247日目 異邦人の衣装セット(前編)

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 林の中にぽつねんと佇む、石造りの一軒家。壁に這わせた蔦や苔が、年季を感じられてお気に入りである。

 勿論本職の人の建築と比べちゃあ大分お粗末だろうけど、初めて作ったお家としてはまあいいんじゃなかろうか。これからまた色々学んで、ゆくゆくは建築力も上げていければいいなあ。


 というわけで、絶海諸島の占有地にて一旦建ててみました、別荘。

 そして取っちゃいました、【建築】スキル。へへ~。


 建築分野にはやはりレシピが色々あって、既存の建造物デザインも多数用意されている。でもやっぱ、“いちくりえいたあ”としてはオリジナリティのある物作りをしたいからさ~。

 最初は拙くても、とりあえず挑戦していくのは大事だよね! うんうん。


 因みに職業【大工】さんのメインスキル建築は、他職業のメインスキルとはちょっと仕様が違って面白いんだ。

 【仕立屋】のメインスキル【裁縫】なんかは、レシピと素材を選んでぽんと完成、っていうのが基本じゃない? 建築スキルもこういった機能は含んでるんだけど、他に、このスキルを持ってると“ブロック素材”を自由に組み合わせてのデザインが可能になるの。


 ブロック素材っていうのは要は“公式規格の建材”とでも言えばいいのかな。直方体であったり円柱型であったり、決まった形や大きさが幾つかあって、それに当てはまる建材がブロック素材と呼ばれている。

 そしてこの形に加工されているアイテムは、例えば【クギ打ち】や【石積み】といった細かいジョブスキルや、それらを組み合わせるための【釘】や【漆喰】、【ハンマー】といった素材、道具がなくとも、建築スキルさえあれば自由に組み立てが可能なのだ。


 その代わり大抵は決まったパターンの連続となるため、ちょっとリアリティさには欠けた、いかにもCGだなあっていうかんじは残る。

 それでもゲームとしてのクオリティで言えば全然綺麗だし、建築素人な私からすれば十分満足な仕様である。ブロックを積んでいくときの音なんかも、気持ちよくて楽しいんだ~。


 そうしてこつこつブロックを積み上げ、第一代目別荘君は完成したのだった。すると仕事の出来を眺めていた私のそばを、ねじコちゃんが通りかかる。


「わー、ブティックさん建築もやるんですか?」

「うん! とりあえず第一代目別荘、建ててみたよ」

「すごーい。完成、楽しみにしてますね」

「え? 一旦これが完成だけど」

「……えっ、あっ、そうなんですね! わーすごーい……」


 話しているとねじコちゃんは急に慌てた顔になって、そそくさと去っていった。急いでたのかな?


 ところで、今ねじコちゃんが軽いノリでやって来たことからもお分かりの通り、この占有地、フレのみ開放の設定にしていても結構人通りが多いんだよね。

 こんなふうに敷地内で作業したり考え事したりしていると、ちょいちょい知り合いが通りがかって軽く挨拶したり、スタンプだけ押して去って行ったりする。


 このかんじ、案外嫌いじゃないかも。

 がっつり交流するとかパーティ組んで遠征行くとかしなくとも、すごい「MMOしてるー!」って感覚になれるからさ。何気ない瞬間にフレンドの存在を身近に感じられるっていうのも、なかなか乙なもんだね。


 さて、建築にも区切りが付いたことだし、早速出来立てほやほやのこの拠点内で服作りをしていこうと思うよ。

 ……いや、結局別荘でもやることは変わらないんかーいってね。自分でも思いますけどね。

 ぴかぴかな新拠点に愛着が湧いて離れがたいっていう気持ちと共に、久々がっつり服作りたーい!っていう気持ちがあるんだもの。

 敢えてカフェに移動して仕事したりする人、たまにいるじゃない? あれと一緒よ。

 場所が変わるだけで、仕事内容は同じでもモチベや創作意欲の向上に繋がるのだ。リフレッシュ大事。


 ということで、私は室内に移動して作業台の前に座る。

 道具や資材は、こちらの拠点でも既にある程度準備済みだ。秘境拠点は本拠点の入り口から直でスキップすることができるので、アイテムの移動なども簡単だった。


 今日はマトゥーシュさんの衣装を作る予定。そう、【クイーンビーKING】に会うのを手伝ってもらったお礼である。

 事前に要望などあるか聞いてみたところ、彼はこう語った。


「うーんそうだねえ。折角ゲーム世界でイケメンキャラやってるんだし、若いコが着るようなしゅっとした洋服がいいなあ」

「ふむふむ。じゃあ王子様系アイドルなかんじでいっちゃいます? マトさんスタイルいいから似合いそうですよ」

「でもあんまり華やかだと『若作りし過ぎだ』って身内に引かれちゃうんだよねえ」

「もうちょっと落ち着いたテイストがよさげですか。今着てらっしゃるのもそんなかんじですもんね。明治時代の将校さんみたいな、ちょっと和っぽいかんじの」

「ああ、そうだね。和風の渋いかんじが洋装に混じってるの、好きなんだ。……うん、ブティックさん、“和洋折衷”な雰囲気でお願いしてもいいかな」

「和洋折衷ですね! 承知です!」


 そうしてテーマは決まったのだが、そこで私はふと思い出す。

『和洋折衷』。

 あれ? 私丁度最近、そんなかんじの衣装作ってなかったっけか?

 そうだ、【流離い傭兵の衣装セット】。エルネギーさんに納品する予定で作って、結局売れ残ってそのままになっているあの衣装が、まさに和洋折衷をテーマに仕立てた服なのだった。


 勿論お礼用に贈るものに、例のアイテムをそのまま使い回そうとは思わない。でも丁度いいから、あの時作った型紙を基盤にデザインを考えていけば仕事がスムーズに進みそうだ。

 となると今度は逆に、流離い傭兵の衣装とは雰囲気が被らないようにする意識も必要になってくるね。あっちもそろそろお店に出す踏ん切りがついてきたことだし、マトさん用のものとはちゃんと区別を付けたいところ。


 よって私は本拠点から秘境拠点へ、流離い傭兵の衣装セットを持ち込んでくることにした。トルソーに着せて見える場所に飾って、よし、今度こそ準備は万端だ。


 それじゃあコーディネートや型紙などはこの衣装を基準にしつつ、色柄や細かいデザインをマトさん風味に仕立てていきましょう。特にさりげなーく、今風メンズっぽい、キレイめクールな雰囲気を取り入れていきたいと思ってるよ。


 マトさん、リクエストを聞いたときの第一声が『若いコが着るようなしゅっとした洋服』だったものね。

 その後照れ臭そうに「若作りし過ぎると周りに引かれちゃう」みたいなこと言ってたけど、根本的にはゲームでワカモノらしいお洒落がしたいっていう気持ちがあるんだろう。憧れとコンプレックスは表裏一体なのだ。

 なのでマトさんが抵抗を覚えない程度に、ヤングメンズなフレーバーを混ぜていこう。


 まずレシピ名【着物マント】で登録してあるゆったりした袖の外套には、パーカーテイストのフードを付ける。フロントはファスナーで閉じられるようにして、ブルゾンっぽい形に改造した。


 これを軽くて弾力性のある【ケロケロナイロン。・゚(゚⊃ω⊂゚)゚・。】で仕立てていくよ。

 表地はライトグレーで、裏地はブラック。ぱりっとした光沢のある生地だから、表地は光が当たるとちょっとシルバーっぽく見えるのがポイントだ。


 胸辺りには、【工芸】スキルで作った和紋のスタンプを押してみた。牡丹の図案と、松の図案、そこに適当なカッコつけ英文を添えている。

 ハンコはかすれ具合がいい味出すよね。【絵付け】スキルで図案を写すのとはまた違った表情が出て楽しい。


 フードを下ろしているときに見える襟の裏地には、スタッズを三つ四つ、飾り付けておこう。[竹取市場]で購入した、菱型と星型の金属びょうだ。



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