第219話 リシャール王子の腕前

 エルドゥーク王都へ到着。

 相変わらずここは凄く賑やかだなぁ――って、


「なんだか……前に来た時よりも人が多くないか?」

「そうですわね。もともと大陸でも屈指の人口を誇る場所ではありますが、それにしても今日は一段と賑やかな気がしますわ」

「いや、ここ最近の王都はこんな感じだぞ。短期間のうちにだいぶ人口が増えたようだ」

「なんでまた?」


 救世主パーティーは実質解散したも同然。

 そのような不安を残していると、政治に対して不信感が生まれ、人が離れるものだと思っていたが……


「すべてはリシャール第二王子のおかげらしいぞ」

「リシャール王子?」


 その名前……つい最近も耳にしたな。


『だが、その力は本物だ。――リシャール王子が注目するのも頷ける』


 以前、ハリエッタという女騎士が口にしていた。

 このエルドゥークの次期国王と目されている人物。

 どうやら、その評判は作り物というわけではなかったようだ。

 

「かなり大胆な経済政策を打ち出し、その中心人物として辣腕をふるっているらしい」

「そのようですわね。この王都の活気を見る限り、リシャール王子の能力は本物と言わざるを得ないでしょう」

「現国王はもうだいぶお年だからな。……しかし、こうなってくると兄であるブライス第一王子は面白くないだろうな」

「あっ」


 そうだよ。

 リシャール第二王子ってことは、上にまだもうひとりいるってことだ。


「通例ならば、兄であるブライス王子が王位継承第一位なんだが……この町の様子を見る限り、リシャール王子がだいぶリードしていると見て間違いないだろう。というより、ブライス王子が何をやっているのか、その話が全然伝わってこないんだよなぁ」

「まあ、兄だから弟より能力が上とは限りませんものね」

「下手に反抗心を持って、兄妹間でも王位継承争いが激化し、内戦なんてことにならないよう祈るしかないな」


 冗談半分に笑いながら言うザイケルさん。

 実際そうなる可能性は限りなくゼロに近いのだろうが……まったくないと言い切れないところが怖い。こうなってくると、魔王軍との戦いよりも厄介だぞ。


 そんなことを考えているうちに、俺たちは城へ到達。

 城門にたたずむ兵士に事情を説明しようとした時だった。


「そこで何をしている?」


 声をかけてきたのは、青い髪の女騎士だった。

 その名は、


「ハリエッタ?」

「なんだ。いつかの商人か。今日は何しに来た?」

「いや、実は――」


 その場に居合わせたハリエッタへ、俺たちがやってきた目的を伝える。


「魔人族……その話は本当なのか?」

「ああ」

「アルヴィンだけじゃない。俺もその場にいたんだ」


 俺だけじゃなく、騎士団にも顔の利くザイケルさんも必死に訴える。その様子で、話の内容が信憑性あるものだと感じたハリエッタは、


「分かった。今ならジェバルト騎士団長がいるはずだ。話してくるから、ここで待っていろ」

「! あ、ありがとう!」


 思ったよりもすんなり、ハリエッタは俺たちの願いを聞き入れてくれた。

 城内へと入っていく彼女を見送っていると、


「なんだか臭いますわ」


 ボソッとフラヴィアがそんなことを言う。


「臭うって……何が?」

「どうもあのハリエッタという女性……裏がありそうな気がして」

「何か、疑わしい点があるっていうのか?」

「いえ、女の勘ですわ」


 思わずズッコケる俺とザイケルさん。

 ……確かに、以前会った時よりもちょっと態度が軟化しているようにも思えるが……果たしてどうなのか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る