119日目 喧嘩

ログイン119日目


 今日も今日とて引きこもって仕立て作業をしていると、カランコロン、とベルが鳴る。お店のほうに出て行くと、毎度お馴染み常連さんのシエルちゃんが登場。

 あっ、私が作った【ナチュラルなお散歩衣装セット】着てくれてる~~!!

 夏らしくジューシーな仕上がりで、とっても可愛い。嬉しいな~。


 けど、あれ? 今日は独りみたい。

 シャンタちゃん、いないのかな。珍しい。


 少し不思議に思いつつシエルちゃんを観察する私に、彼女はいつも通り強気な笑みを浮かべて、真っ直ぐ歩み寄ってくる。


「ハロー、ビビア。元気? 見て見て、あなたがこの前プレゼントしてくれた服、着てみたの。似合ってる?」


『・勿論!』の会話選択をぽちって、キラキラスタンプを連打する。シエルちゃんは「当然」とでも言うように不敵に笑うと、手を腰に当ててモデルのようにポーズを取ってみせた。

 やーーんスクショスクショ。こんなキュートにシエルちゃんを着飾るだなんて、やっぱ私ってばてんさーい。


「ところでね、ちょっと堅苦しい話になるんだけど、今週末の土曜日、お城で舞踏会があるの」


 あ、そうなんだ。

 そういえばコラボイベントのお知らせにも、舞踏会があるとか書いてあったな。あれ、でもそれは確か『フィナーレに~』って表現だったはずだから、イベント中盤の今週末とはまた別かな?


「来週末のレスティン全体で行われるお祭とは違うわよ。お城の舞踏会は貴族中心で行われる催し。レスティーナ以外、ダナマやシラハエからも偉い人が集まるの。我がエドヴィーシュ家も当然招待されているのだけれど――――――」


 シエルちゃんはそこで少し首を傾けて、こちらの顔を覗き込むように笑む。

 どきっ。なるほどこれがキラースマイル。


「――――――ねえビビア。あなたも一緒に行かない?」


 ……って、ええ~~~~!? い、行っていいものなの?

 いや、そりゃあ勿論シエルちゃんの誘いとあらば火の中水の中、どんな場所にも飛び込んでいく所存ですけれども、貴族の行事なんでしょ? 私なんかが踏み入ったら怒られるでしょ、普通。


「ふふ。だからね、私の専属侍女として、付いて来てほしいの。それなら大丈夫でしょ? ね、お願い。私が貴族の催し事は好きじゃないってこと、前にも話したじゃない。ビビアにそばにいてほしいの。そしたらすっごく、心強いなって」


 僅かに眉尻を下げたシエルちゃんは、上目遣いに私を窺い、指先を合わせてお願いのポーズ。きゅうう~~~~ん。

 行きます! 行きますとも!

 侍女としてだとしてもこんなぽっと出の町娘をいきなりお城に入れちゃっていいものなの、って思わなくもないけど、シエルちゃんの言うことだもの。いいに決まってるよね! 


「本当? 嬉しい! 約束よ。舞踏会は夜の7時からだから、じゃあその前に迎えに行くわね。あなたもちゃんと私の侍女として恥ずかしくないよう、着飾っておきなさいよ。ふふ、楽しみ。どんなドレス着てこうかしら」


 そんなシエルちゃんの台詞に、私はああなるほど、と納得。

 日時が一緒だもんね。これって例のミステリーデートツアーに繋がるイベントなのか。

 へ~、お城の舞踏会が舞台なんだ。

 確かに今回デートの対象となってる6キャラ、全員確かお嬢様キャラだわ。この国のお姫様もいたっけな。


 けれどふと、シエルちゃんの灰色の瞳に陰が差す。そこに滲んでいるのは、一抹の不安……?


「私達、今回の夜会で正式に社交界デビューすることになるの。デビュタントってやつね」


 あ……、そうなんだ……。つきりと、胸が痛む。

 脳裏に蘇るのは、『貴族なんてくだらない』、『ビビアが羨ましいわ』、そんなふうに語っていた双子達。

 成金として疎まれているエドヴィーシュ家の娘が、これから本格的に貴族社会に踏み込んでいくことになる――――――そのプレッシャーは、いかほどのものだろう。

 でもシエルちゃんは一転、微笑んでみせた。


「だからね、今回我が侭を言って、ママを呼んだの」


 眉尻を下げて笑う彼女にいつもの強気さは見られなかったけれど、でも本当に嬉しそうだ。


「『一日限りだから』、『ママのことは絶対私達が守るから』、『すぐ帰ってもいいから』って。どうしても、私達の晴れ姿を見てほしくて。そしたらママ、手紙で『必ず行くわ』って、言ってくれたの。だからその日はママのこと、ビビアにも紹介するわね」


 ほろり、とマジでちょっとだけ涙が漏れてしまった。

 ううう、シエルちゃんったら、何て健気でいじらしい子なの。こんな可愛い娘達がいたら、そりゃあ体の弱いお母さんだって無理してでも行かないと、ってなるだろうなあ。

 でもね、そんなふうにエドヴィーシュファミリーの家族愛がひしひしと伝わってくるからこそ、余計気になることがありまして。丁度会話の選択肢にもでてきたので、聞いてしまうことにする。


 今日シャンタちゃん、どったの?


 そう尋ねると、シエルちゃんは肩を竦め、唇を尖らせた。


「知らないわ。あんな奴」


 ええーっ!


「今喧嘩してるの。あの子の名前はださないで」


 そ、そんなあ。まさかあんなに仲のよかったシエルシャンタズが、喧嘩だなんて……!

 そりゃあ二人とも控えめなタイプではないから、ちょこちょこ言い合いしてるなんて姿は私の前でも結構あった。でもこんなふうに、行動を別にするくらいきっぱりと喧嘩しているのを見るのは初めてだ。


 それ以降もシエルちゃんはシャンタちゃんのことを口にすることはなく、そのまま独りで帰って行ってしまった。

 うーん、わくわくなデートツアー、ちょっとはらはらもしてきたぞ~~。




******




【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(公式)・ワールドイベントについて語る部屋】



[YTYT]

コラボとかする余裕あるならデート枠広げてください


[陰キャ中です]

キマクラファンとしてはこのイベントなかなかエモみを感じるけどね

ダロディの市場で流れてるキワメツケファイナルの民族調バージョン、ずっと聴いてたい


[ミラン]

配信でコラボ参加してるんだし、スミカもキャラ化してほしかったな~


[れん太]

それな

或いはアバター当時の衣装&髪型で~とかやってほしかったかも


[ナルティーク]

卒業しちゃってるし、色々権利関係とかむずいんかね


[ジャガイモ]

これを機にスミカさんの配信視てるけど、本人もコメ欄も結構落ち着いてて安堵


[鶯*]

序盤だし荒れる要素ないでしょ


[3745]

きまくら。やってるってだけで荒れる要素満載だほい


[椿ひな]

スミカはメイポリとかエグいタイトルも結構やってるからな

リスナーそこそこ耐性ありそう

新規呼び込むって点で言えば悪くなかったのかもな、このコラボ


[remu]

新規にいきなりデートイベの現実をぶっ刺してくる辺りクソ采配だと思うんですがそれは


[まことちゃん]

新規「コラボから始めました!デートツアー楽しそうですね!どうやって参加するんですか?」

運営「新規さんはお断りです(^ω^)」


[ちょん]

まあ今回のデートイベって他デーで言うとランカーのみ参加できる頂上決戦みたいなものだからそこはな

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