第298話 惨状
「こ、これは……」
それ以上、言葉が出てこなかった。
視線の先には――連合軍がいた。
しかし……立っている者はいない。
全員その場で横になっており、ピクリとも動かない。
死屍累々。
そんな言葉が脳裏をよぎった。
「ひどい……」
あまりにも凄惨な光景に、思わず吐き気がする。
――だが、よく見ると、倒れているのは人間だけではない。中には魔人族と思われる者の姿もあった。どうやらここで連合軍との激しい戦闘があり……互いに力尽きたというわけか。
兵の数からいって、恐らく魔王軍にとっても主力部隊であったのだろうと予測できる。となると、相当激しい戦闘が繰り広げられたってことになるが……もしそうだと仮定した時、ある疑問が生まれる。
「リシャール王子たちはどこに……?」
新たな救世主パーティーの姿がどこにもない。
リシャール王子に御三家の一角を担うハイゼルフォード家の令嬢リュドミーラ。そしてジェバルト騎士団長と女騎士ハリエッタ――いわゆる主戦力の姿が見えなかった。
すでに魔王城へ乗り込んでいるのか?
もう少し近くに行って様子を見よう。
そう思って歩きだした時――俺は気配を感じた。
明らかに人間のものではない魔力をまとった存在を。
「む?」
振り返ると、そこには人が倒れている。
それ自体は他の変わらない状況なのだが……俺の視線の先にある場所で倒れている人たちは、まるで誰かの手によってそこへ運ばれたという感じがする。
考えられるのは、誰かが手当てをするために運んだのか――と、俺は背後から迫る存在に気づき、再び振り返った。
遥か前方にたたずむ影。
その正体は魔人族――それも、身にまとう装備から一般兵ではなさそうだ。
もしかしたら、
「まさか……焔掌のガルガレム?」
近づいてくる魔人族に向かって、俺はそう告げる。
すると、その赤い髪をした魔人族は静かに頷いた。
魔族六将最後のひとり……焔掌のガルガレム。
六将の中でも魔王への忠誠心が高く、ケーニルがもっとも憧れたという魔人族だ。
やがてその姿がハッキリと分かるくらい距離が詰まり――ガルガレムの全身を見た俺は思わずギョッとした。
「おまえが……魔剣使いの……」
弱々しい口調で語るガルガレムはボロボロだった。
それになんというか……彼からはなぜか敵意を感じない。
弱っているからなのか、それとも――
「待ってくれ」
俺が魔剣を構えると、ガルガレムはそう言って両手をあげる。
全面降伏の意思表示?
命乞いか?
魔族六将らしからぬ行動だ。
――しかし、戦う意志がないというのはどうも本当らしい。
「一体……何があった?」
どうにも、ここで起きた事態は「人間VS魔人族」って分かりやすい構図でない気がしてならない。もっと複雑な事情が絡んでいるような……。
その真相を知るため、俺はガルガレムと対話を試みることにした。
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