12日目 虫捕り

ログイン12日目


 いつものごとくお客との会話を楽しんでいると、今日もシエルシャンタがやって来た。

 今のところ断トツで彼女の訪問が多い。来なかったのって、多分2、3日くらいじゃないかな。

 けど、今日はいつもと様子が違った。彼女は店内を見回して、「あら!」と目を瞠る。


「いつの間にかこの店も、随分見栄えがするようになったじゃない?」


 ええ……言うてあなた、昨日も来てましたやん。でもって昨日から店のラインナップ特に変わってないやん……。

 まあ、NPCにそこを突っ込むのは無粋ってものか。


「ふふん、私が見込んだだけのことはあるわね。いいわ、よく頑張ったご褒美としてこれをあげる」


 まじで?

 今まで他の客キャラからはちょいちょいアイテムを貰ってたんだけど、シエルだけはどんなに来店回数が増えようと何も貰ったことがなかったんだよね。

 貰ったのは【星の結晶】というアイテムだ。見たことのないものだけど、彼女からのプレゼントと思えばなんでも嬉しいや。


 その後シエルはまたしてもファッションチェックをせがむのだけれど、適当に答えた後で、ここでもまた妙な素振りを見せた。

 今日は『今日のファッションが好き』という選択肢を選んだのだけれど、なんだか拗ねたような、難しい顔をしている。同じ回答をしても、いつもは何の反応もなく帰ってくのに。


「ねえ、もしかして気付いてる?」

「え?」


 素で聞き返してしまった。一体全体、どういうこと?

 けれど彼女は私の疑問に答えることはなく、「まあいいわ」と言い捨てて去っていった。ええ~、もやもやするなあ。

 プレゼント貰えたから好感度上がってるのかと思いきや、最後はなんか機嫌悪そうだった。よく分からん子だわ。


 気を取り直して、今日はまた【静けさの丘】へ素材採集に向かおうと思う。この船長コスに有り金のほとんどを注ぎ込んでしまったので、地道にまたお小遣い稼ぎしないと。

 そんなわけで門を目指して街を歩いていると……えっと……なんか、結構、人の視線を集めてる感覚がある。


 自意識過剰かなあ。私としてもいい服作ったって自負してるから、勝手に鼻が高くなってるのかも。

 思い込み激しいのは恥ずかしいよね。誰も私のことなんか気にしてない。気にしてないから。


 言い聞かせるためにもどぎまぎしながら視線を上げると――――――純ヒューマンな男の人と、ばっちし目が合ってしまった。彼はぽかんとした顔で、こちらを見つめている。

 私は慌てて視線をずらした。うわあ~~、ほんとに見られてた。

 ってことは、注目されてる? って感覚も、あながち間違いではなかったのかも。まあ、色合いだけをとってもかなり派手な衣装だからねえ。


 でもきっと、いいことでもあるよね? 私きっとそれだけ、いい仕事したってことよね?

 なら、よし、胸を張って歩こう。……でも、他人とは目を合わせないようにしよ。


 さて、今回の採集では特にやりたいことがあったんだよね。静けさの丘に着いた私が取り出したのは、【虫取り網】。

 そう、今日は是非とも幻蟲の捕獲に挑戦したい。幻蟲は売るといいお金になるし、特殊な布を作るのにも使えるからね。


 前も何度か蟲取りを試みたことはあったんだけど、あれ、私には駄目だった。普通に下手くそ過ぎて。

 攻略情報見ると種類ごとに一定の動きをしているから慣れればできるみたいなこと書いてあったけど、いやーレディバグの動きとか蛍っぽい虫の動きとか、まじで読めんよ?

 且つ、そう感じているのは私だけじゃないらしく、攻略記事のコメント欄では「無理ゲ」、「俺んとこの幻蟲AI学習装置ついてる」などの悲鳴が多数上がっている。


 なんかそれ読んだとき、あっさり諦めついちゃった。

 アクションゲーとかシューティングゲーとか元から凄い苦手だからさ、他の人にできないんなら私にできるわけないわな。蟲は買おう。って。


 因みにそんな下手っぴ達のために救済策も用意はされている。【花蜜石の杖】っていう道具があって、これは持って歩いているだけで幻蟲が先端の石にとまるという、虫取り網の上位互換アイテムなのである。

 但し、お値段は虫取り網の五倍。且つ消耗値は虫取り網の半分という、例のごとく貧民は手をだしにくい代物となっている。


 しかーし、そんなふうに諦めかけていた私に、奇跡の閃きが。それ即ち、【必中】スキルである。

 船長ハットについてきたこの習得可能スキルは、未習得であっても、帽子を装着している間は使える――――――というか寧ろ使わないと習得できないとのこと。

 このスキルを利用すれば、苦手な幻蟲採集も楽勝になるのでは? と踏んだわけだ。


 おっと早速ふよふよ浮遊する蛍っぽい生き物が。今は丁度日没後の時間帯――――きまくら。世界では朝昼夜が10時間で回転している――――なので、この虫が大変発見しやすくてよろしい。


 私は登録しておいた必中スキルのコマンドを実行――――――即ち、左手で対象を指差す。するとぴぴっという音と共に、蛍の光に照準線レティクルが合わさる。

「ごー!」と呟いて指令を確定すると、体が勝手に動いた。そして気が付いたときには、虫取り網の中に蛍が収まっていた。


『【フレイヤフライ】を捕まえた!』というダイアログが表示されたのち、幻蟲は光となってアイテムボックスに収納される。


 なんか、もやっと不気味な心地がしている。

 前、ワールドイベが始まったとき視界を強制的に動かされてかなりびっくりしたけど、まともにコンピュータに体を操作されたのはこれが初めてだ。いや、正確に言えば体が操作されてるんではなく、そう捉えるよう感覚に訴えかけてるってことなのかな。


 エレベーターで降下してるときにお腹がすっと冷えるだとか、金属の音に鳥肌が立つだとか、ああいう心地に似ている。

 ふよふよ不規則に漂う幻蟲を追いかけて、明らか体が変な方向に捻られてたかんじがあるし。勿論痛みなどの異常は全くないんだけど、なんかちょっと怖かった。

 これ、慣れるのかなあ。


 でも、何はともあれ必中スキルが昆虫採集にも役立つことが分かってよかった。この変な動作補正には若干怯むけれど……頑張るぞ。



【フレイヤフライ】

炎属性の幻素を多く有している蛍型の幻蟲。夜行性で短命。炎を纏って飛翔する。

幻性素材として幅広く使える。

代表的な使用法:鍛冶




******




【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(非公式)(鍵付)・クラン[竹取物語(株)]の部屋】



[レティマ]

(動画)

撫でるのやめるとつんつん攻撃で催促してくるアルパカキングのロシウス君


[ピュアホワイト]

可愛い


[ayumi♪]

先輩事あるごとに可愛い幻獣の動画アップするのやめて~~(。´Д⊂)

獣使いにならなかったこと後悔する~~


[レティマ]

(画像)

自分の巣があるのにわざわざノルンちゃんの巣に潜り込んで一緒に眠る不届きガラス、フェルト君


[ピュアホワイト]

可愛い


[ayumi♪]

静止画もらめえ~~(。´Д⊂)


[レティマ]

フルムーンラビットのアルムたんをボールにして遊ぶブーツキティズ


[ayumi♪]

何それ動画観たい~~(。´Д⊂)


[レティマ]

(動画)


[ピュアホワイト]

可愛い


[ayumi♪]

ああ~~どっちに転んでも生き地獄~~(。´Д⊂)


[ファンス]

楽しそうにしてんじゃないすか

こっちはやっと残業から解放されたところだってのに


[ピュアホワイト]

は?

こっちは絶賛残業継続中なんですけど

野中さんの幻獣動画から癒しを得る貴重な休憩時間中なんですけど


[ファンス]

お、おう

それはすまんかった


[ピュアホワイト]

くそっまじでこの時期に管理職になんかなるんじゃなかった

もっと全力で小田を推して回避しとくべきだった

てか俺も福岡に逃げるべきだった


[ファンス]

お、おう

(しまった、地雷を踏んだようだ)


[レティマ]

お疲れ様です

(折角怒れる白様を宥めていたところだってのに小田このやろー)


[ayumi♪]

お疲れ様です(*・ω・)

(とっても繊細微妙な空気を読んであゆみは静かにしてます)


[竹中]

な~~~~

ちょっと聞きたいんだけど~~~~


[ファンス]

おっ絶賛休日満喫中の竹さん、いいところにきましたね


[竹中]

全然知らん異性っぽい子に話しかけるときさー

どうやったら怪しまれんかね


[ピュアホワイト]

通報してきます


[竹中]

いや違う違う

きまくら。内でよ? きまくら。内の話よ?


[ピュアホワイト]

通報してきます


[レティマ]

竹ェ…いくら現実に出会いがないからって、きまくら。をナンパに使うのはちょっと…


[ファンス]

全然知らんてことはステータス確認してないんでしょ?

んで見た目可愛いアバターだったんでしょ?

どうせ中身おっさんですよそいつ

おっさんが可愛いと思う奴なんておっさんに決まってますよおっさんの最大の理解者はおっさん


[竹中]

だから違うんだって!勝手に俺を出会い厨に仕立てあげるな!

そういうふうに勘違いされないためにおまえらに相談してんだよ!

あと小田堂々と俺をディスんな


[ayumi♪]

経験から言いますとそういう方はゲーム内でいきなり話しかけてくるんじゃなくて、まずSNSで応援コメなりフォローなりしてきますね

で、さも偶然を装ってその後ゲーム内で接触してきます

割とよくあるってことは、有効な手法なんじゃないですか?


[竹中]

長谷川ちゃ~~ん

違うんだよ~~


[竹中]

今日俺の作ったボタンアイテムをすげーセンスよく衣装に取り入れてた子がいるんだよ~

その子本人が作ってるのかどうかは知らんけど、とにかく製作者と一回連絡取ってみたいなと

あわよくば俺の服作ってもらいたいなと


[ピュアホワイト]

そしてあわよくば?


[竹中]

そしても何もねーよ!


[レティマ]

マジレスするとどんな近付き方しても怪しむ人は怪しむと思う

それを覚悟の上、直球で竹の思ってること伝えるのが一番じゃない?


[竹中]

やっぱそうだよな

でもその人セミアクティブなんだよな…


[ファンス]

それはもう最初っから近付くなと言われてるようなものではw


[ayumi♪]

同じボタン付けた服着てアピールしてみるとか


[ピュアホワイト]

話聞いてるとたまたま見かけた人ってかんじなんですよね

次いつ会えるかも分からないんじゃないですか


[竹中]

……うむ

でももし同じ衣装着てたら視界の端にいても分かると思う

目立つから


[レティマ]

何だろうこの電車で一目惚れした子のことを語る男子高校生の話を聞いているかのようなむず痒さと不毛さ


[ayumi♪]

どんな見た目の子だったんですか?

気になります

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る