第5話 その頃、救世主パーティーは……

※次回からは夜7:00~から、1話ずつの投稿になります!





 アルヴィンがパーティーを抜けた翌日。

救世主のガナードは滞在する町の食堂へ出向き、朝食をとることにした。

ドカッと席へ腰を落とすと、店員に「この店で一番うまい物を寄越せ」と乱暴な注文をふっかける。それからは、聖拳士のタイタスと魔導士のフェリオの三人は楽しげに談笑していた。


 話題は、昨日追放したアルヴィンについて。


「賢明な判断だったな、ガナード。あの弱さでは、この先どれだけ鍛錬を積もうが、激化する戦闘についてくることなど無理だろう。たとえ魔剣が使えたとしても、その力はたかが知れている」

「魔族六将のひとりを倒した聖騎士ロッドの愛弟子っていうくらいだから期待はしていたが……所詮、薄気味悪い魔剣使いなんて、クソの役にも立たなかったな」

「あんなのなら、その辺にいるスライムの方がまだ役に立ちそうね」

「おいおいフェリオ、そいつはさすがに言いすぎ――でもねぇか」

「「「ハハハハハッ!」」」


救世主パーティーのメンバーはアルヴィンをバカにし、笑いものにしていた。


「そういえば聞いたわよ、ガナード」 

「あ? 聞いたって、何を?」

「あなた……オーレンライト家とハイゼルフォード家、さらにはレイネス家の当主から、自分たちの娘を婚約者にしてほしいって書状が届いたんでしょう?」

「っ! 御三家が揃い踏みとは……」


 これにはタイタスも驚きを隠せなかった。

 

 オーレンライト。

 ハイゼルフォード。

 レイネス。


 いずれも、この大陸に住む者ならば必ず一度は耳にする大貴族の家名だ。


「確か、オーレンライトといえば、大陸でも随一の名門魔導士の一族……そしてハイゼフォード家の御令嬢も、確か神託により聖騎士に選ばれたって話だったな」

「レイネス家の令嬢に至っては、公爵家であり、私たちと同じ、救世主候補である精霊使いに選ばれているわ。……おまけに、御三家の令嬢はみんな凄い美人って話よ? ――で、ホントのところはどうなの? 本当に婚約の話が来たの?」


 フェリオは瞳を輝かせながら、ガナードに問う。

 自分のパーティーに、あの御三家の、しかもすべてから求婚された人物がいることは、彼女にとってもステータスとなるからだ。


「確かに、オーレンライト、ハイゼルフォード、レイネス――御三家の各当主から、そのような話はもらっている。あ、ちなみに、この話はすべて受けるつもりだ」

「断る理由はないでしょうしね。……でも、重婚は法律で禁止されているんでしょ?」

「そこは特例措置をとってもらうつもりだ」

「……国に重婚を認めさせるというのか?」

「当然だろう? ――俺は世界を救う救世主だぞ?」


 法律さえも変えてしまう――救世主の持つ特権の強大さに、タイタスは少し動揺しているようだった。

 だが、当のガナード自身は「それが当たり前だろ?」と鼻で笑う。


「戦闘力の高い剣士はいくらいても困らないし、魔法使いならどんな役目も器用にこなせるだろう……何より、どの子も可愛くてスタイル抜群って話だからな」

「ははは、おまえの場合は最後の情報だけが重要だろう?」

「くくく、バレちまったか」


 パーティーのメンバーは、ガナードの婚約者の話で盛り上がっていた。

 すると、そこへ近づくふたりの人物が。


「ガナード、来たわよ♪」

「ちーっす♪」

「お、来たな」


 親しげにガナードへ話しかけた男女。


 女の方は紫のショートカットに派手なメイク。そして、無駄に露出の多い服装をしていた。男の方は長い金髪に整った顔立ち。派手な装飾品を身にまとい、身のこなしや言葉遣いから、どこか軽薄な印象を受ける。


「ガナード、このふたりは?」


 タイタスの問いかけに、ガナードは「ふっ」と小さく笑ってから答えた。


「情報屋のミーシャと剣士のラッセだ。ふたりにはアルヴィンの穴を埋めてもらう。――と言っても、このふたりはあの魔剣使いとは比べ物にならないくらい優秀だけどな」

「へぇ……まあ、あいつよりは使えそうじゃない」

「その期待に応えてみせますよ」

「てか、魔剣使いとかただのハッタリっしょ! 魔王の剣を使えるヤツが、そんな能無しのボンクラなわけねぇし」

「頼もしい限りだな」


 ガナードはアルヴィンに代わって新たにミーシャとラッセのふたりをパーティーに加えた。


「あ、そうそう。早速なんだけど、いい情報があるわよ」

「ほう……教えてもらおうじゃないか」


 ガナードはすぐ横に立つミーシャの腰に手を添えると、グイッと強引に自分の方へと抱き寄せた。ミーシャも満更ではない様子だったので、タイタスとフェリオは「ああ、それでアルヴィンを追い出したのか」と、納得する。



「えぇ~? ちょっと強引すぎない?」

「いいからいいから。どうせ他の連中は気にしねぇよ。なあ?」


 ガナードがアルヴィンを追い出した最大の要因は、このミーシャだった。

 救世主パーティーに加われば、楽をして稼げると思ったミーシャは、ガナードの女好きを利用して近づき、こうして潜り込むことができた。彼女にとって、ガナードは金づるであり、世界を救おうという気などサラサラないのである。


「ガナードのヤツ……相変わらず見境がないな」

「まあ、いつものことだし」

「だな」

「うおぉ……マジ羨ましいっす!」

「ははっ! ラッセ、おまえも戦闘で活躍できたら――楽しませてやるぞ?」

「マジっすか! あざっす! 俺超がんばるっすよ!」


 下卑た笑いに包まれる、救世主パーティーが座るテーブル。

 だが、周囲の反応はそれとは対照的に冷ややかなものだった。


「あれが救世主パーティー? 嘘だろ?」

「品性の欠片もない……本当に神に選ばれた者たちなのか?」

「昔は強いモンスターを倒してくれてありがたいと思ったが、今となっちゃ、そのモンスターよりも厄介な連中になっちまったな」

「しっ! 聞かれたら命はないぞ……」


 最初は感謝の意を示していた人々だったが、救世主パーティーが増長していくにつれて徐々にその気持ちに陰りが生じていた。


 そのことに、ガナードたちは気づかない。


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