第140話 懸念
シェルニが俺たちの記憶も取り戻した。
その事実に、俺はもちろん、フラヴィア、レクシー、ケーニル――仲間のみんなが心から歓喜した。
シェルニが両親のことを思い出し、再会を喜び合っている姿を見られただけで、俺たちとしては満足だった。シェルニさえ幸せならば、と。
それが覆り、俺たちのことを思い出したのだ。喜ばないわけがない。シェルニも「忘れていしまっていてごめんなさい!」とひたすら泣いて謝って、「思い出せて本当に良かったですぅ!」と続けた。
いやいや、本当によかったよ。
――しかし、俺は喜びと同時に、ある懸念を抱いていた。
そう。
シェルニが俺たちの記憶を思い出したことで、新たな問題が浮上したのだった。
それについて、この後みんなで話し合わなければならないだろう。
◇◇◇
「シェルニを置いていく!?」
「声が大きいよ、レクシー」
ローグスク城では、俺たちの部屋がそれぞれ用意されていた。
が、昼間に思い浮かんだ懸念を解消するため、俺は三人をひとつの部屋に集め、話し合いを行った。
議題は――シェルニをこのままローグスク王国に置いていくかどうか。
まず、俺は置いていった方がいいと告げた。
それに対し、真っ先に反応したのはレクシーとケーニルだった。
「どうして!? せっかく私たちの記憶が戻ったのに!?」
「そ、そうだよ!」
「だが、このままあの子を一緒に連れていくのは……」
「お姫様ですものね……」
それに対し、俺とフラヴィアはここで静かな暮らしをしていった方がよいのではないかという意見を持っていた。
ローグスク王国はとてもいい国だ。
一部悪党はいたものの、それ以外は国王に忠誠を誓っており、国民もシェルニの帰還を心待ちにしているという。
その一方、俺たちの稼業は安定とは程遠い環境にあった。
今は順調だが、いつどこで荒れた道に変わるか分からない。
最近じゃ、魔族六将との戦いにも巻き込まれている。
シェルニはいつも楽しそうにしていたが……やはり、このままじゃまずいよな。
仮に、シェルニの身に何かあったとしたら……両親だけでなく、シェルニを慕うローグスクの国民に申し訳が立たない。フラヴィアは、そんな俺の心情を察してこちら側の立場になってくれたようだ。
「わたくしだって、実の妹のように可愛がっているシェルニさんと別れることになるのはとても辛いですわ……」
「俺だって、同じ気持ちだ」
「そ、それは……でも、シェルニの気持ちはどうなるの?」
……痛いところを突かれる。
そうなのだ。
今まで並べてきた物は、すべて俺たちの言い分――そこに、シェルニの気持ちはまったく反映されていない。
実際にシェルニがどうしたいのか、まだ聞いていなかった。
ここへ残るか。
俺たちと共に来るのか。
シェルニがここに残ると言えば、レクシーとケーニルも納得するだろう。
「アルヴィンさん……」
視線をこちらに向けるフラヴィア。
その潤んだ瞳が訴えること……俺はすぐに分かった。
「……そうだな。シェルニの話を聞こう」
黙って去ろうとも思っていたが、やっぱりそれはできない。
仲間として、これまでずっと一緒にいたんだ。
最後は、お互いに納得したうえで、最良の結論を出したい――三人の言葉を受けて、俺の考えはそう変わっていた。
それから、各々の部屋に戻り、夜を過ごすことになった。
俺も自室へ戻ろうとしたのだが、その時、部屋の扉を何者かがノックする。
「夜分遅くに失礼いたします」
コナーだった。
なんだってこんな夜中に来訪を……気になたった俺は部屋の扉を開け、訪ねてきたコナーを迎え入れた。
「どうしたんだ、こんな時間に」
「いえ、その……国王陛下がお会いになりたいそうで」
「陛下が?」
と、なると、やはりシェルニ絡みのことか。
「分かった。すぐに身支度を整えるから、そこでちょっと待っていてくれ」
俺はコナーにそう伝えると、着替えを開始した。
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