第297話 偵察

 俺とシェルニ、そしてレクシーとヒルダのエルフコンビを加えた四人は、状況確認のため偵察に出ることとなった。


 しかし、


「特に何もない……な」


 それがかえって不気味だった。

 魔王城周辺には誰もいない。

 そう――不自然なほどに誰もいないのだ。


「いくら魔王軍に自信があるからって、ここまで無防備にしていていいのかしら」

「それでもひとりの姿も見えないというのはおかしいですね」


 レクシーとヒルダは周囲の様子の異様さに警戒心を強めていた。一方、シェルニは表情を暗くし、目を忙しなく動かしている。どこから魔人族が襲いかかってくるか分からないからな。


「……これ以上は危険だな。目に見える範囲で危険がなかったとしても、ここは魔界だ。何かが起きる前にみんなと合流して――っ!?」


 戻ろうとみんなに提案しかけた時、一瞬だったが、強烈な魔力を感知する。俺以外にはシェルニがそれに気づいたようだ。


「近いな……」

「は、はい」

「えっ? 何が?」

「強力な魔力だ。恐らく……魔族六将クラス」

「! そ、そんな強い敵が近くに!?」

「ど、どうする?」


 ヒルダとレクシーは魔族六将という名に過敏な反応を示す。どちらもその力を目の当たりにしているからこその判断だろう。


 仮に、魔族六将がいるとするなら……氷雨のシューヴァルか焔掌のガルガレムのどちらか――ふたりの中で、どちらが潜んでいるのかと考えた時、俺の頭に浮かんだのはガルガレムの方だった。


 俺はまだ、焔掌のガルガレムと戦ったことはない。

 しかし、もうひとり……氷雨のシューヴァルとは剣を交えたことがある。

 同じ魔剣使いとして、ヤツと戦った時――その魔力の質をしっかり覚えているので、さっき感じた魔力がシューヴァルのものではないと断言できる。


 だとすれば、この近くに潜んでいるのは、


「焔掌のガルガレム、か」


 実力未知数の相手だ。

 半ば強引に戦いへと発展した幻影のファンディアの時とは違い、ここで退けばヤツとまみえることはない。

 ……だが、どうにも気になるのだ。

 さっき感じた魔力は、戦闘で生じたものではない。

 それに、強烈ではあったが、ほんの一瞬だけ感じたという点が妙に気になった。


「……すまない。少し様子を見てくる」

「えっ? 本気なの、アルヴィン!」

「ああ。みんなは先にブライス王子たちと合流してくれ」

「あっ! アルヴィン様!」


 何が起きるか分からない状況なら、単独でいた方が動きやすい。

 そう判断して、俺はひとりでさっきの魔力の発生場所へと向かった。



 魔王城近くにある湖のほとり。

 

「この辺りのはずなんだが……」


 茂みに身を隠しつつ、ヤツの居場所を探る。

 ここへ来て、魔人族はおろかモンスターとも遭遇していない――もしかしたらその謎が判明するかもしれない。そうなれば、俺たちのこれからの行動にも具体性を持たせることができる。


 そんなことを考えながら進むと、


「うっ!?」


 俺の目の前に、信じられない光景が飛び込んできた。

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