6日目 マグダラ

ログイン6日目


 今日も今日とてシエルちゃんの様子に変化はなし。

 これ、やっぱ私の回答スタンスが間違ってるのかなあ。さすがにもう攻略情報調べるべきかなあ。

 なんて思っていたときのことだった。何気なくシエルちゃんのミッションを確認したところ、なんと進行度が1、増えているではないか。

 見かけでは全然分からなかったけど、実はイベントはあれで進んでいたらしい。よかったー。


 我が店第二の常連であるミコト君なんかは、今日【レディバグ】というアイテムをくれて、こちらも関係は良好である。

 レディバグはテントウムシの少し大きいバージョンの幻蟲で、アイテムは標本状態で小瓶に入っている。これは生産に使うことで光属性を付与できるものらしい。


 それじゃ、昨日に続いて今日も静けさの丘に行くかー。


 私は本拠地を出て中央市街へ向かう。移動は一度行ったところならスキップできるところもあって、例えば私の家の扉からすぐに中央広場へ向かうことが可能だ。


 すると広場から昇降塔エレベート・タワーまで歩いているさなか、見慣れた姿を目撃する。犬耳少年ミコト君である。

 さっきまで私の店にいた癖に、もうこんなところに? いや、それは私の言えたことではないけれども。

 というか、今気になるのはそれよりも、彼がプレイヤーと一緒に行動していることである。NPCのマークがついていないので間違いない。猫耳黒髪のメイドさんみたいな恰好の子が、彼を従えててくてく歩いている。

 何かのイベント中だろうか?


 それにしても、モブ以外の自分の知ってるNPCが他のプレイヤーと交流しているところを見るのは初めてだったので、ちょっとびっくり。

 加えてこういうことは日常茶飯事なのかと思いきや、周りにいる他のプレイヤー達の中にも、彼女達を気にしている人が多い。


 丁度近くにいた二人の男性プレイヤーがミコト君達を見つめながら何か喋っていたもので、私はこっそりセミアクティブモードを解除してみた。これで二人の会話を聞くことができる。


「またあの人かー。毎度毎度デートイベガチ過ぎ」

「勝てる気しないよな。まあミコトはどうでもいいけど」

「でもあの人リル連れてるとこは見たことないよな。狙ってないのかな」

「リル勢はまじ魔境。ランカーどうしで順番作ってるみたいな噂もあるけどほんとかな」


 うーんなかなかハイスペックな会話で、分からないことばかりだ。

 でも、どうやらキャラクターとのデート? ができるイベントがあるみたい?

 そしてそれにあずかれるのは一部の人間で、かなり凄いことのようだ。あのメイドの人、いわゆるトッププレイヤーなのかもしれない。


 これ、推しキャラと二人で歩けたら凄い嬉しいだろうってのと同時に、推しキャラが知らない誰かと歩いてるの見たら、凄い悔しい人もいるだろうな。

 見慣れてくればそこまで感じないのかもだけど、成る程、こうやって競争心を煽られたらなかなかの沼にはまりそう。


 そんなちょっとした珍事を横目に、私は再びセミアクティブモードに戻って昇降塔に向かうのだった。




 今回の採集作業は、植物以外のものを重点的に狙うことにした。石とか、虫とか、さも「私は特別ですよ」と言わんばかりに目を引くものが、草花以外にも結構あるのよね。

 そうして集めたアイテムのラインナップがこちら。



【濁った幻石】

 毒素の混じった幻石。燃やすと毒霧が発生する。[幻石]の主原料。

 代表的な使用法:発明


【フォレストウルフの牙】

 素材に使うと強度が増す。

 代表的な使用法:鍛冶


【ワイズナッツ】

 中の実は食用可。集中力を高める成分が含まれている。生産素材として幅広く使える。

 代表的な使用法:料理



 加えて、今日ミコト君からも貰った【レディバグ】である。レディバグは比較的レアなのか、一匹しか見つけることができなかった。

 それと、おどろおどろしい模様の黒い蛾もいたんだけど、すぐに逃げてしまって捕まえられなかった。虫は虫取り網だとか、特別な道具を持っていたほうが採取しやすいのかもしれない。

 アイテムボックスはまだ半分空きがあったので、昨日採った植物達も摘んでおく。


 因みに、当然私以外にも採集作業をしている人はいるのだけれど、発見できるアイテムは各々違うみたい。

 取り合いになることがないので、気兼ねなくアイテム集めができるのはよいことだ。私から見て何もない場所で他プレイヤーが空気を掴んでいる姿は、ちょっと面白いけどね。


 それじゃ帰ろうかな。と、立ち上がろうとしたところで、影が差した。

 振り返ると、いつの間にか仮面を付けた黒づくめの女の人がこちらを見下ろしている。めっちゃ怖い。


「こんにちは、お嬢さん」


 彼女はしゃがれた声で言う。NPCのようだ。


「あたしはマグダラ。流れの薬師でねえ、大陸中を旅して回ってる。日銭を稼ぐために、薬や、旅先で集めた面白いものを売ってるんだ。よかったら見ていかないかい?」


 滅茶苦茶怪しい恰好だが、とりあえず『見せてもらう』を選択した。すると彼女はマスクの向こうで、少し驚いた声を発する。


「おや、あんたは確か、テファーナんとこのチビさね。なに? 独立してレスティンに?」


 マグダラさんは私のことを知っているらしい。

 テファーナって確か、私の師匠とやらだよね。師匠と親しかったのかな?


「そいつは立派なことだ。ようしそんなら、初回サービスに併せて、今回は祝独り立ち記念特別サービスを付けてやろう。商品はすべて半額だよ。持ってけ泥棒」


 ほんとかどうか疑わざるを得ない出で立ちなわけだけど、半額というパワーワードは強い。私はいそいそと商品一覧を眺めていく。


 プリンセスノーベル、フルムーンラビットの毛皮、死霧の結晶、ツナミクジラの油……うーん、聞いたことのないものばかりだから、きっとほんとに珍しいものなのか、私より二段三段レベルが上のプレイヤーが手に入れられるようなものなのかもしれない。

 若しくは、見たまんまに怪しい詐欺師なのか。


 仕立屋として気になるのは毛皮だけれど……値段が街で手に入る狐の毛皮の3倍以上するんだよね。

 半額って話がほんとなら、本来6倍ってこと? 昨日折角採取して売り払った素材のお金を全部足しても、財産の1/4が飛んでくなあ。

 でもそう思うと、半額の今の内に買っておいたほうがいい気がしてきた。今なら1/8で済むわけだし。

 よし、買お。


 それと気になるのは、【王立図書館の入館許可証】というアイテムだ。

 なんと、毛皮を買って残った額が全部飛んでく値段である。でも、これで得られる権利を考えれば安い気はする。

 が、そもそもこういう許可証って、売ったり買ったりしていいもの? 益々胡散臭いなあ。

 ダイアログを睨んで悩んでいると、マグダラ氏が声をかけてきた。


「気になることがあれば、何でも聞いとくれ」

「じゃあ……この、【王立図書館の入館許可証】って、本物ですか?」

「偽物に見えるかえ?」


 ……会話終了。はぐらかされた感が凄くて、益々益々胡散臭い。

 これが現実だったら絶対買わないんだけど……現実じゃないと、ちょっと思いきったことしたくなるものよね。


 ということで、入館許可証、買ってしまいました。




******




【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(公式)・ワールドイベントについて語る部屋】



[否定しないなお]

【緊急速報】ラブハンターマユ、ミコト仕留める


[ゆうへい]

はっや


[ナルティーク]

はっや


[パンフェスタ]

俺も歩いてるとこ見たわ


[ポイフリュ]

がーんショック

今回ミコトきゅん一点集中で貯めてた大地の結晶全放出したのに


[レティマ]

どんまい

きっと明日以降でデートできるよ


[YTYT]

やべーなあの廃課金デート厨


[アラスカ]

デートイベってのはそのキャラの好感度を最も上げているプレイヤーに授けられる特権って認識でオケ?


[パンフェスタ]

オケ

でも今回みたいなワールドイベント限定のデートは期間中毎日開催になるから、日が変われば二位以降のプレイヤーにも順番回ってくる


[レティマ]

好感度上げてて、尚且つキャライベクリアして条件満たしてるプレイヤー、ね


[アラスカ]

サンクス

俺には縁のないイベントであることがよく分かった


[ちょん]

不人気キャラならワンチャンあるで

つってもデートイベはただただ優越感に浸れるってだけの称号みたいなもんだから要はエンドコンテンツよな

新規勢はそれどころじゃないだろうな


[マ ユ]

ミコト君の隣で見るサーカスいいわあ

超いいわあ


[YTYT]

こういうな、イベント真っ最中だってのに悔しがってるプレイヤーにわざわざ自慢しにくるような心の汚いねーちゃんには打ってつけのコンテンツなんだ

ここテストに出るからな


[ポイフリュ]

えーん・゜゜・(/□\*)・゜゜・

自慢ついでに教えてマユさん

ミコトきゅんの限定ミッション一つだけでオケ?

他にもクリア条件あったりしないよね?


[マ ユ]

一つだけだよ~


[ポイフリュ]

ありがと!

明日駄目だったら課金する


[みんみん]

札束の殴り合いが始まりそうで寒気


[YTYT]

オークションなんだよなあ


[レティマ]

こうなってくるとギャンブルの匂いすらする

ライバルがどれくらい金払ってんのか分からんし

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