238日目 クイーンビー(3)

 何はさておき、こんな流れになったんじゃあ、このままモグマキングのところへお返しの手紙を渡しに行きたいよね。ということで、折角だし三人で銀河坑道へ行かないかと私は提案する。


「いいんですか? じゃあ是非」

「ありがとう、貴重な体験になるよ。どんなふうに話が進むのか、僕も気になるからねえ」


 三人の意見は一致し、私達は銀河坑道へ向かうことに。そして深層の一室にいるモグマキングに話しかけようとすると、なんとこんなダイアログが現れた。



開拓イベントを起こそうとしています。よろしいですか?

→・はい

 ・いいえ



 おお! 他の二人の顔を窺うと、竹氏は露骨に驚いた顔をし、マト氏はぱちぱちと拍手してくれた。

 そういえば私、革命イベントは経験したことあっても開拓イベントはこれが初めてだ。確か革命と違って、こっちは基本的にマイナス要素ないんだよね。

 ならなおのこと気兼ねなく楽しめるというわけで、私以外の二人もイベントを起こすことには快く賛成してくれた。


 あ、ダミーアバターは三人とも使用することになったよ。それぞれ自由に決めていいって言ったんだけど、竹氏曰く「まあ色々めんどくさそうだしなあ」とのこと。

 やっぱそうだよね? ラーユさんみたいな人ばっかじゃないよね?

 共感を得られる大人がいて、ちょっとほっとしている今日この頃。


 準備が整ったところでモグマに話しかける。

 すると彼は奪うようにして私から手紙を受け取り、書面に素早く目を走らせた。読み終えると、便箋を手に掲げて快哉を叫ぶ。


『やった! やったぞ! これで地下通路の工事に着手できる! 俺も外の世界へ一歩踏み出せるんだ!』


 それからモグマ氏はばしばしと私の背中を叩いて「やるじゃないか、手柄だぞ」などと大いに褒めてくれた。いつもぷりぷりせかせかしている彼にしては、珍しいくらいにご機嫌だ。

 きっとそれくらい見聞を広めることへの憧れが強かったんだね。よかったねえよかったねえ。


 一頻り喜ぶと、モグマ氏は「報酬だ」と言って【モグマからのプレゼント】というラッピングされたアイテムをくれた。次いで彼は天井を見上げ、「もぐもぐもー!!」と大声で吠える。


『さあのんびりしている暇はない! 世界は一分一秒とその色を変えていると言うからな! 行くぞ同胞、我が子分どもよ! ヒメカゲタイジュに向けて、掘って掘って掘り進めるのだ!!』


 直後、地響きが聞こえてきた。

 始め遠くで鳴り響いていたその音は、徐々にこちらへ近付いてくる。それも、音の発生源は一か所ではなく、四方八方からやって来ているようだ。

 モグマキングは意に介した様子もなく、私達を押しのけのっしのっしと扉のほうへ向かっていった。坑道へ出た彼を追って、私達も部屋の入口から外を覗く。


 するといつの間にかモグマキング氏の住処の前に、通常サイズのモグマが所狭しとぎゅうぎゅうに並んでいた。つぶらな小さな瞳達は、一心に親分を見つめている。

 可愛い! ……けど、ちょっとした迫力。


『さあ俺に続け! 地底の行軍を開始するぞおおおおーーーー!』


 キングが咆哮すると小モグマ達も呼応して『もぐもー!』と一斉に叫ぶ。そうして彼等は坑道の奥へ消えて行った。

 イベントは終わったようだ。



【期間限定称号:パイオニア】を手に入れた!



 終了の合図となったのは、称号取得のダイアログと、さらにこんなアナウンス。


『開拓イベント【地底の王の行軍Ⅰ】が実行されました。これより、新エリア【遥かなる大砂海】の開放、【期間限定称号:パイオニア】に関連するシステムの開放、GP交換リストの更新、他、関係する社会情勢に変動が生じます。開拓イベントの詳細については公式動画サイト“きまくらひすとりあ。”を、パイオニアシステムの詳細については“お知らせ”をご覧ください』


 ぽかんと呆ける私とマトさんとは違って、竹中氏の反応は早かった。


「すげー! 地下道のくだりからありそうだなとは思ったけど、マジで新エリア開通用のイベントだったか! ありがとうブティックさん! 歴史的瞬間に立ち会えたよ!」


 ほ、ほあー……新エリア……。竹氏の喜びようから言ってなかなかの快挙みたいだけれど、なんか実感湧かないなあ。

 っていうかそも私、まだきまくら。ワールドの全フィールド制覇してないからね。こんな遠征面で全然地に足ついてない状態なのに新エリアとか言われても、頭が追い付かないっていうか。


「おまけに報酬と称号も貰えたし」


 あ、そこはパーティメンバーの二人も共通なんだ。ならよかった。

 今回お二人には凄くお世話になったことだし、彼等にも得があったっていうのは私としても嬉しいことだ。

 因みに、取得できた称号もモグマからのプレゼントも三人同じだったんだけれど――――――インベントリのプレゼントを開封して中身を確認した我々は、顔を見合わせる。


「これって……」

「【チェスピース】に、【チェスボード】……?」

「まんまあのイベントのやつですな」


 そう、見た目もそっくりそのままに、先のワールドイベント【賢人達の遊戯会・エリン編】で使われたイベントアイテムがそこに入っていたのだ。

 チェスボードはチェスピースの台座として使われる道具だ。イベント中これはクラフトにより作ることができたんだけど、こちらもイベント内限定のアイテムだったはず。


「記念アイテム、ってことなのかな……」

「もしそうじゃなくちゃんとした効果のあるものだとしたら……やべー……これ色んな意味で震える展開来たかもしれん」

「拠点争奪戦に使われたアイテムが、新エリア開通に伴う報酬……なんだか戦の匂いがするのは気のせいかねえ」

「いや、俺思ったんですよね。あのイベントシステムめちゃおもろいし、期間限定人数限定の試合だけにとどめておくの勿体ないなって。てか評判よかったろうし、マッチクエのこれまでの発展とか考えると、運営が使い回さないはずないよなと」


 キングの形の大きなピースと黒白チェック模様の台座はお洒落だし、インテリアに飾る分には悪くないかも。そんなことしか思いつかない私とは違い、オジサン二人はこのアイテム内容にかなりの盛り上がりを見せている。

 終いに竹中氏は、やる気滾る眼差しでこんなことまで言い出した。


「おっし、折角だからこのままヒメカゲタイジュ行きましょう!」

「えっ、さっき行って来たばっかなのに」

「何言ってるんですかブティックさん。モグマ達は大樹目指して地下道を掘り進むって場面を最後に、新エリア開通のアナウンスがあったわけですよ? 流れ的に絶対、大樹付近に新エリアに通じる道があるに違いないでしょう」


 あ、なるほどねー。立て続けに色んなことが起こってるせいでそこまで頭が回ってなかったけど、言われてみれば確かにその展開はありそう。


 しかし残念に思いつつも、私は竹氏の提案に首を横に振った。


「すみません、私は今日はこれで落ちます。寝る時間なんで……」

「えー!」

「僕もこの辺で失礼するよ。明日も仕事だしね」

「ええー!!」



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