107日目 オモチャ(表編)

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 それでは、本日は衣装セットに合わせる小物を作っていきましょーう。


 最初に作るのはこちら、【シルクハット】。これはね、黒い【二角牛の革】を使って、【裁縫】スキルでちゃちゃっと具現化しちゃう。

 勝負はこっから。おっし、スチパン風味にデコるぞ~。


 まずはマットなメタルっぽく塗装を施したほっそい布テープを、クラウンに二段、巻いていくよ。イメージは鉄板の継ぎ接ぎってかんじ?

 テープを接合部に見立てて、その上から等間隔で銀のカシメを打ち込んでいく。


 次に、【工芸】スキルで【作業ゴーグル】を作製。革と金属で作られた、これぞスチームパンクな形である。

 このゴーグルを、シルクハットのリボン部分に巻く。

 実用する気ゼロなのがばればれな、めっちゃただの飾りってかんじ。けどこれがカッコイイんだよね~。


 最後、クラウンの片側、レンズの脇辺りに、歯車や時針分針、文字盤といった、アンティークな時計パーツをデコレーション。よしよし、いいかんじなゴチャり具合だぞ。


 こういうの作ってるときつくづく思うゲームクラフトの素晴らしさが、【接着剤】の万能性である。


 今回のパーツだと特に歯車とか文字盤とか、元々布や革に接着する用に作られているわけではないからさ。且つ帽子などの丸みを帯びた面に金属部品を取り付けるというのは尚更難しく、リアル製作だと上手く付けられなかったり、その時付けられたとしても後で何かの拍子にぽろっと外れちゃったりと、色々気を遣うんだよね。

 一番確実なのは縫い付けるという方法だけど、糸を引っかける場所が存在しなかったり、縫い目が表に出ると美しくないパーツなんかもあるし。


 それがきまくら。だと接着剤でべしっと付けたものは、大抵そういう形のアイテムとして融合してくれるからさ。

 液が乾いた跡も何も存在していないかのような綺麗さだしで、地味な部分とはいえ、こういうところにストレス感じないのがめっちゃ助かるんですわ。


 とはいえ体感なんだけど、そんなふうに物理法則をスルーした作製法を取ると、消耗値が若干下がるっぽい。だから普段はなるべく多用は控えてるんだけど、この手のデザインってなるとどうしても頼らざるを得ないなあ。


 さて、次はブーツに取りかかろうかな。

 レシピは、パンフェスタ君の衣装でも活躍した【ワークブーツ】をチョイス。このデザイン、使いやすくて好きなんよね。


 基本の形は編み上げレースアップ式なんだけど、さらにその上からぶっとい茶色の革ベルトを三本、巻き付ける。金具の色は金色。

 めちゃくちゃ装着すんのめんどそう。けど、きまくら。は着脱機能で一発変身が可能ですんでね、幾らでも着辛い形にしてオーケーなのです。


 でね、厚底ソールの側面、つま先の小指辺りの部分に、金色の小さなボルト式鍋ネジを二、三、取り付けてみた。


 これね、例によって弟君提供のものなんだけど、元の形よりネジ部の長さを短くしてもらってるの。

 というのもソールの構造上、ここにネジを飾る場合、どうしたって裏からナットで挟み込んで~といった正規の取り付け方法が使えない。自然、先にも述べた接着法を用いることになるのだが、そうするとネジ部が長過ぎてさあ。

 ネジという素材のディテールが分かるよう螺旋の軸は幾らか残したいものの、あんまり長さがあるとバランス悪いし、さすがのきまくら。接着システムでもフォロー不可の判定受けちゃうかもしれないし。


 悩んだ私は、駄目元できーちゃんに相談を持ちかけることにした。「このネジ、同じ大きさでもっと短いのないかなあ」って。

 そしたら数時間も経たず、すぐに小包が届いた。開けると中には、私の望んだ半分くらいの長さのネジ――――――のみならず、三分の二ほどの長さ、四分の一ほどの長さ、逆に二倍の長さ、その各々の素材違いのネジなどが、みっしりと……。


 弟君が用意してくれたっぽいけど、最初にアイテムが送られてきたときといい、彼、用意周到というか完璧主義感凄いよね……。

 インベントリに並んだアイテム名の羅列から、そこはかとなく圧を感じるよ。「これだけあれば足りるやろ。まだなんか文句あんのか? あ?」って。

 ……いや、ありがたいけどね。


 ということで折角なので、半軸のネジと四分の一軸のネジ、長さの違うものを使ってデコることにした。ちょっとガラクタ感が増して、いいかんじ。


 さあ、小物作りもラストスパートだ。最後はスカートの上に斜めに装着する、飾りベルトを作製しよう。

 茶色い革のゴツいやつんなんだけど、ここに思いきって“ぬいぐるみ”、付けちゃいます。

 これが人間用ならこのまま完成でいいかなとも考えたんだけど、ドール用なのでね。ちょっと可愛い方向に振りきっちゃうことにする。


 一応事前にドールってどんなのがあるのかな~と調べたところ、女の子型っていうと顔が大きくて目のくりっとした三頭身幼児体型のが大半だったのよね。だから全体的に繊細だとか儚い系よりかは、キュートなイメージが強くって。


 ただ人間用サイズの衣装で足る大きさのドールっていうのは、検索頑張っても引っかかってこなかった。きーちゃんの言う通り、人気はトイ型ミディアム型に偏ってるらしい。

 もしこの三頭身体型ぐりっと目玉が人間サイズのドールにもそのまま適用されてたら、ちょっと怖い気がするんだけどどうなんだろ……と、そこだけが心配っちゃ心配。

 けどまあ、そこは依頼人の好みであり、私が口出せる分野でもないのでね。これでよしとしよう。


 土台とする型紙はこちら、【クマのぬいぐるみ】。リアルというよりキャラクターよりの、頭でっかちな可愛いやつだ。

 因みにぬいぐるみアイテムは【工芸】スキルと【裁縫】スキル、どっちでもいけるっぽい。

 素材は【ロイヤルモスの鱗粉】を使ってメタリックな質感にした、【二角牛の革】。元は茶色だったんだけど、加工を施すことにより銅のような鈍い輝きをだすことに成功したよ。

 ふふふ、これで金属加工に造詣の浅い私でも、なんちゃって発明ができるぞ。


 遠目で見ると重そうな銅製人形だけど、中身はただの綿なのでね、とっても軽いし触るとぷにぷになのだ。


 さらにメカっぽさを出すべく、頭部の中心を走る縫い目は糸ではなくファスナーを採用。ファスナーや他の縫い目の両脇にはカシメを並べて、板金の継ぎ接ぎ感を表現する。

 目は四分の一軸の鍋ネジを使った。銀色バッテンな無機質おメメは、キュートなデザインの中で退廃的な存在感を放っている。


 このぬいぐるみをドレッシーな衣装に上手く溶け込ませるため、背中に当たる土台部分にカーキのチュールやフリルを使ってわさわささせてみた。

 これらをベルトに縫い付けて、はい、完成。


 あっ、可愛い~~~~!


 要素多くて上手く纏まらないかも、なんて心配もあったんだけど、全部合わせてトルソーに着飾ってみたら、ばっちりもばっちり。テンション急上昇である。

 色や素材に渋みの効いた統一感があるからね。目に楽しくも落ち着いた印象があって、どのパーツもしっくりと馴染んでいる。

 これは私史上でもなかなかの自信作。と、鼻高々である。


 唯一惜しいのは、恐らく依頼人の性質上、この衣装を実際に着た等身大ドールを目にするのは叶わないだろうな~ってこと。

 けどま、いずれ廉価版を店に並べる予定なのでね。どこかのプレイヤーが着ているのを想像するだけでも、わくわくが止まらない。


 ではではこれにて、作業終了。



【スチームレディのゴーグルハット】

品質:★★★★

二角牛の革で作られた帽子。

主な使用法:装着

効果:フィールドギミック[砂塵]無効

消耗:340/340

セットボーナス:心属性のダメージを反射(中)


【スチームレディのブーツ】

品質:★★★★

二角牛の革で作られた靴。

主な使用法:装着

効果:---

消耗:---

セットボーナス:心属性のダメージを反射(中)


【スチームレディのコグマベルト】

品質:★★★★★

二角牛の革で作られた人形。

主な使用法:遊具

ギフト効果:絆上昇(大)

プレイ効果:絆上昇(中)

消耗:400/400

習得可能スキル:メリー・ゴー・ラウンド

セットボーナス:心属性のダメージを反射(中)

(メリー・ゴー・ラウンド:任意発動スキル 消費30~ 確率で対象を[眠り]状態にする+周囲の幻素を心属性に変換する(範囲・大))



 ありゃー。まーた効果内容が変なことになってるよ。


 けど、こういった謎現象にもある意味慣れてしまった。私の中で、「きまくら。クラフトでの異常=日常」って式が最早定番化している。

 だから然して慌てることもなく、さくっと検索に移ることに。これで答えが出ればすっきりしてめでたしめでたしだし、答えが出なくてもま、しゃーなし、何とかなるやろって思考順序が既に整っている。

 ……あれ、なんかこの考え方、老けてる? でもいちいち気にしてたらきりないしなー。


 そんなことをぽやぽや思いつつ『ギフト効果』、『プレイ効果』について調べていると、両方とも職業獣使いに関連したページに行き当たった。


 えー、ギフト効果は眷属獣にプレゼントした場合得られる効果、プレイ効果はその玩具おもちゃを使って一緒に遊んだときに得られる効果、とな?

 あ、そうか、『主な使用法:遊具』ってなってるように、ぬいぐるみって基本幻獣に対して使うアイテムなのか。

 小物ケースをポシェットに改造したときとおんなじだね。本来別の用途で使うはずだったものを無理矢理装着品として製作してるものだから、変な効果になってるわけか。


『効果の度合いは大体表示されている基準通りだが、各幻獣の好みや性格も影響するので確実なことは言えない』……はーん、テイマー界も複雑なんだねえ。


 ま、ベルトにしちゃってる以上、この衣装に関係するシステムではなさそう。

 けど普通にぬいぐるみアイテムとして作った廉価版をサブ商品として店にだすのは、悪くないかもねえ。

 自分で言うのも何だけど、このメタリッククマちゃん、独特な可愛さがあるもの。どちらかというと、女子より男子ウケを狙えそうかな。


 そんな商業戦略を頭の片隅で巡らせながら、私は完成品をきーちゃんに届けるべく郵便アプリを開いた。弟君、気に入ってくれるといいな~。

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