300日目 トレンド(2)
「あらあ、これはこれは、万年主席のガリ勉優等生リルステンお嬢様じゃありませんの~」
「リルお嬢様はあ、勉学や社交、習い事にとおーっても忙しくって、お洒落や流行に気を遣ってる暇なんてありませんのよねえ~?」
「だからドレスもアクセサリーも無難なものばっかり」
「どうせいっつも侍女に選んでもらってるんでしょう?」
「ああ、誤解しないでくださいませ。ダサいって言ってるわけじゃありませんの。でもまあなんていうか、じ・み」
「そんなあなたがあ、こんなお店に何の御用なのかしらあ? ここ、私達のお気に入りの行き着けのお店なんですけどお」
「あら、そういえばリルお嬢様、今日は何だか随分浮かれているように見えますわね? うーん、いつものイマイチ垢抜けないリル様と何が違うのかしらあ……」
「……あら? あらあらあらあ~? ねーえシャンタ、リル様のかぶってらっしゃるあのお帽子、どこかで見たことないかしら?」
「やだ、ねえシエル、あれ、最近私達が気に入ってかぶってるのとお揃いだわあ」
「あっ、本当! 私達が身に着けてるのがあんまり素敵なものだから、近頃周りの子達も真似しだしたのよね」
「ふーん? それをリル様があ?」
「わざわざこんな辺鄙な店に足を運んでまでえ? それってもしかしてえ……」
「リル様も私達のお真似をなさっているということ……、つまり、私達の輝くファッションセンスをお認めになった、ということなのかしらあ?」
にやにや、にやにやにや。
ツインズに挑発ましましの微笑みを向けられて、リルステンの顔は見る間に真っ赤に染まっていく。
ああっ、難攻不落清廉潔白なライバルの弱点をついに見つけてここぞとばかりに攻撃したい気持ちは痛いほどよく分かるけども、それ以上はっ。それ以上はもうやめたげてっ。
リル様のライフはゼロよ!
……でも羞恥心に悶えるリル様も美味しいデス。
はらはらうきうきと三人の対立を見守る私。けれどふと、リルステンが赤く染まった頬はそのままに、肩から力を抜いた
そうだよ。発された呟きに、双子は目を瞬かせる。
「私はみんなの……、君達の、真似をしたんだ。真似がしたかったんだ。だって羨ましかったんだもの。私だって普通の女学生に過ぎないのです。それは、みんなと同じ可愛いカッコして、はしゃいでみたい気持ちだってあります」
ずきゅーんと、私のハートが射止められた音がする。
ぐ……ぐうかわ……! なんて、なんていじらしい子なのリル様!
これがヒロイン力! 人気ナンバーワンを常にキープし続ける乙女の底力……!!
そんなスーパーガールのパゥワーは、きまくら。さいかわの悪役令嬢シエルちゃんとシャンタちゃんにも届いたらしい。二人は意地の悪い笑みを収め、互いに目配せをした。
そしてリルステンに向き直ると、シエルは腕を組み、シャンタは腰に手を当てる。尊大な態度は変わらないけれど、二人の眼差しは穏やかだった。
「じゃあ、認めるっていうのね。私達の溢れる才能。ビビアを見つけだしたこの鋭い審美眼」
「流行を牽引するカリスマ性、煌めくパッション」
あくまで挑戦的な姿勢は崩さない双子に、リルステンは優しく語りかける。
「……シエル、シャンタ。私は君達の能力や才能を過小評価したことは一度もないよ。君達は強くて勇敢で素敵だ。成金だの下級貴族だのと馬鹿にされようとも、君達は決してへこたれなかった。いつだって胸を張り、自分を貫いていた。私はそんな君達をずっと尊敬していたよ。だからこそ、君達のことを
言って彼女は、自身がかぶっているネコフードに手を触れた。
少しの沈黙ののち、ふっと、シエルが吐息のような笑みを漏らす。
「似合ってるわよ、リルステン。そのネコフード」
「でもお洋服は変えたほうがいいわね。メイクもファッションに合ってなーい」
「……今度、コーディネートのコツとか、教えてほしい。今流行りのお化粧のことも」
じーんと、私の胸に温かいものが広がっていく。
これが、シエルちゃんシャンタちゃんとリル様の歴史的和解の瞬間……! まさかあのコミュニケートミッションの結末が、こんなほっこりエピソードに繋がっていただなんて!
……と、思いきや。
「代わりに私が君達に、課題のやり方を教えてあげます」
「あっ、何よ、やっぱりそういう魂胆なのね? あなたそれが言いたかっただけでしょう」
「そういうわけではありません。ただ私は教えてもらうばかりでは申し訳ないとギブアンドテイクの精神を実践して、」
「お説教は結構でーす。さ、帰った帰った」
「二度とここには来ないことね。あなたみたいな頭の固い人に、[ブティックびびあ]の良さなんて分かりっこないんだから」
しっしっと手を払うシエルちゃんに、指で口を広げていーっと舌を出すシャンタちゃん。そうして二人はリル様を店から追い出してしまった。
結局喧嘩別れになるんかーい。
あとシエルちゃんは「二度と来るな」なんて言っちゃってるけど、私としてはたまにはリル様にもお店に来てほしいんですけどおー、なんて。
でもリル様が帰った後もどこか上機嫌なツインズに、今度は私がにやにやする番なのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます