第139話 代償
三度目となるローグスク城来訪。
だが、以前とはメンツが異なる。
俺、レクシーに加えて、フラヴィアとケーニル。
……魔人族であるケーニルをローグスク国内へ入れるのには苦労したが、エルドゥークの御三家令嬢フラヴィアの存在が大きく、なんとかクリアした。
それと、今回はさらにもうひとり――
城内は騒然となった。
ある者は膝から崩れ落ち、ある者は歓喜の涙を流す。
行方不明となっていたシェルニ姫の帰還。
周りの使用人や兵士たちの反応から、シェルニがとても慕われていたのだと分かる。
シェルニは彼らの声に笑顔で応え、まっすぐ王の待つ部屋へと向かう。その足取りに淀みはない。シェルニは分かっているのだ――どこへ行けば、両親に会えるのか。
それは即ち――シェルニの記憶が完全に戻ったことを示していた。
やがて、俺たちは大きな扉のある部屋へと行き着き、周りを警護する兵によって開け放たれたその先へと歩を進めていく。
そう。
俺とレクシーが、国王に謁見したあの部屋だ。
「「シェルニ!」」
国王と王妃は涙を流してシェルニへと駆け寄り、抱きしめた。
シェルニは一切の抵抗を見せない。
表情に戸惑いはなく、シェルニ自身も涙を流していた。
「お父様……お母様……ただいま戻りました……」
そう告げた後、三人は抱き合ったまま泣き続けた。
しばらくすると、シェルニが俺たちの方へ視線を向けて、
「みなさん、本当にありがとうございました。この御恩は一生忘れません」
そう言った。
◇◇◇
しばらくの間、親子水入らずの時間を過ごさせてあげようと、俺たちは王の間から引きあげて、コナーの用意してくれた応接室でお茶を飲みながら待機していた。
「よかったね、シェルニ。ご両親に会えて」
「ローグスク王も大変お喜びになっていましたわ」
「この紅茶、おいしいね♪」
「…………」
女子三人は平静を装ってこそいるが、内心は複雑な心境だろう。
あの日――シェルニの記憶を取り戻すため、魔剣の力を使った。
結果としては成功と言っていい。
シェルニはローグスク王国の姫だったことや、王の座を狙うセドア大臣が騎士団の副団長と手を組んで自分を奴隷商へと引き渡したことを思い出した。
そして、
「あなたたちが……私を助けてくださったのですか?」
シェルニは、俺たちのことを覚えていなかった。
厳密に言うと、大臣の手によって奴隷商に引き渡されて以降の記憶がないのだ。恐らくその時に記憶消去の呪いをかけられたのだろう。
失われた過去の記憶を呼び覚ました代償として、その間に過ごした記憶が消されてしまう――恐れていたリスクが発動した形となった。
性格も、出会った頃に戻り、以前とは違って少し暗くなったようだ。
「……これで、よかったのかもな」
俺がボソッとそう呟くと、三人の視線が一斉に集まる。
「商人や冒険者って稼業は、決して安全なものとは言い切れないし、クエスト次第じゃ収入も安定しない。第一、成り行きとはいえ、魔族六将との戦闘もあったしな……あの子はここで静かに暮らしていた方がいいのかもしれない」
「アルヴィンさん……」
フラヴィアをはじめ、レクシーもケーニルも納得いっていないって感じだ。
しかし、それでも――
「大変です!」
辛気臭い流れになったと思ったら、その雰囲気を引き裂くようにコナーが応接室へと飛び込んでくる。
「ど、どうしたんだ?」
「シェ、シェルニ様が……」
「? シェルニがどうかしたんですの?」
「思い出したんですよ!」
「? 知っているわよ、それくらい。だからこの城に連れて来たんじゃない」
「お城のことじゃなくて! あなたたちのことを思い出したんです!」
「「「「!?」」」」
それは奇跡だった。
過去を思い出す代償として失った俺たちとの記憶を、シェルニは再び思い出したのだ。
「こうしちゃいられない! 行こう、みんな!」
俺の呼びかけに、フラヴィアもレクシーもケーニルも賛同する。
本当によかった……。
俺は人知れず、ホッと胸を撫で下ろすのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます