42日目 きまくらゆーとぴあ。(2)
これって一種のロールプレイというやつなのだろうか。何となくむず痒くなりそうで私はその手のエンタメは勝手に敬遠してたんだけど、あの人、堂に入ってて違和感なかったなあ。
「きゅんっ。ときめいちゃった」
えっ。
突然耳元から変なナレーションが入ってきて、私はぎょっとして体を捩った。
いつの間にかすぐ傍らに少女が立っていて、人差し指と親指で作ったレンズをこちらに向けている。つまり、恐らく撮影されている。
だ、誰!?
「そう思った?」
「はい?」
「かっこいいよね、うちのだんちょ」
唐突な切り出しに一瞬頭が追い付かなかったが、やがて話の対象が先のイーフィさんにあることに思い当たる。
「あ、はい。かっこいいですね」
未だ状況は吞み込めていない。けどとりあえず眼前に突き出された質問に素直に首肯すれば、少女は緋色の目を瞬かせた。
「ふむ。その方、エルネギー式きまくら。人種分類法で言うところの第一種、阿呆とお見受けした」
わざとらしい口調でそう言って、レンズを作っていた指を解いて下ろす。彼女は狼族で、地面に付きそうなくらいに長い髪が印象的だった。
「因みに私は阿呆に近い第二種、畜生に属す者です。だんちょは生粋の第一種。私達、阿呆を助けるのが趣味なの。国境なき騎士団サブマス、ミナシゴと言います。3745と書いてミナシゴ。よろしくね、ブティックさん」
「はあ。どうも、初めまして」
なんだか凄く失礼なことを言われた気がしないでもないけど、情報量が多くて突っ込む隙がなかった。
私の名前――――正確に言うと名前ではないのだけれど――――がフリー素材のように扱われているのはこの際もう無視するとして、とにかく、このミナシゴさんという方は団長さんのお仲間らしい。
となると無下にはできないわけで、私は愛想笑いを浮かべるしかなかった。
それで終わりかと思いきや、ミナシゴさんは私の隣に留まって、団長さんがまた別のプレイヤーと対峙しているのをぼんやり眺めている。
「ぶっちゃけ南は切り捨てろって意見も一理あるわ。南はイージーゲーム過ぎて撮れ高ないんだよね。騎士団の存在意義としては一番需要ある場所ではあるんだけど、どうせイベント終盤になるにつれて過疎ってくしなあ。ま、辛うじて今日はブティックさんに会えたからラッキーってところ」
あまつさえ、勝手によく分からないことを愚痴りだした。
腕を組んで佇む様を見るに、すっかりこの場所に落ち着いてしまったらしい。暇なのかな。
けど、これは私にとって好都合でもあった。さっき忙しそうな団長さんには聞けなかったことを、この人になら聞いてもよさそう。
「あの、ちょっとお聞きしたいことがあるんですけど」
「はいはい。何でもどーぞ」
「もしかしたら見てたかもしれないですが、さっき私、プレイヤーから攻撃受けたっぽかったんですよね。実は昨日も似たようなことがあって、しかも昨日はワンパンだったらしく、気付いたら赤ゲージの状態でホームに戻されてたんです。きまくら。って、実はPK行為が可能なんですか? 私の記憶だと、確かそういうの存在しない平和なゲームだと思ってたんですけど」
そう尋ねると、ミナシゴさんは、ぷふ、と空気が抜けるような変な声を漏らした。そして彼女は丸い緋色の瞳で、まじまじと私を見つめる。
「ブティックさん、このゲーム始めてどれくらい経つんすか」
「え、と……一か月ちょいくらい?」
「んな馬鹿な」
「う。いや、確かに、かーなーり、マイペースに進めてる自覚はありますけども」
「いやそっちでなくて。……うん? まあ、そうね、一か月経つのにその知識量ってのも問題よね。けど一か月でシエル攻略してあるかる、竹取、結社と交流して仕立屋業も軌道に乗っててって、それもオカシイでしょ。……んー、混乱してきた」
んな馬鹿な。彼女はもう一度、そう呟いた。
******
【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(非公式)(鍵付)・クラン[あるかりめんたる]の部屋】
[陰キャ中です]
くたばれええええええええ!!!!
[めめこ]
無色協定、移動したっぽいです!
めめこ、今から陰キャさんのほうに加勢行きます!
[陰キャ中です]
さんくす!
[ウーナ]
こん~
もしかして今大分遠征に出払ってる?
[千鶴]
よっぽど不向きな人以外は全員東の駆除班行ってます
[ウーナ]
そっか、じゃあ今回は私もそっちでポイント稼ごうかな
敢えて生産班に回らず駆除班で活動してるってことは、クラン入賞目指してるってことでいいのよね?
[陰キャ中です]
いやどっちかっていうと私怨
[ウーナ]
私怨かい
[陰キャ中です]
ってのは冗談でメンバーそれぞれの個人ランク上げるのが一番の目的かな
クランランクは二の次
うち人数多いから上位入ったところで全員に報酬行き渡らないし
[陰キャ中です]
同じように個人ランクそこそこ上げたい人は協力してもらって
そうじゃないなら自由に活動してていーよ
つってもうちの行動理念的に喧嘩売りには行かない方針だから、もしガチで個人ランク上位狙う人は単独がおススメ
そんな人はうちに入らないとは思うけど一応
[ポワレ]
あっ、ミズカゲタイジャ
[陰キャ中です]
仕留めよう!
[めめこ]
既に竹取の射程範囲ですね…
[陰キャ中です]
知るか!
獲物なんて奪い取ってなんぼ!
[ジュレ]
テノヒラクルーエ…
[アリス]
おかしいな…さっきのログでうちは喧嘩売らない方針ってあったような…(´っω-`)ゴシゴシ
[陰キャ中です]
喧嘩売ってるわけじゃないもーん
レンドルシュカ防衛班として極めて真面目に仕事してるだけだもーん
[Wee]
ポイント溜めは結局幻獣処理が一番効率いいんでしたっけ
[ポワレ]
そだねー
ついでにライバルから獲物=ポイントを奪えるって点でも旨みうまうま
[ウーナ]
逆に奪われるリスクも背負ってるけどね…
でも折角クランという庇護を得たからには活用しない手はない!
[カタリナ]
めめこさんのそのスキルいいね!
範囲デカくて足止めに便利!
[めめこ]
えへへ~、お役に立てて何よりです~
フラッシュ、クールタイム長いですけどここぞというときに使えますよね
味方巻き込み対策のサングラスで装備の枠一つ奪っちゃうのがアレですけど
[カタリナ]
でも準備した上での作戦としては全然あり!
[ジュレ]
見ないスキルだなあ
結晶消費して取ったの?
[めめこ]
うふ
[ジュレ]
まさか集荷!?
どこのどこの!?
[めめこ]
うふ
[ポワレ]
あ、なんか予想付いたわ
ただの噂として認識してたけどめめこさんが持ってることからしてほんとだった…?
[陰キャ中です]
くっそー竹取のあの遠慮ない内輪感、あれ絶対リア友どうしだと思うんだよね
リア充がこんな世紀末ゲーにいちゃいけないと思うのよ、許すまじ
[ウーナ]
やっぱ私怨じゃん…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます