136日目 ズットモメダル

ログイン136日目


“ブティックびびあ”は無事リニューアルオープンし、お客さんにも好評な模様である。購入者からのメッセージに「新しくなったインテリア可愛い~!」とか「センスありますね」といったメッセージが続々届いてきており、私は鼻高々だ。

 一部デリカシーのない輩から届いている、


「プレーン卒業遅過ぎわろたw」

「記念セールとか期待してたのに…」

「ビップクラブの特典詳細教えてほしいです」


 などといったメッセージには、


「やかましいわ」

「その商法さっぱり頭から抜け落ちてた」

「教えるほどのもんじゃないです、マジで」


 などと脳内突っ込みだけ返しておいて、華麗にスルーすることにした。


 とまあ生身の人間を相手にするとなると可愛くない反応も時たまあるもので、それだけにね、生身じゃない人――――NPC達の反応に、もう癒されて癒されてしょうがないんですわ。


 私あんまり分かってなかったんだけど、職業【大工】が担当する生産物――――家具とか建築系のアイテムって、キャラクター達の多種多様なモーションやら台詞やらを引き出してくれるんだね!

 これまでも飾ってるものとかに対して感想言ってくれることとかはあったんだけど、こんなに色々変化が見られるとは知らなかった。


 鏡の前でシエルちゃんがポーズをとったりだとか、ミコト君がスツールに腰かけて足をぶらぶらさせたりだとか、ヴィティちゃんが広げた服を上手く畳めなくて困ってしまったりとか。

 直接その家具に関係のあるモーションもあれば、そうでないものもある。いずれにせよ、以前の店内にはなかった可愛い光景が沢山見られて、ついついまめにショップのほう確認しに来ちゃうんだ。

 いやはやスクショが捗る捗る。


 でね、そんなこんなできゃっきゃしてたらいつの間にか、シエルちゃんとシャンタちゃんのコミュニケートミッション【一流のお仕事】がコンプリートできてたの。


「ビビア、あなたついにこんな素敵なお店を持つようになって、すごいじゃない」

「はじめは商品棚はすかすか、服の作りも全然甘かったのにね」

「それが今じゃ、すっかり大人気な一流ブランド!」

「私誇らしいわ。ビビアは私達が育てたって、みんなに言いふらしてやろうかしら」

「そうね。だって実際そうじゃない? ビビアは私達のようなハイセンスなお友達がいたから、ここまで成長できたのよ」

「違いないわ。だからビビア、人気者になったからって私達みたいな貴重なお友達を蔑ろにするようじゃ、絶対絶対ダメなんだからね!」


 ぬおおおお、可愛いよう、悶えるよう!

 でもほんとのほんとに、ここまできまくら。を楽しんでプレーできてきたのって、彼女達の力がめっちゃ大きいと思う。

 リアルで疲れたりヤなことがあったとき、毎日顔をだして可愛いやり取りをしていく二人に、どれだけ癒されていたことか。


 そして感動に打ち震える私に向けて、二人は同時にとあるアイテムを差し出すのだ。



【シエルのズットモメダル】を手に入れた!

シエルとベストフレンドになった!


【シャンタのズットモメダル】を手に入れた!

シャンタとベストフレンドになった!



 き、きたああああーーーー!


 このベスフレイベントのことはたびたびネット上で話題になるもので、ある程度の知識は持っている。そしてまだかなーまだかなー、ってずっと待ってたものでもあるんだ。


“ベストフレンド”っていうのは、基礎好感度マックス――――『基礎』って付けたのは、一応その上だか別だかにアイテムで上げられる隠しステータスが存在するらしいからね――――になったキャラクターのこと。

 で、【ズットモメダル】っていうのはベストフレンドになったキャラクターから貰える、いわば親友の証アイテムなのだ。


 まあベスフレになったからといって、或いはメダルがあるからといって、分かりやすく美味しい展開や特典と言えるものはないみたい。

 だからこのメダルは、ただの勲章。

 されど勲章。大事よ勲章。

 特に、私みたいなキャラ推し勢にとってはね。


 このメダル、インテリアとして飾ることができるんだ。

 プレイヤーズショップなんかに足を運ぶと、よくいるんだよね~。推しキャラのメダルを額縁やケースに入れてディスプレイしてる人がさ。

 それを見るたび、どれだけ私が羨ましい気持ちでいっぱいになったことか。


 何だろね、この推しのグッズを人目に晒してドヤりたい感。リアルだとちょっと痛い場合もありにけりと分かっていても、「好き」が天元突破しちゃうと時たま私もやらかしちゃうんだよね。

 好きなバンドのティーシャツ所構わず着てっちゃうとか好きなアニメキャラのイラスト待ち受けにしちゃうとか、あったなあそんなこと。


 最近は大分人目を気にするようになってしまったこともあり、その辺は自重している。

 けど、なんとここは仮想ワールド。しかも当たり前ながら、周りの人間は全員きまくら。プレイヤーつまりここはオタクの本拠地ホーム

 自重する必要などないとあらば、私だって是が非でもドヤりたい。


 見て見てー! 私シエルちゃんシャンタちゃんとベスフレなんだよー! それくらいこの子達のファンなんだよー! めっちゃシエシャン推しなんだよー!

 って、このメダルを通して公衆に言いふらしたい。

 大抵の人からすれば「だからどうした」、「あっそ」程度にしか思わないことは百も承知してるけども、まあ何だ、推しには人をそんな行動へと突き動かす不思議な力があるってことなのだ。


 あと、私がこのメダルを早く入手したかったのにはもう一つ理由がある。

 私の行きつけのお店の一つに、“琥珀糖本舗”っていう工芸作家さんのショップがあるのね。店主の[コハク]さんは図案をデザインするのが上手い絵師さん。

 基本的にはワールドマーケットでいつも買ってるんだけど、シロガネに行くときは実店舗にも足を運ぶようにしているんだ。オリジナルの紙細工や陶芸小物などで飾られた店内が、しっとり和風な雰囲気で落ち着くんだよね~。


 ただ、そんな素敵なお店で、私は目撃してしまったの。シエルちゃんのズットモメダルが飾られているのを。

 要は、他のプレイヤーに先を越されてしまったってわけ。もうね、あの時は血涙流すような思いだったよ。


 頭では理解していたつもりだったんだけどね。私の他にも、シエルちゃんの熱心なファンがいること。

 今までは運がよかったから、シエシャンの攻略においては、私はいつも先んじることができていた。でもツインズの人気はどんどん盛り上がってきていて、いずれは私より早くシエルちゃんのイベントを見つけたり、私より熱くシエルちゃん愛を説く人だってでてくるんだろうと。

 頭では分かってたよ。


 でも心では分かっていませんでした。ぐふう……。


 そんな悔しさもあり、まあ競争に負けてしまったことはこの際しょうがないから、せめて少しでも早くメダルを入手できればとね、切望していたわけなのでした。


 それにしても、そっかあ。シエシャンとベスフレになるに当たり、お店を立派に整えることが最後の関門だったっていうこの流れは、なんだか感慨深いものがあるなあ。


 思えばシエルちゃん達は最初うちを訪れたときから『なんにもないじゃない』とか『しけた店ねえ』とか憎まれ口を叩きつつ、その後もちょくちょく、お店の様子や私の仕立て屋としての成長具合を気にしてくれていたものね。

 自立して仕事をする私に憧れを感じてくれていた二人――――――それを思うと、ベスフレの最終条件が【一流のお仕事】だったことにも、なんだか納得だ。なんて、深読みかもだけど、にやにや。


 二つのズットモメダルは勿論お店に飾るつもり。

 ドヤァ。ドオ~~ヤア~~。

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