67日目 価値(5)

【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(個人用)】



[もも太郎]

なんか用?

僕忙しいから手短にしてね、オバサン


[陰キャ中です]

誰がオバサンよクソガキ

あんたねえ、いい加減にしなさいよ


[もも太郎]

どの加減について述べてるのかな


[陰キャ中です]

めめこちゃんの件に決まってるでしょー!

さっさと彼女を解放してあげなさい!


[もも太郎]

解放?

もしかして僕と彼女の間でなされた貸借契約のことについて述べているのかな

それなら双方合意の上での取引であるからにして、あなたに口出しされる謂れは何もないのだけれど


[陰キャ中です]

よく言うわ悪魔の大商人が

くまたんのときもそうだった

どうせ今回も法外な利子を負わせてめめこちゃんを苦しめてるんでしょう!


[もも太郎]

「も」、か

いいこと教えてあげるよオバサン

僕はくまさんに関しては、1キマぽっちも貸した覚えはないんだな


[陰キャ中です]

なら、弱味か何か握ってるんでしょ

そうでなきゃあの子があんなに突然あるかるを捨てるだなんてこと、あり得ないんだから


[もも太郎]

どうかな

そこまで気にしてるんなら、僕みたいなクソガキでなく本人に聞いてあげなよ


[もも太郎]

そう、聞いた結果、答えは彼女の口からは出なかったんだよね

あんなに可愛がってあげてたのにね

でもそれが答え


[もも太郎]

そして彼女は正式に宣言したはずだよ

あるかるの脱退と、もも金への加入を


[陰キャ中です]

…そうね、くまたんのことはもういい

でもめめこちゃんは違う

彼女はあるかるを正式に抜けたわけじゃないもの

一時脱退ってことにして、借金返し次第戻るって、彼女はそう言った

だから私にはあんたに文句を言う権利がある

めめこちゃんを不当に縛り付けて働かせてるあんたにね


[もも太郎]

あなたが僕等の取引を「不当」と判断するのは勝手だけれど、さっきも言ったように、これは双方合意の契約なんだ

彼女は自分で選択したんだよ

僕からお金を借りること、返済期間中僕のクランで仕事することをね


[もも太郎]

それにオバサン、やたら彼女のことを心配してるようだけど、それなら最近の彼女の様子を聞いたり、会話したりしたのかな

そうであればこんなふうに突っかかってくるはずがないと思うよ

だってめめこ女史、金融メンバーとして働くことに満更でもないご様子だからね


[陰キャ中です]

うぐぐ…

うるさいクソガキ!

あんたがどんな言い訳をしようと、めめこちゃんが未だ私の身内であることは事実なのよ

とにかく、今日はこんな不毛な言い合いをするために連絡したんじゃないんだから


[陰キャ中です]

300万? 400万? 500万?


[もも太郎]

…へえ


[陰キャ中です]

言いなさい、彼女の借金額、利子と合わせた総計を

全額払ってやるわ

そのふざけた契約関係、私がぶち壊してやるんだから


[もも太郎]

一つ聞きたいのはさ

なぜそこまで彼女にこだわる?


[もも太郎]

クランメンバーが一人二人減ったところで、別にオバサンのところ規模が大きいんだし、痛くも痒くもないだろ

なぜ自ら犠牲を払ってまで彼女を取り戻そうとするの?

そこまでの価値が彼女にあるとあなたは判断してるの?


[陰キャ中です]

そんなの


[陰キャ中です]

仲間だから

友達だからに決まってるじゃない!!


[もも太郎]

ご立派な志を気取ってるようだけれど、

彼女が自分で望んで僕のクランに在籍しており、尚且つそれをそこそこ楽しんでいる

この事実がある以上、そんな台詞は偽善に過ぎないのだよ


[陰キャ中です]

何を言ってるの?お子様


[陰キャ中です]

うちを抜けるのは構わない

もも金に行くのも構わない


[陰キャ中です]

私は、仲間だから、友達だから、クランを正式に辞めるのであれば正式に辞めるのだと、そう言ってほしいだけだよ

だからあんたの言う「契約関係」とやらは邪魔なの

それを全部ぱあにして、対等な目線になった上で、彼女の気持ちを聞きたい

勿論、あんたへの借金が枷になってるんであれば助けてあげたい

でも私のこと、私達のことが枷になってるんであれば


[陰キャ中です]

それだって、清算したいと思ってる


[陰キャ中です]

理由があるのだとすれば、すっきりしたいからだよ

これは私の気持ちの問題なの

中学生男子には分かんないでしょうけどね


[もも太郎]

3,260万


[陰キャ中です]

…え?


[もも太郎]

めめこ女史の借金、利子も合わせた総額

3,260万3千キマ


[陰キャ中です]

………………


[もも太郎]

あなたが肩代わりしてくれるんだ?

別に僕としては誰でも構わないよ、支払いさえ全うされるのであれば


[もも太郎]

お望みであれば今すぐにでもメンバーを向かわせるよ

場所の指定はどこをご希望?

お宅のクランホームかな


[陰キャ中です]

………………な


[陰キャ中です]

なんであの子そんなどっぷり借金沼に浸かっちゃってんのおおおおおお!?

ささささささんぜん!? まん!?

信じらんない!有り得ない!

きまくら。でそんな大金一体どこに……あ、不動産!?

あの子まさか新しく家建てるのにもも金でローンを!?


[もも太郎]

服だよ


[陰キャ中です]


[もも太郎]

服さ

めめこさんは服を買うために3,000万僕から借りたんだ


[陰キャ中です]

服……ブティックさん!?

さてはスキル付きの買い占めを企んで!?

ダメだよめめちゃん、そんなことしたら色んな方面からヘイト買っちゃう……!


[もも太郎]

彼女の名誉のために付け加えておくと、3,000万はたった一着の衣装のための資金だよ

ま、彼女にとってはそれほどの価値を持ったアイテムだということだね


[陰キャ中です]

バカなの!?

モモタロ、あんた今度はどんな虚言で彼女を唆したわけ!?


[もも太郎]

人聞き悪いなあ

オバサンはそうやっていっつも僕を悪者にしたがる

僕は寧ろ親切に、ちょっとしたアドバイスをしてあげただけなのに


[陰キャ中です]

アドバイス、ですって?


[もも太郎]

うん

陰キャさんなら知ってるんじゃない

彼女が昔アイドルを目指してたこと

今もなお諦めきれないその夢を、胸の内に燻ぶらせていること


[陰キャ中です]

……そういう活動をしてたってことは、聞いたことがある気がする


[もも太郎]

だから僕は勧めたんだ

それならいっそこの世界でアイドルすればいいじゃないか、と


[もも太郎]

そう、きまくら。専門の配信者Vライバーとしてね

巷じゃV。ライバーって呼ばれてるんだっけ?


[もも太郎]

彼女才能あると思うよ

仕草とか、所作なのかな

僕はその方面には疎いけど、人を惹き付ける魅力を持ってる

実際特殊スキルを使いこなす美少女として何度か話題になってるし、僕のクランの野郎どもにもモテモテだそうだ


[陰キャ中です]

分かるよ

めめこちゃんは可愛い

外見だけじゃなく、声とか、仕草とか、話し方とか全部可愛い


[陰キャ中です]

でもこういうのって、彼女のことよく知らないあんたみたいな他人が軽々しく勧めていいものじゃないと思う

Vライバーって結構厳しい世界だよ

分母が多い中で数字を取りに行くのは大変だし、何よりきまくら。配信は燃えやすい

めめこちゃんだってライバーの存在は知りつつ、それでも今までやってこなかったのには、

そういう現実への不安があるからでしょ


[もも太郎]

うーん、あなたと話してると頭がバグるな

論点をずらすのはやめていただきたい


[もも太郎]

とにかく、そういうちょっとしたアドバイスとセットで、僕はあの3,000万のアイテムを勧めたんだよ

それらは彼女が夢を叶えるのに役立つんじゃないかと思ってね

そして彼女は応じたわけだ、自らの意思で


[もも太郎]

それで


[もも太郎]

さっきの話の続き

あなた、払ってくれるんだっけ

3,260万3千キマ


[陰キャ中です]

………………


[陰キャ中です]

あのさ、私からもあんたに一個、質問


[陰キャ中です]

どうしてめめこちゃんにそこまで拘るの?

っていうか、くまたんのときもそうだったよね

思うんだけどあんたは、メンバー一人自陣に引き込むため自らここまで出張ってくるような、そんな人間じゃないよね

そこはかとなくあるかる、……若しくは私への悪意を感じるんだけど


[もも太郎]

僕が?オバサンを意識してると?

冗談よしてよ


[もも太郎]

と、言いたいところだけど


[もも太郎]

成る程あなたがそう感じるのであれば、そんな側面もなくはないのかもしれない

珍しく興味深いことを言うね、陰キャさん

僕には一つ、心当たりがあるよ


[陰キャ中です]

勿体ぶらないで言いなさいよ


[もも太郎]

僕はね、嫌いな人間が二種類いるんだ


[もも太郎]

感情で動く人間と、才能を腐らせる人間


[もも太郎]

そういうことさ

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