194日目 ビニール傘

ログイン194日目


「おおおおお~~~~っ」


 出来上がった傘を広げて、私は歓声を上げた。

 拠点ホームの客間にて、賢者ビスマルクの息子さんを迎えてのことである。

 別に私のほうはワールドマーケット上の取引で構わないって言ったんだけどね。ビス子さんが、どうしても直に届けて意見をもらいたいって言うもので。

 けど、これは正直期待以上だったよ。


 ぱっと見はほんと、シンプルなビニール傘なのね。クロスに柄はついておらず、ただただ透明でまっさら、フォルムにも特に個性はない。


 でもよく見ると、開いたときの受骨うけぼね――――傘骨の中心部――――が、レースみたいな繊細な透かし模様を描くようになってるの。

 外からじゃ分かり辛いんだけど、これは主に使い手自身がテンション上がるやつだね。開いたときに花咲くように模様が広がってくの、すっごく綺麗。


 そして持ち手部分が木製なのもレベルが高い。ビニール傘という無機質で現代的なアイテムを、鹿角バンビな私にさりげなーく寄せてくれてる感がある。


 さらに性能はというと。



【雷帝の美煮炒傘】

品質:★★★

傘型の護身具。

主な使用法:装備

効果:力+580

アビリティ:傘技

装着条件:力100~ 

消耗:870/870

習得可能スキル:グラウンドナッツ

(グラウンドナッツ:任意発動スキル 消費70~ 対象の[耐久]の内、装着効果・アビリティで加算されている数値を削る)



 すごおーい! これも期待値以上だよ。

 っていうか私、自作と公式以外でスキル付きのアイテム手に入れるの、初めてかも。ビス子さん、ミラクリ付き作れる製作者さんだったんだ。

 でも納得ではある。この傘といいショップに並んでいたアイテムといい、オリジナリティのある作品が多かったもんね。

 品質星三つでこの消耗値っていうのも凄いなあ。この人間違いなく生産のトッププレイヤーだよ。


 って、私は褒めたつもりだったんだけど、なぜか彼は慌てだす。


「いやですね、勿論ブティック様の注文であるからにして、最善は尽くしましたよ? ちゃんとソーダも使用して作っておりますとも。しかしですね如何せん、お受け取りした【オクトビニール】の品質の影響がどうしても出てしまいましてですね。いやその、ビニールのせいとかブティックさんのせいとかいうわけでは決してなく」

「え、あ、はい。分かってますよ、大丈夫です。クー君からも聞いてましたから。現状の【ビニルメイカー】ではこの品質が精一杯みたいなんですよね。さらに高品質のものを作るとしたら、機材の研究と改造を重ねないといけないので、恐らく大分時間がかかるだろうと……。だから元々そこは予想してましたし、結果予想以上に素晴らしい出来のものを作ってくださって、びっくりしてるところです」

「そ、そうですか。えーっと、クー君? びにるめいかー?」

「その、今回のビニールクロス、発明家の友人が作ってくれたものなんです。ビニルメイカーっていうのはビニールを作る機械のことで……なんか発明家の生産物って、本人が作るより機械にかけたほうが品質よくなるパターンが結構あるみたいなんですよね。私も詳しいことは知らないんですけど」

「はあ……」


 話しながら、心の中で首を傾げる私。うーん、なんかこの人、常に何か言いたいことがあるけど言えないみたいな、もどかしげな態度してるんだよね。

 最初出会ったときよりかは大分腰が低くなったとはいえ、やっぱりちょっととっつきにくいや。斜に構えていれど謙遜していれど本心はいつも隠れてるかんじで、何を考えているのか見えてこない。

 まあ、仕事の質は申し分ないから別にいいけどね。ただ一つ不満があるとすれば――――――。


「……ところでこのアイテム名って、何か意味があるんですか」


 ――――――『雷帝の美煮炒傘』……って、ダサ過ぎでしょ。なんでこんな素敵な傘作れる人がこんなアレなネーミングセンスなの。

『雷帝』なんて付けるくらいだから雷系の効果やスキルが付いてるのかと思いきや、そんなこともないし。傘からの雨繋がりで雷に結び付いたんかな。

 あと『美煮炒傘』て。美味しそう通り越して、なんかグロテスクなもの想像しちゃうのは私だけ?


 と、若干引いてる私とは対照的に、ビス子氏は一転、得意げになってはきはき喋りだす。


「ああ、それはですね、ブティックさんをイメージして名付けさせていただきました」

「えっ」

「ブティックさんの要望にお応えして心を込めてお作りしたのでね、名前も、ちゃんとお客様のことを考えて命名しましたよ。あ、因みにこれ、『美煮炒傘びにいるがさ』って読みます」

「いやまあさすがにそれは何となく分かりますけども……。煮るとか炒めるとか……えーっと、私ってなんか、料理好きそうにでも見えたんでしょうか」

「あははっ、料理ですかあブティックさん。上手いこと言いますねえ。確かにあなたは捕食者、料理する側ですもんね。まあ、大体そんなかんじですよ。煮るなり焼くなり、好きに使ってくださいってことです」

「ふ、ふーん」


 なるほどわからん。けど自信満々に語ってる辺り、遠回しに「名前変えられません?」って訴えてるのは全然伝わってないっぽい。

 しょうがないかあ。装着スロット見るたびにちょっぴりもやるくらいで見た目には全然影響ないから、まあいいんだけどさ。


 そんなこんなで、私は無事ビニール傘を手に入れられたのでした。




******




【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(個人用)】



[マ ユ]

やっっっっ……たぁぁぁぁぁ!

やったーやったー、やったよまこちゃん!

クリ様デート、勝ち取ったよ!!


[まことちゃん]

おお、そうなんだ

よかったねー(・ω・)


[まことちゃん]

いくら注ぎ込んだの?(・ω・)


[マ ユ]

え?


[マ ユ]

内緒(はあと)


[まことちゃん]

( ¯ω¯ )


[まことちゃん]

よく親に何も言われないよねー…


[マ ユ]

大丈夫、ちゃんと月のお小遣いとお年玉でやりくりしてるから!


[まことちゃん]

うーん( ˘ω˘ )


[マ ユ]

あああめっちゃ楽しみ~~~

お任せストーリーどんなんだろ~~


[まことちゃん]

鬱シナリオにめげてまたアカウント爆破とかやめてね


[マ ユ]

こら、不吉なこと言わない!


[マ ユ]

そっちは今日も仮想空間でお勉強?


[まことちゃん]

そだよー

きまくら。だと塾の課題が捗る捗る


[マ ユ]

まったく、おまえは嫌になるほど優秀な奴だよ

怠惰の老師なんだからちょっとはさぼりなさい


[まことちゃん]

きまくら。はさぼってるよ


[マ ユ]

折角私が誘ってあげたのに


[まことちゃん]

息抜きにミニゲームできるのはありがたい( ˘ω˘ )


[マ ユ]

あーあ

まこちゃんがきまくら。のイン時間ほとんど勉強に費やしてるだなんて、一体どこの誰が想像つくだろうね

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