212日目 同盟(11)

 分かたれたイーフィエルネギー連合とは対照的に、まことちゃんは最後まで約束を違えなかった。イーエルチームを敵と見定め、私とバレッタさんのことを献身的にサポートしてくれた。


 ビス子さんを失ったところでそもそも敵の人数は六人。それが二手に分かれて、三人と三人。

 対してこちらは私とバレッタさんとプラスまことちゃんチームが三人で、計五人。

 三対三でいがみ合ってるところに団結した五人が攻撃を仕掛けるというのは、非常に有利なことである。気付けばイーエル連合の残りはイーフィさんと環奈さんだけになっていた。

 そこへさらに攻略班の四人が帰ってくる。


 【チェスピース】の所持者は未だイーフィさんとはいえ、九人のプレイヤーに囲まれたとあらば敗北を悟るのは自然なことだ。追い詰められたイーフィさんは嘆息し、両手を挙げた。



イーフィさんがプレゼントを差し出しています

→・受け取る

 ・受け取らない



 現れたダイアログに肯定の選択を入力すると共に、通知が入る。



テファーナチームがテファーナ領の第六エリアを攻略しました!



 なんか文章変なことになってるけど、これがどういうことなのかは取得したアイテムを確認せずとも分かった。イーフィさんがピースを譲ってくれたのだ。


「いいんですか?」

「こんな状況で貴君等に勝てるとも思えんのでな。降参だよ。完全に我々の負けだ。それに良いものも見せてもらった。我々では成し得なかった確たる同盟……友情の絆……。その美しさに敬意を表し、我等はここで退くとしよう」


 この人と話すのも久しぶりだけど、堂に入ったロールプレイは健在のようだ。

 そうして去って行く二人を見送っているところで、外からまた別のまことちゃんチームのメンバーがやって来る。彼――――[竹中]氏はまことちゃんと何やらやり取りをしていて、話を終えるとまことちゃんが私のほうへ近付いてきた。

 かくして、本日二度目の“プレゼント”が差し出される。



テファーナチームがテファーナ領の第四エリアを攻略しました!



 ちょんさんからうちのピースを奪ったのは、どうやら竹さんだったらしい。そして約束通り、失われたピースはここで私の手中に戻ってきた。

 まことちゃん、自分に利があるわけでもないのにこんなにもうちに尽くしてくれて、何と言ってお礼を返せばいいのか……。呆然と立ち尽くすことしかできない私に、彼はのんびりと微笑む。


「お礼は今度お願いします。というわけで、明日の密談も頼みましたよ」


 ……あ、はい。やっぱりこの過大なる親切に見合った何かを求める気ではいるんだね。

 まあ最初から、うちに協力してほしいことがあるって言ってたものな。でもここまでしてもらったからには、こちらもできることは全力で応援していこうと思うよ。


 問題は何を対価としてくるか、だな。今日のあれこれに見合ったものってなると、相当大きい何かを要求されても文句は言えなさそうでちょっと怖い。

 ……あんまり無理めなことを言われたら、うちの蛮族を出しにして有耶無耶にしてもらおうっと。あの人らはあの人らで、こういうときこそ役立ってもらわないとね。


 そんなわけで、色々ありつつもうちのチームは拠点を二つ増やして、プラス2ポイント。度重なるラッキーとまことちゃんの義理人情により、好調な走りだしができたのでした。

 めでたしめでたし。


 と、本日の試合時間も終わりを告げ、控え室に飛ばされたところで、何やら後ろから迫ってくる影が。振り返れば、バレッタさんが怖い顔でこちらを睨んでいる。

 わ、私また何かやっちゃいました?


 ……ってまあ、フリでも何でもなく普通に色々やらかしてるんだよね。うちが襲撃されてるのに気付くのが遅れちゃったし、防衛戦はほとんど何も役に立たなかったし。

 よってバレッタさんがお怒りになるのも無理のないことだ。お叱りは甘んじて受け入れよう。

 さてどの失態を咎められるか、と覚悟を決めた私に降りかかってきたのは、しかし予想外の追及だった。


「何あの、ヘンな技」

「変な技……? って、ああ、【グラウンドナッツ】のことですね。威力はまあぱっとしないですけど、動揺させて隙を狙うのには丁度いいかと思いましてつい……」

「あんな強いスキル持ってるなら、早く言ってよ!」


 つ、『強い』……? 私は疑問符を浮かべ、ぽかんと呆ける。

 いや、見た目のインパクトの割に別に強くはないんだけどな。

 もしかしてバレッタさん、グラウンドナッツの後すぐ打たれた環奈さんの【アンブラ・アンブレラ】と混同してない? あれはまた別の人の別のスキルでしてね。


「そんなの分かってる。その広範囲ダメージが入ったときに、ダウンしたのはビス子だけだったんだよ? 直前にピーナツがヒットした、ね。他との違いを生んでるのは、紛れもなくあんたのそのスキルじゃない」

「そ、そうだったのかな。バレッタさんも攻撃頑張ってたし、拠点のトラップにかかった可能性もあるし、たまたま[耐久]が削られてたんじゃ……」

「またそうやってはぐらかそうとして! 私【森羅知見チェック】持ちだから分かってるんだから。【森羅会得スワロウ】も持ってるしここであんたのスキル効果読み上げることだってできる。『対象の[耐久]の内、装着効果・アビリティで加算されている数値を削る』」


 はい、その通りですけど……。素直に頷く私を、バレッタさんはぎんっと睨みつけた。


「こんなの対人、特にこの試合においては超メタスキルじゃん!」

「そんなことないですよ。実際準備フェーズ中邪魔してきた人達にちょいちょい打ってたりもしましたけど、あんまり効いてるかんじもなかったですし」

「誰に打ったの?」

「えーっと、ササさんとかヨシヲとか? まあ見た目ギャグなんで、周りの人にげらげら笑われてるのを見てほくそ笑むっていう楽しみ方はありますけど……」

「そりゃ基礎ステが中身詰まってるガチ遠征勢に打っても効果は微妙でしょうよ!」


 やっぱり微妙なんじゃん。はい破綻~。

 と、心の中で胸を逸らす私に対し、しかしバレッタさんは退かず。


「ブティック、あんたの今の最大耐久値を言ってみなさい。装備も含めた数値」

「はあ……『5,196』、ですけど……」

「じゃあ基礎耐久は?」

「『2,096』です」

「自分に装備分の3,100のダメージが一気に入ったらどう思う?」

「困ります」

「困るでしょ!?」

「……あ、ああ~~!」


 怖い顔のバレッタさんにさらに一歩、ずいと迫られたところで、私はようやっと彼女の言わんとするところを理解した。


 そうか!

 ガチ遠征プレイヤーはそもそもの基礎耐久値が高いから、特殊装着アイテムで耐久を強化する必要性もそこまで高くない。だからグラウンドナッツを打ってもそんなに手応えは感じられない。

 でも私やビス子さんみたいなフィジカルの弱い生産主体勢は、大抵耐久を装備品で目一杯かさ増ししている。そこを削られるということは――――――大打撃だ!


 そして今回のこのイベント、私やきーちゃんといった人間が参戦していることからも分かる通り、ユーザーと運営の適当采配により生産プレイヤーも数多く選出されている……。


「ブティック。攻略フェーズにおけるあんたの役割が、これではっきりしたわね」

「……何でしょう、バレッタパイセン」


 バレッタさんは桃色の瞳をぎらつかせ、言い放った。


「雑魚狩りよ」



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