111日目 銀河坑道(4)

 やっと独りになれた。さあ張り切って採集作業するぞ、などと意気込んでいた私であったが、なかなかの苦戦を強いられていた。


 やっぱさすがの上級フィールドだけあって、敵対幻獣が強いのよ。もう強化アイテムやら回復アイテムやら、ごりごり削られてっちゃってさ。

 おまけに暗闇に乗じてのバックアタックが多いもので、びびりの私としては結構心臓にくる。

 モブの見た目も、巨大な蛾型幻獣【ロイヤルモス】やら、二足歩行のカエル型幻獣【ソナーフロッグ】やら、きもいのが多いんだよね。


 代わりにドロップ報酬や採集によるリターンが美味しいとかならまだやりがいあるんだけど、そこまででもなくって。

 というのも、ここ【銀河坑道】の目玉アイテムは何といっても鉱石系。【採集】や【採掘】スキルがないと入手できないパターンがほとんどなのだ。


 ただ、坑道を奥に進むと美しい地底湖が現れたので、水中特化のヴィティちゃんを連れて来てれば話はまた違ったかもしれない。或いは、採集や採掘に特化した別のサポートキャラとか。

 まあいずれにせよ事前にパーティ結束力を高めておく必要があるので、準備には数日かかりそうだけど。


 何はともあれ、観光地を堪能できたという意味では大方満足ではある。うっかり深層に到達してしまう前に、ここらで引き返そうかな。


 と、思ったはいいものの。三つの分岐を前にして考え込む。

 ……あれ、私、どこから来たっけ。


 いや、自分の方向音痴は自覚してるもので、ちゃんと迷子対策もしてきてるんだよ。地図とコンパスを持っているので坑道出口の方角は分かるし、【家守やもりの刻印】というアイテムを使って来た道に目印を付けることもしている。


 しかしこのフィールド、坑道という性質上、平面のみならず上下にも分かれて、複雑で立体的な地形を構成していてだね。


 帰りの方角が何となく分かるくらいじゃあ、行き止まりに当たってしまったり、同じ道をぐるぐるしてしまうこともしばしば。

 刻印で道中に付けた目印も、「まだ行ってない道を探検しよ~」などと適当にうろついてたらば、三つの分岐すべてに印が付いている、なんてことに……。


 うーん、帰り道の方角だけ見定めて掘削ドリルで直進、なんて荒業が使えればいいんだけど、そうはいかないからなあ。

 時たま出会う他のプレイヤーに聞いてみる、って手もあるにはある。けど恥ずかしいし手間取らせたくないし、それは最終手段だなあ。


 などと悪あがきしてる間に、ワールドミッション達成のアイコンが視界に灯った。内容は【銀河坑道の深層に到達する】………………やばいやばいやばい。

 少なくともこっちの道ではないってことね。じゃあとりあえずここは引き返そうと踵を返すんだけど、また分岐に突き当たって、またマーカーがしっちゃかめっちゃかに役を成さなくなっての、その繰り返し。


 これはいよいよ最終手段に頼らざるを得なくなってきたぞ。

 或いは、わざと自滅して強制送還ルートか。でもそれやるとサポートキャラの信頼度が落ちちゃうんだよね。

 ってか敵モブ強っ! 迷ってる内、また深層入り込んじゃったか。


 とそのとき、前方から暖かな橙色の光が漏れているのが見えた。鉱石のきらきらとした幻想的な輝きではなく、炎を感じさせる強く優しい光だ。

 そこにほっとするような感覚をおぼえて、自然、足が引き寄せられる。


 道の奥には何と、木製の扉があった。光は扉の小窓から漏れているようだ。

 傍にはシャベルやツルハシなどの作業道具が立てかけられており、扉の向こうからことこともそもそと生活音のようなものが聞こえてくる。

 NPCのお家、若しくは作業場か何かかな?


 私はノックしてから、躊躇わずにドアを開いた。いやまあ、ゲームなのでね。


 中にいたのは人間――――――ではなく、獣だった。私の二倍ほどの巨体を持つ彼(?)は、こちらに広い背中を晒して小さな椅子にお行儀よく腰かけている。

 灰色で、肌触りのよさそうな滑らかな毛並み。

 頭にはちっちゃい――――といっても人間からすると通常の大きさではあるのだけど――――黄色いヘルメットがちょこんと載ってる。付属してるライトは兎も角として、あのサイズじゃ絶対用を成さなそう。


 こっそりお邪魔して顔を覗き込めば、あ、やっぱり。モグラだ。


 何やら一心不乱に書き物をしているらしき彼に、話しかけるコマンドを使用してみる。顔を上げた彼はつぶらなおメメをぱちくりと瞬かせ、鉤爪のついた手をぱたぱたと動かした。


「もぐもぐ、もぐもぐもーぐもぐ!」


 そして再び作業に戻っていく。

 うむ、分からん。でも愛らしい。


 そのときとたた、とディルカがやって来た。何かと思えば、「通訳してあげよっか?」とのこと。

 そっか、ディルカはスキル【幻獣学】を持ってるから、幻獣の気持ちがある程度分かるのか。


「『今忙しいから後にして!』だってさ」


 ……さいですか。


 それはさておき、これでネームタグが表示できるようになったのでね。彼の頭に浮いたワードに目を走らせれば、【モグマKING】とのこと。

 うん、予想通り。この子はこのフィールドのキング幻獣みたいね。


 きまくら。の遠征フィールドって大抵、敵対幻獣のボスと、友好幻獣のボス、二種類いるらしいんだ。敵対ボスは名前の後に『BOSS』って付くのに対し、友好ボスはこの通り、『KING』って付くの。

 だからこの子も、攻撃したりしない限りは危険な存在ではない。


 キングに会うのは、何気これが初めてだなあ。条件を満たしていれば、会ったときに何かイベントが発生したりもするらしいね。

 私に対してはこの通り全く興味がないご様子なので、イベントのイの字も始まらないっぽいけど。

 

 あ、でも私一つだけ、キングに会った場合に試してみたいことがあったんだ。

 ってなわけで早速。




******




【きまくらゆーとぴあ。トークルーム(公式)・生産、販売について語る部屋】



[kousuke michinaga]

他職のアイテムをセットアップにするってやつ、サポートキャラ作のだとやっぱ無理っぽいね


[ナルティーク]

ジョブスキル取れってことか


[柿木明憲/かきぎあきのり]

全部アナログ自作してまえばええのよ


[ゆだこ]

さすがのBさんもジョブスキは取ってたはず


[谷口単]

サポート作の加工済素材、を取り入れたアイテムだったら大丈夫だった


[Nina Polyakova]

鍛冶のサポキャラ、エリンが最強って聞いたけど、ブライアンのほうが普通によくね?


[ドロップ産制覇する]

エリンはメフモも一緒に呼んで結束力高めてからが最強だから


[YTYT]

メフモ呼ぶと寧ろ俺が最強になる件


[えび小町]

お巡りさんこっちです

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