129日目 新・きまくらゆーとぴあ。(表編)
ログイン129日目
本日、私は祈るような思いできまくら。にログインした。
なぜなら今日、結果がでるからだ。一週間前のデートツアーでそれぞれのサーバー、そしてユーザーによって紡がれた数々のストーリー――――――その中から正史として残るエピソードがたった一つ、今日選ばれる。
投票は昨日で締め切られ、何なら時間的に、既に結果も発表されているはずだ。
ダイジェスト公開されたデートツアー動画を私も色々つまみ食いしたのだけれど、シエシャンが母親と再会するあのエンドに至ったのは、なんと私達の卓だけだった。
起爆装置の情報カードが二つともフェルケの手に渡らないこと、シエシャンパートナーのどちらかがコンタクト捜しのイベントを最後までやりきること――――見つけられなくてもオーケー、っていうか多分どうやっても見つからない仕様っぽいね――――、シエルとシャンタどちらにも犯人としての指名をさせないこと。
これらが条件だったようだ。
何やかんや指名を免れられたり、片方の起爆装置だけ作動したり、ってパターンは結構あったんだけど、ルフィナさんが最後に現れるあの展開は私達のとこだけだった。
だから私としては、是非とも自身の行き着いたエンディングが選ばれてほしいと強く思っている。勿論自分でも投票したよ。
でもね~、一番のライバルであろうと思しき竹中卓で紡がれたリル様完全勝利の流れがね~、めっちゃかっこよかったんだよね~。
あの卓はもう完全にリル様が主人公だった。
一癖も二癖もある令嬢達を説得し、友情を築き上げる展開は、うちのぐだぐだ調査&ぐだぐだ議論とは天と地の差でさ。天晴れとしか言いようがなかったよ、ほんと。
しかもそんな凛々しく賢く心優しいヒロインを全うしたのが、このゲーム切っての大人気キャラクターなわけだからね。正直なところ私は勝てる気がしていなかった。
勿論動画のコメントなど見るにシエシャン
けれど、相手取るはあのリル様。しかも何とうちらの卓では、そのリル様を犯人に指名しちゃってるからね。
ほんと、ここが唯一の反省点だと私は思っている。せめて投票先を別の誰かにしておけば、こんなファンと同時にアンチも増やすような展開にはならなかっただろうに。
いや、でもそれじゃあ悪巧みを共にする仲間を集めることは叶わなかった、か。あれ以上話し合ったり交渉を進めるには、とにかく時間も足らなかったし。
うーん悩ましい。そしてよくできたゲームバランスである。
そんなわけで、私はこの投票結果発表までの一週間、戦々恐々として過ごしてきた。今もひやひやしている。
本日、シエシャンの先行きが決まってしまった。さあ運命はいかに?
私は恐る恐る、【お知らせ】画面を開いた。
【ミステリーデートツアー“ユーザーの皆様で選ぶベストエンディング”投票結果発表】
●第一位:ルートD[親愛なるママへ]
息を詰め、目を瞠った。
何度も何度も文面に目を走らせる。そしてそれがシエルちゃん達の明るい未来を意味することを確信したのち、思わず小躍りステップを発動させた。
やっっっったああああ~~~~!!!!
シエルちゃんが……! バグキャラだの、害悪キャラだの、リル様の敵だのとあだ名されてきたあのシエルちゃんが!
散々好き勝手暗躍してリル様のことも陥れてなお!
掴んだんだ! 勝利を!
胸の内に、何とも形容しがたい感慨深さがじーんと沁み渡っていく。インディーズ時代から応援してきたアイドルのブトー館ライブを観るときの気持ちってこんなかんじかも、なんて思ったり。
丁度その時、カランコロンと、お店のほうでベルが鳴った。私がログインすると真っ先に来てくれるお客様は、
店頭に出て行くと、私と同じく嬉しそうに顔を輝かせるシエルちゃん、そしてシャンタちゃんの姿があった。
今日はスクールガールのような、ブラウスにネクタイ、プリーツスカートのお揃いコーデだ。仲良しな双子の様子に自然、顔がふやけちゃうね。
二人はカウンターまで真っ直ぐに歩いてきて、同じタイミングで身を乗り出してきた。
「聞いて! ビビア!」
「私達、貴族じゃなくなったの!」
予想だにしなかったその言葉に、私は「え……」と固まる。さっきまで晴れ渡っていた脳内お空が俄かに曇りだしたぞ。
貴族じゃなくなったってつまり、お家取り潰し……? まさか、大事には至らなかったとはいえ、双子が色々やらかしちゃったから!?
確かに、王宮内で混乱を招くようなカード忍ばせたり、勝手に花火打ち上げたり、何の罪もないリル様を犯人に仕立て上げたり……って、なかなかな大問題だけど、フィクションなんだしそこは甘く見てもよくない?
最後にはちゃんとごめんなさいして、リルもフェルケも事情を知って「それならまあ情状酌量の余地はある。でも次はないぞ」みたいな雰囲気になってたじゃん!
運営~、あんまりだよ~。リアルさを追求すべきところ、絶対間違えてるってえ~~。
けれど、今にも膝から崩れ落ちそうになる私を前にして、ツインズは顔を見合わせて笑う。
「言っておくけど、王様から取り潰しの命が下ったわけじゃないわよ」
「男爵位を返上したのはこちらから。パパが決めたの」
パパ……ってことは、エドヴィーシュ卿自ら爵位を退いたってこと? それってもしかして……。
「そう、ママのため。私とシエルのため」
「そして、私達家族みんなのためにね」
ツインズはふんわりとはにかむ。『ビビアが羨ましいわ』――――――かつてそう話した時の憂いは、二人の顔からすっきりと消え去っていた。
「貴族になってからというもの、お金は増えれど、私達家族の形はすっかり変わってしまったわ」
「パパはいつも忙しくて全然一緒にいてくれないし、ママは体と心を壊してメイドになっちゃうし!」
「あの花火を見て、それが私達の仕業だと知って、パパは心を打たれたんですって。パパったら可笑しいの。私達を叱りながら謝るのよ」
「『他人様の、それも王様のパーティーで何てことを!』、『おまえ達がそんなこと考えてるなんてパパは知らなかったよ。おまえ達のことを何も知らなかった自分が、パパは情けない』って」
「それでね、貴族であることをやめにしたんですって。『これからはもっと家族一緒にいることを大切にしよう。ママも、もうメイドでいる必要はない』ってね」
嬉しそうに語る二人の話に、私も幸せな気持ちで耳を傾ける。
そっかあ。シエシャンパパ、随分思いきった決断をしたんだね。
シエルちゃんもシャンタちゃんも、ずっと貴族は窮屈だって嫌がってたもんね。よかったねえ、よかったねえ。
「ま、勿論貴族じゃなくなったらなくなったで、色々大変だってことは分かってるわよ」
一転シエルちゃんは笑みを引っ込め、肩を竦めてリアルなことを言う。けどそんな言動からも、抑えきれない高揚が伝わってくる。
「貴族の付き合いが減ると仕事が減って、お金も少なくなるだろうし。それに私達を見下す人は、きっとどこにでもいるでしょうね」
「みんながみんな私達の事情を知ってるわけじゃないもの。今までは平民上がりだ、成金だって馬鹿にされてきたけど、これからは爵位を取り上げられたんだ、家格が下がって哀れだって、きっとそんなふうに言われるんでしょうね。つまらない人って、どこにでもいるものよ」
そうだね。それは本当にそう思う。
状況が変わって今までのストレスがなくなったとしても、今度はまた別の問題が浮上してくるものなんだよね。でも、それを分かっていて一歩前に踏み出すのと、分からないで期待だけ胸に足を踏み出すのとでは、全然違う。
二人は、強いよ。
そんな私の感動を汲み取ったかのように、シエルちゃんとシャンタちゃんは逞しく笑った。
「とはいえ、私達はもう自由よ」
「ママも一緒だし、パパも一緒」
「そして――――――」
言ってシエルちゃんが、両手で私の手を包む。
「――――――ビビア、私にはあなたがいる。こんなに心強いことはないわ」
はい、スクショ撮りまーす。
視点を三人称にしてえ、ちょっと俯瞰気味にしてえ。シエルちゃんと私、二人をメインにした写真も撮りたいし、にこにこ私達を眺めてるシャンタちゃんと一緒の写真も撮りたいな。
もうちょっとそのままでいてね!
なんてやってる内に、シエルちゃんは手を離し、姿勢を戻してしまった。
惜しい! あともう一枚撮りたかった!
それからシエルちゃんは明日開催されるお祭のお誘いを残し、帰って行った。これも舞踏会イベントなんだけど、デートツアーとは違ってこっちは国全体で開催されているもの――――つまりユーザーすべてが参加できるものなんだ。
さて、私もいつものルーチン作業に戻りますか。
服も作りたいし、素材も集めたいし、色んなキャラとのイベントも進めたいし、新たな遠征フィールドにも行ってみたい。勿論明日のイベントも超楽しみ。
やりたいことは沢山ある。
けどできることはいつだって、目の前にある物事から。
さあゲームを続けよう。淡々と、楽しんで、私のペースでね。
本編・完
______
これにて「職業、仕立屋。淡々と、VRMMO実況。」本編完結となります。
温かいコメント、レビューをくださった方々、美味しい餌を投げてくださった方々、最後まで読んでくださった方々にお礼申し上げます(^ω^)
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