80日目 オルカ(前編)

ログイン80日目


 本日の私は【喧騒の密林】に冒険に来ている。

 シラハエのほうのイベントやらミッションやらも、ぼちぼち本腰入れて遊んでこうかなと思って。

 あと、忘れちゃいけないのが、賢人カミキリ様の万華鏡イベントね。


 彼の依頼は、友人達の様子を見てきてほしい、そして万華鏡の或るべき場所を決めてほしい、みたいなかんじだった。友人というのは、恐らく賢人仲間のことだろう。

 ということで古都シロガネにて町の人達に聞き込みをしたところ、シラハエの賢人はカミキリ様を合わせて全部で四人だそうな。だからとりあえずは残りの三賢人と会うことを目指しつつ、シラハエの各地を回っていこうと思う。


 で、その内の一人、オルカ様という方が、この密林の深層に居を構えているとのことだった。

 ここには前にも来たことがあるけれど、やっぱりビギナーズフィルタが取れた状態だと噛み応えが全然違うなーという印象。はらはらするような場面に出くわすまではないものの、舐めプはできないかんじ。


 特に突然暗くなってきたら要注意だ。程なくすればスコールがやって来て、視界も足元もおぼつかない状況になる。

 こういう場面で敵対モブに遭遇してしまうと、かなり厄介。


 でもレベルに応じて、採取できる素材の種類が増えるのは嬉しい。本日初採取を果たしたアイテムはこんなかんじ。



【ブルーバードの羽】

青く美しい鳥の羽。“ささやかな幸福”の象徴。

代表的な使用法:細工


【ロウジンボクの樹液】

粘度の高い樹液。煮詰めたものは接着剤やコーティング剤の原料として用いられている。

代表的な使用法:工芸


【コクヨウガラスの羽】

漆黒色の羽。“軍勢”の象徴。

代表的な使用法:細工


【ネムリツムリ】

地属性の幻素を多く有している蝸牛かたつむり型の幻蟲。基本的に地中に棲息しているが、雨が降ると地上に出てくることも多い。

幻性素材として幅広く使える。

代表的な使用法:鍛冶


【ナキゼミ】

心属性の幻素を多く有している蝉型の幻蟲。悲しげな声で鳴く。

幻性素材として幅広く使える。

代表的な使用法:鍛冶



 特に印象深かったのはロウジンボクの樹液かな。

 実は今回初めて、【樹液採取キット】なるものを使ってみたの。木に穴を開けてホースを差し込み、そこから瓶に樹液を集める仕組みのやつだ。

 こういう森林系のフィールドに来ると使ってる人がちらほらいて、気になってたんだよね。私もやってみたいなあって思って、つい買っちゃった。


 何気にこの手の採取ツールはちょこちょこ集めてて、結構充実している私である。

 遠征行く機会もあんまりないから、元を取れてるとは到底言い難いんだけどね。人が持ってるのを見ると、つい欲しくなっちゃって……。


 ただ私は採集師ではないし、それ系のスキルも持ってない。よって他の人と違って、樹液を集めるのには結構な時間がかかる。

 人によっては道具を設置すると、ドリンクサーバーからジュースを出すかのごとく、2、3秒で作業が終わってしまう。けど私の場合は大瓶がいっぱいになるまで何時間も必要になる。


 それで前回来たときに採取キットの設置だけ済ませておいたんだ。そうすれば次に来たとき溜まった樹液を回収できるってわけ。

 効率よく集めるために、キットは他にも同じものを四つ買っちゃった。

 コスパを考えると素材なんて他の人から買うほうが絶対安く済むって分かってんのにね。でもこういう作業楽しくてさ~。


 採集ポイントは他プレイヤーと共有されるきまくら。だけど、幸いそこに一度でも手を触れてしまえば、もうそのポイントはその人のものになるみたい。だから横取りされる心配もなし。

 仕様上同じ木から採集ポイントが再び生まれることはあるものの、他の人がそこに着手したとて私の作業には影響ないっぽいね。


 残念なのはこのフィールド、『密林』という名に相応しく木材系アイテムが豊富なんだけど、それは私じゃどうにもできなくって。

 【採集】か、一番よいのは【伐採】スキルがあれば楽ちんなんだよね。なくても伐採ポイントに繰り返し斧を叩きつければ採れるらしいのだが、[力]が高くないとかなり大変みたい。


 あ~~採集系スキル欲しいな~~。いやでもアイテム図鑑の【体内図書館バディン・ライブラリ】とそれに付随して生産物を系統立って記録できる【体内備忘録バディン・メモ】も欲しいんだよね~~。

 そもそも今結晶不足してるし~~。


 いやあ、ビギナーズ・フィルタが取れてからというもの、隣の芝が益々青く見えるものだから参っちゃうなあ。


 そんなジレンマを抱えつつ密林の深層を進んでいくと、突然真っ赤な光をともした灯篭が現れた。

 紅色にも近いやたら赤々とした炎は幻想的でもあり、やや禍々しくもあり。傍には同じ色の彼岸花が咲いているので、異様な空気は一層際立っている。

 目を凝らすと、同じ赤い光が奥にぽつり、さらに奥にぽつりと灯っており、その点と点を繋ぐように獣道ができているのが見て取れた。


「赤い灯篭が目印だよ」って、町の人が言ってたっけ。どうやらこれが、オルカ様の住処へ続く道のようだ。

 光に従って奥へ進むと、案の定プレイヤーの気配は絶えた。

 カミキリ様の屋敷に行くときもそうだったなあ。本人は茶目っ気ある人だったけど、彼を取り巻く風景は何だか侘しくやや不気味だった。

 シラハエのイベントはそういう世界観で統一されてるのかも。


 やがて鬱蒼と生い茂る木々の向こうに、一際強く輝く赤い光が見えてくる。それは一軒の古びた屋敷から漏れ出る光だった。

 蔦が這い、植物に侵食された崩れかけの館は廃墟も同然だが、光が在るということは住人がいるに違いない。やや中華チックな意匠が取り入れられているところがまた、この建物の独特な凄みを増している。


 館の正面に立つと、鉄の門扉は自然に開いた。私は少しどきどきしながら、赤い光の灯る屋敷に踏み入った。




******




【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(公式)・アンロックについて語る部屋】



[おろろ曹長]

ヨシヲのソロモンカードは普通に欲しい

まあニート君の転職回数には到底追い付けないだろうけど


[いりす]

ニート君には就職してもろて


[バレッタ]

ヨシヲが老師の座から降りたとき――――――それはニート君がニート君ではなくなったことを意味するのか


[鶯*]

なんか難しい話してる?


[Enoch K]

今明らかになってるスキルでは麗笑と天下統一宣言が欲しいかな

てか天下統一はぶっ壊れだろこれ


[ミラン]

用途が斜めにずれてるから環境破壊とまではいかないが、めっちゃ便利よな

セーフティゾーン生成とか


[3745]

何らかのプレイヤーランクで一位になった者が老師就任

ランキングで抜かれたら降板

降板と同時にスキルも奪われる

アンロックスキルはきまくら。世界では常に一種類をただ一人が所持していることになる

って認識でおk?


[いりす]

多分そゆこと


[とりたまご]

>何らかのプレイヤーランクで一位になった者が老師就任

これただランク一位なだけじゃなくて一応最低条件みたいのはあるよな

じゃないと未だに老師の欄が半分以上埋まってないことの説明にならないし


[椿ひな]

だろうね

レベルアップ時にアンロック確定するっぽいから

ワンチャン条件満たしてても未だ次のレベルに達してない、って人もいなくはないかもだけど


[モシャ]

>>3745

>ランキングで抜かれたら降板

これってなんかソースあんの?


[ハロー]

狩人最強ポジの老師がしょっちゅう入れ替わってる

今日は今のところ変動ないな

深瀬さんで固定


[ポワレ]

あのときうるさかったからアンロックの通知は切ったわ


[おろろ曹長]

老師の種類が多くて担当は一人一個まで、ってところが幸いしたな

ササやらヨシヲやらゾエやらがそれぞれの担当部門で落ち着いてくれてるから、まだましってかんじ

じゃなきゃ狩人ランクは延々と入れ替わって、独自スキルも全く戦略に組み込めなさそう

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