39日目 静けさの丘(4)

 ハイスキルに対する後ろ髪引かれる気分を切り替えるためにも、さっさと次の本題――――――商いの件に移ることにする。

 今日は前回とはまた全然違うラインナップだ。初めて見る色んな素材も気になるんだけど、特に私の目を引いたのはこの三つのアイテム。



【ミシン】

品質:★★★

縫製に使うカラクリ道具。

主な使用法:裁縫


【仕立屋の大針】

品質:★★★

仕立屋専用の護身具。

主な使用法:装着

効果:力+50 集中+50

アビリティ:大針術

装着条件:職業仕立屋 力50~ 

消耗:200/200

習得可能スキル:タマドメ

(タマドメ:条件発動スキル 消費30 ≪大針≫アイテム使用時限定で発動 対象を糸で拘束し、ダメージを与える)


【カミキリの万華鏡】

???



 ミシンが欲しいのは言うまでもないね、もう即決で買いました。足踏み式のレトロなデザインがまた大変よろしい。

 お値段20万キマ。一般的に見て安いのか高いのかも謎だけど、今の私にとっちゃはした金ですことよ、おほほ。


 仕立屋の大針は生産道具ではなく、カテゴリが『装着』ってなってる。つまり遠征用の護身具ってことらしい。

 縫い針を剣サイズに大きくしたような見た目で、穴には糸――――というか太さ的には紐――――が通っている。その紐を腰に巻き付け、針の先は鞘に収めて携帯する形式のようだ。

 習得可能スキルも付いているし、何より仕立屋専用の装備ってところに惹かれるね。護身具は一応申し訳程度に【カッパーナイフ】を装備してたんだけど、これを機に替えちゃおっと。


 最後の万華鏡は、単純に値段が一番高くて目に留まったアイテムだ。こちらは50万8千キマの値が付いている。

 説明書きを見ても『???』とあるだけで、何に使うのか全く分からない。確かこういうのって、【鑑定】スキルがないと駄目なんだよね。


 けど前回マグダラさんの商品でかなり高かった【王立図書館の入館許可証】が革命イベントの引き金だったことを考えると、これも何かのキーアイテムの可能性がある。

 マグダラさんとは次いつ会えるか分からないし、それに多分会うたび商品のラインナップが変わるっぽいから、これも買っちゃお。


 他にもよさげな素材アイテムをぽちぽちやってたら、あら、出費が200万超えてたわ。

 でもまだ全然痛くないんよね。ミラクリ商売のお陰で金銭的にはヤバいぬるゲーになってて、何とも言えない背徳感が。

 多分これ、私のゲーム進行状況と収入のバランスが本来運営の意図してるものとは大分ずれてきてるんだろうねえ……。

 まあ余裕があるに越したことはない。どっかでおっきい買い物ができるチャンスを期待するとしよう。


 一頻りマグダラさんに関する用事も済んだところで、私はあることを思い出した。


 マグダラといえば革命イベント。革命イベントといえばギルトア。

 ギルトアといえば――――――そう、確か私、【ギルトアの知人】とかいう称号持ってるんだよね。


 称号は所持しているだけで効果が表れるものもあれば、どれか一つをセットすることにより、NPCの反応が変わったりイベントが発生したりもするらしい。

 ギルトア氏はマグダラさんにとってキーパーソンぽいし、ワンチャン何かあるかもしれない。

 そこでくだんの称号をセットし、もう一度彼女に話しかけると――――――。


「なに? ギルトアがあたしを探している?」


 ――――――おおっ、新しい反応。しかしマグダラさんはギルトアが誰なのか分からないようで、その名前をぶつぶつと繰り返しては頻りに首を傾げている。


「ギルトア……ギルトア……ぎる、と、……」


 そして彼女は不意に「うっ」と呻いてよろめいた。咄嗟に手を差し伸べる間もなく、彼女は頭を抱えてその場にうずくまってしまう。

 とても苦しそうだ。


「大丈夫ですか?」

「あたま、が……いた、っ、うっ……」


 えっと、こういうときってどうすればいいんだろ。状態異常に“頭痛”はなかったと思うんだけど、何か役に立つアイテムがあったっけ……?

 しかし、私がもたもたとインベントリに目を通している間に、マグダラさんは再び立ち上がった。仮面を付けているので顔色は分からないが、もう辛くはなさそうだ。


「……ふう。驚かせてすまんね。片頭痛ってやつかね、最近時々あるんだ。なに、こうやっていつも一瞬で治っちまうもんで、心配はいらないさ」


 彼女がそう言った刹那、「ぱりんっ」という硝子が砕けるような効果音が響いたのだけれど――――――。


「……それで、何の話だっけかえ?」


 ――――――その後現れたのは、はじめと変わらぬ『商品を見せて!』、『臨界の極意を教えて』といった選択肢。うーん、今のところは、何か変わったことが起こるでもないかんじ?


 それにしても、ギルトアさんにとってのマグダラさんはかなり大きな存在のようだけれど、対照的にマグダラさんはギルトアさんのことを覚えてもいないのかあ。

 っていうか思いだそうとすると頭痛が走るって、ゲームアニメあるあるの不吉なフラグだよね。一体二人の過去に何があったんだろ。


 まあ、マグダラさんとの会話はこの辺で切り上げるとするかな。


 丁度【静けさの丘】の終点でメモリア・ドア――――いわゆるセーブポイントがあったので、今日のところはここでプレイ終了にしよ。

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