵チームは近付けないようになっている。これで建築途中の拠点も襲い放題ってなったらゲームにならないもんね。

 だから私とねじコちゃんが安全な拠点周りで仕事ができるというのは、それはそれで適材適所ではある。ねじコちゃんも大工なわけで、いつまでも資材集めにかかりっきりなのは勿体ないしね。

 あとは野に放たれたゾエ名無しコンビが、真面目に陣地内で仕事してくれることを願うばかりだ。

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