第85話 救世主VS魔族六将
アルヴィンたちがレクシーを落ち着かせ、その壮絶な過去を聞いている頃――
救世主パーティーはガナードを先頭に魔族六将のひとり――砂塵のデザンタが待ち構えていると思われる部屋へと入っていく。
とても広い空間だが、足元は相変わらず砂で埋め尽くされていた。見渡すと、小さな窓がいくつかあり、そこから入る日差しだけが光源となって室内を照らしている。
魔族六将のいる部屋にしては随分と簡素で静かな印象を受けた。
本来ならば多くの兵を引き連れて来るべきだった。
魔族六将と直接戦った経験がある者は少ない。
アルヴィンの師匠である聖騎士ロッドを含めて、ほんの数人だ。
圧倒的に情報量が少ない。
これから戦う砂塵のデザンタも、名前以外は何も分からない状況だった。そのため、もっと慎重にことを運び、万全を期する必要があった。
しかし、救世主パーティーのリーダーであるガナードはそれを怠った。
落ち込み始めた自身の評価を再び上昇させるため、すぐにでも手柄が欲しかった彼にはそこまでの判断ができなかった。
一方、こんな時にアドバイスを送るなりしてリーダーを助ける役割を持つメンバーのタイタスやフェリオはリーダーの言動にノータッチだった。
そもそも、ガナードが自分たちの助言をすんなり聞き入れるとは思えないし、何より今のガナードはひどく焦った心理状態にある。言ってみれば、いつも以上にこちらからの話に耳を傾けない状態にあったのであきらめていたのだ。
唯一、彼に協力的なのはその救世主という特別な立場に惹かれて彼と行動を共にすることとなったリュドミーラ・ハイゼルフォードくらいだろうか。
だが、そんな彼女も実戦経験は皆無に等しい。
あの二択の道だって、適当に選んだのがたまたま当たっただけだ。そんな彼女に的確なアドバイスが送れるはずもない。
ガナードが頼れるのはもはや聖剣のみ。
手にした聖剣は魔族やその配下であるモンスターの持つ独特の魔力を弱める効果があるとされ、これまで多くの功績を生み出してきた。
この聖剣さえあれば、魔族六将である砂塵のデザンタが相手でも勝てる。
そう信じて疑わなかった。
「どこにいやがる! 顔を見せろ!」
自分が聖剣持ちの救世主であることを改めて自覚したガナードは強気な態度でデザンタを挑発する。――と、
「よく来たな、救世主よ」
薄暗い空間の奥から、地を這うような低い声が飛んでくる。
「!? で、出たな!」
ガナードは聖剣を構え、デザンタを迎え撃とうとする。他の三人も、同じように武器を構えて臨戦態勢へと移行した。
「血気盛んだな……結構なことだ」
少し気だるそうにさえ感じるデザンタの口調。それに合わせるかのごとく、ゆっくりとこちらへ向かってくる足音が室内に響き渡った。
「おまえが……砂塵のデザンタか?」
「いかにも」
窓から入る光に、デザンタの姿が照らされてその全貌が明らかとなる。
砂塵のデザンタ――その風貌は噂で耳にしている魔族の特徴と合致している部分としていない部分が見られた。
まず、人間と同じように四肢があり、二本足で立っている。
そのシルエットから、最初はいわゆる一般的な魔族――人間に限りなく近いが、黒めに金色の瞳と紫色の肌と頭には角を持っているという感じだろうと推測したガナードたちだったが、全貌が明らかになるとその推測はまったくと誤りだったと気づく。
体長はおよそ四メートル。手足は短く、腹部が異常に膨らんでおり、頭部には小さな目らしき物がこちらを見据えている。事前に聞いていた、「人間に限りなく近い」容姿とはかけ離れていた。
その中でもっとも特徴的なのが頭部に生えた大きな角。
厳密にいえば、それは獲物を捕らえる時に使う強靭かつ巨大な顎なのだが、魔族の特徴として角が生えていることを認識しているガナードたちにはそう映った。
「まるで昆虫だな」
思ったよりも、魔族六将の外見から恐怖心などを感じない。
これならいける。
ガナードはそう確信し、先制攻撃を仕掛けた。
「おらぁ!」
聖剣の放つ輝きがガナードを包み込んだ――次の瞬間、
「ぐぅっ!?」
デザンタは胸部に深い傷を負い、緑色をした鮮血が飛び散る。
「へぇ……やるじゃない。私も負けていられないわね」
魔族六将相手に先手を取ったガナードを、リュドミーラは少し見直していた。
「ガナード……どうやら調子を取り戻したみたいだな」
「魔族六将もたいしたことなさそうだし、これなら思ったよりも楽に勝てそうね」
形勢が有利と見るや、タイタスとフェリオもヤル気になる。
救世主パーティーの四人は最高のコンディションで魔族六将・砂塵のデザンタとの戦いに挑んだ。
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